キャンドル 競走馬への道 その4(宮崎)
昨年末はJRA育成馬であるセイウンワンダー号(父グラスワンダー)が朝日杯フューチュリティSに優勝するという大きなニュースがありました。JRA育成馬のGⅠ競走優勝は宮崎で育成したタムロチェリー号(01年・阪神ジュベナイルF)以来です。セイウンワンダー号は日高で育成した馬ですが、宮崎で育成に携わる我々にとっても大変励みになる出来事でした。現在宮崎で育成中の明け2歳馬24頭の中にも、GⅠ競走で優勝するかもしれない素材がいるはずであり、我々はその芽を摘むことのないよう、また少しでも勝利する可能性を高められるよう、日々試行錯誤しながらも張りきって育成に励んでいきます。
タムロチェリー号(父セクレト・01年阪神ジュベナイルF優勝)
さて、前々回の宮崎からの日誌で、「ビッグキャンドルの07(通称キャンドル・牝馬)」が入厩早々に馬房内休養となったことをお伝えしました。今回はその後のキャンドルの経過についてお知らせします。
シャワーを浴びて気持ちよさそうなキャンドル
9月9日、キャンドルは「右肩違和」と診断されました。症状としては右前肢を地面に着くときに痛がり、この肢の前方への展出が良くないというものでしたが、目立った外傷はありませんでした。このような場合、まずは蹄、球節、ヒザ(腕節)など下肢部の状態を確かめます。これらの部位に腫脹や帯熱、または触診による疼痛がみられる場合、骨折や骨瘤、腱や靭帯の損傷など比較的重傷である可能性も疑われ、必要に応じてレントゲンやエコー検査が実施されます。幸い、キャンドルにはそれらの異常はみあたりませんでした。検査の結果、肩から上腕の筋肉の一部に疼痛感があり、これらの筋肉の軽い炎症であると診断されました。
キャンドルに限らず育成馬たちは、少々痛くても放牧地では元気に走ってしまい、症状が悪化することがあります。そのため馬房内で休養し、鎮痛・消炎剤を投与することにしました。その後は痛みの軽減する度合いをみながら、鎮痛・消炎剤の投与量を減らし、少しずつ運動を課して、夜間放牧の集団に戻す適期を慎重に判断します。結局キャンドルは10日間の馬房内休養の後に6日間単独で昼間放牧を行い、そしてついに9月25日には夜間放牧の集団に戻されました。その後の経過はすこぶる順調で、本格的な騎乗馴致の開始となる10月16日を健康な状態で迎えることができました。以下、キャンドルの騎乗馴致の様子を写真で示すこととします。
10/22 (馴致5日目):鞍をつける前の腹帯馴致用として利用する「ローラー」を締めようとしているキャンドル。敏感なキャンドルは、ローラーの締めつけから逃れようとラウンドペン内を飛び回ることもありましたが、3回目となるこの日はだいぶ慣れがみられました。
10/23(馴致6日目):後方から「ドライビング」と呼ばれる方法で馬を操り、騎乗することなくハミ受けを教えます。この日の段階ではまだ補助者が馬の前方に付きますが、徐々に馬と1対1の関係に移行します。ゲートに近づき、通過する練習もこの時期から行います。もちろん雨の日にも馴致は続けられます。
10/30(馴致11日目):ドライビングでお尻や飛節に触れる調馬索(ロープ)をかなり嫌っていたキャンドルも、ずいぶん慣れて受け入れるようになりました。この日は実際に騎乗することとなる1,600m走路でドライビングを実施しました。コーンを置いてのスラローム走行も可能となり、ハミ受けも順調にできてきました。また同日、馬房内ではじめて人が跨り、記念すべき「初騎乗」を無難に終えました。この日の馬体重は408kg(9月入厩時より+21kg)でした。
11/12 (馴致18日目):14日目よりラウンドペン(丸馬場)内での騎乗を開始、16日目からは他馬と合流しての騎乗に慣れました。いよいよ明日からは500m馬場に入場するという段階まできました。
11/23 500m馬場で速歩・駈歩をそれぞれ1,000~1,500m程こなせるまでに成長しました。2頭目がキャンドルで先頭はサンドシャーディーの07(父:シルバーチャーム)。
年が明けて1月5日、キャンドルの近況です。この日は常歩3,000m、速歩1,300m、駈歩2,700mの調教メニューで、1,600m馬場でのラスト3FをF22秒のペースで走る調教を行いました。2頭目がキャンドルで先頭はトレヴィサンライズの07(父:ネオユニヴァース)。キャンドルの馴致時にみせた過敏さは騎乗後には解消し、素直で反応の良いところが目立ってきました。この日の馬体重は435kg(9月入厩時より+48kg)でした。