サマーセールの事前検査で感じたこと(日高)
北海道市場において8月18日から開催されたサマーセールで、JRAは58頭の1歳馬を購買しました。このうちの45頭(牡20、牝25)が、27日から29日にかけて日高育成牧場に無事入厩してきました。今年については、牡馬は環境に慣れ次第騎乗馴致を開始し、牝馬はしばし昼夜放牧を行い、馴致開始まで成長を待つことになります。
2頭放牧で仲良く草を食む牡馬(手前2頭)。左はマンリーポッケの07(父キャプテンスティーヴ)、右はカズサヴァンベールの07(父アルカセット)。牡馬を多頭数で放牧すると、群れが落ち着くまで争いが続き、蹴り傷などが絶えません。群れ作りに要する危険性を極力排除するため小頭数で放牧し、翌週からの騎乗馴致に備えます。
走路内の放牧地に放牧され、大人しく調教馬を見つめる牝馬の群れ。はじめは調教馬に興味を示すものの、過度に入れ込み激走するような牝馬はあまりいません。走路で騎乗するBTC利用者にも理解があり、淡々と調教が進められます。
さて今回は、サマーセールに向けてJRAが事前に行った検査と、「コンサイナー」と呼ばれるセリ上場業務を請け負う育成者について、感じたことを書いてみたいと思います。
サマーセールは、上場頭数が1,000頭を超える日本最大規模の1歳馬セールです。1日に上場される頭数も250頭を超え、すべての馬を購買候補にしているJRAにとって、セリ当日のみでは十分な検査が行えません。そこで数年前から、日高育成牧場の育成スタッフが中心となり、セール1週間前から近隣の牧場を回り上場予定馬の検査を行っています。検査で訪れた牧場は、効率的に多頭数の検査を行うことを目的として、門別町から様似町までの54のコンサイナーとしました。ちょうどお盆の真最中だったのですが、我々の検査にご理解・ご協力をいただいた皆様のお蔭で、上場予定頭数1,273頭(上場頭数1,124頭)のうち624頭の事前検査が行えました。
ほぼすべての育成者が事前に測尺(馬の身長や体重を測定すること)を実施しており、きれいに磨き上げられた馬をじっくり検査させていただきました。多くの馬がいる中からわざわざセリ名簿の番号順に馬を出し、太陽光線の角度を考えて、馬の立ち姿を判断しやすいよう平坦に整地された検査場所を選んでくれる、といった「見る人が見やすいと感じる方法」を実践するコンサイナーの展示技術はかなり向上していると感じました。中には過去に患った病気の履歴や下肢部のX線写真を提示してくれる育成者もあり、馬格の大小や病歴の有無以上に、誠実さに立脚して正確な情報を提供することで得られる信頼は大きいものだと感じました。
整った環境の下、上場予定馬を展示する育成者(左)と検査を行うJRAスタッフ。
展示するにあたり、以前はハミをかませずに展示される馬が多く見られましたが、今回の検査では殆どの馬がチフニーと呼ばれるハート型のハミと革製の引き手を使っていました。常歩で歩様検査をする際のUターンは、自然で見やすいと言われている右回りのUターンが定着しています。引き馬では展示者の右側を馬が歩くため、左回りをすると馬が外に振られて後肢が外に流れてしまいます。そのため歩様検査でUターンをする際には右回りをするのが一般的です。また、現在でもトレセンや競馬場で多くの競走馬に対して行われている引き手を2本使う引き馬が、馬産地では遠い昔のことのように感じられます。
コンサイナーが管理する頭数は、過去の売却実績などにより預託申し込み頭数が変わるなか、核となる管理者が自身の判断で頭数を決定しています。前年の実績が良くて多くの依頼を受けたからといって急激に頭数を増やしすぎると、すべての馬に手が行き届かなくなることもあります。今回検査した中には頑なに自分の限度頭数にこだわり、高いレベルの管理を維持している方もおられました。管理頭数と管理人数とのバランスが大切だと思います。
競合しあうコンサイナーの中で、売却成績を上げるための様々な努力がみられます。例えば育成業者同士でグループを作り、インターネットでの情報配信や上場予定馬の写真カタログを作成し活発な販売促進を行うことなども、セール結果に影響しているようです。
今回、サマーセールの事前検査で多くのコンサイナーを見て回り、ポリシーをもった育成を行っている育成者が多くなってきたと感じました。特に、見る人が見やすいと感じられる展示方法や、馬をよく見せるための育成技術は数年前に比べて格段に進歩していると思います。
全体にレベルアップしているこの業界が、今後どのように日本の競馬産業に定着していくのか楽しみであり、私としても変化を見守っていきたいと思っています。
サマーセール当日の速歩展示。セリ運営の迅速化に伴いマイナーな展示手法になってきましたが、購買者にとっては健康な馬を選ぶ上での重要な情報源です。