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バトンタッチ(日高)

 雪が多く寒さの厳しかった本年の冬も、そろそろ峠を超えたようです。225日夜から26日の昼にかけて本年初めての雨が降り、白く路面を覆っていた固く締まった雪も一気に解けてしまいました。その雨後の陽だまりに、春の訪れを告げる福寿草の花を見つけ、うきうきした気持ちにさせられました。

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・雪の多かった今年の冬ですが、毎年牧場内で一番に開花する陽だまりでは、いつもどおり可憐な福寿草の花が咲き始めました。

 育成馬達もここに来てぐんぐん成長してきています。まさに木の芽が萌え出でるように、馬体が膨らんでくるといった印象を受けます。与えられた調教メニューをこなす馬達の走りには力強さも加わってきています。

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    800m屋内トラックでの1列縦隊。ウォーミングアップを兼ねた1本目の駆歩。フレッシュな元気あふれる走りを見せる中で、しっかり一列で馬場の真ん中を走ることができるようになっています。先頭はオールウェイズグッドサンクスの08(牝:父オペラハウス

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2本目の主運動。ハロン22秒のペースで最後までペースを緩めることなく2周(1600m)を走ります。2列縦隊により、もっと走りたいという気持ちを喚起するとともに、ジッと持ったままで隊列のポジションを守ります。先頭左がエイシンマニッシュの08(牡:父グラスワンダー)、右はチャランダの08(牡:父チーフベアハート

卒業式、入学式にはまだ若干早いですが、競馬会は31日に定期人事異動を迎え、この日を境に毎年一部の職員が入れ替わります。若手騎乗者も含めて全てのセクションの者が対象ですが、新任地に赴き、入れ替わりに新しい顔ぶれが着任します。

この日誌を担当してきた私も、本年は異動の対象となり、フレッシュな次期担当者にバトンタッチです。

今回はその送別の宴で、私が職場の方たちに伝えた話のポイントを記して、執筆の締めとさせていただきたいと思います。

それは、「馬には“これでいい”ではなく“これがいい”の姿勢で取り組みましょう」ということです。前回の日誌で、本性として馬は「動きたくない動物」「安心して落ち着くところを求める動物」であると書きました。言わずもがな、これは人にも当てはまります。「楽をしたい、サボりたい」は人の本性でもあります。そういった性の中で、より良い馬づくりを通じて調査研究や技術開発、人材の養成を進める日高育成牧場では、「それでいい」ではなく「それがいい」の姿勢が求められると思っています。

「強い馬づくり」の取り組みに終着駅はありません。いくら科学でその頂(いただき)を目指し、感覚を研ぎ澄まして見極めようとしても次々に暗雲が立ち込め、さらに上の頂や目標が生まれてくるのがこの世界です。私も諸先輩の取り組んできた馬づくりを引き継ぎつつ、馬達から多くのことを学ばせてもらいました。その過程で「それでいい」と思ったこともしばしばです。自らそれではいけないと思えることが馬と違うところであり、人の素晴らしさであると思います。

次回からは、新しい感性と視点で「これがいい」という取り組みとその成果をこの誌面を通じて伝えてくれることと思います。