精神面のトレーニング(日高)
昨年末の大雪によって銀世界へと様変わりし、新年を迎えてからは朝の最低気温がマイナス10℃を下回る日も多く、本格的な冬を迎えています。新年といえば、1月の恒例行事となっているBTC育成調教技術者養成研修生の騎乗実習が本年も1月6日から始まりました。研修生17名は、4月11日に予定されている育成馬展示会までの約3ヶ月間、育成馬の騎乗実習を行います。育成馬の成長と同様に、若い研修生たちの著しい成長も非常に楽しみのひとつになります。
毎年恒例となっている3ヶ月間のBTC研修生(2番手の騎乗者)の実習が始まりました。先頭からアルカイックレディの09(牝 父:フジキセキ)、フジノバイオレットの09(牝 父:バゴ)、チャペルラバーの09(牝 父:タニノギムレット)、グリーンオリーヴの09(牝 父:アグネスデジタル)
厳しい寒さの中、育成馬の調教も徐々に本格化してきました。800m屋内トラックでは1列縦隊で2周駆歩(ハロン24秒まで)を行った後に、2頭併走で2周駆歩(ハロン22秒まで)の計3,200mの調教をベースに、週1~2回は800m屋内トラックでは1列縦隊で2周駆歩(ハロン24秒まで)を行った後に、坂路での調教(ハロン20秒まで)を実施しています。調教後も余裕があるように映っており、今後は馬のコンディションを見ながら、調教強度を上げていきたいと考えています。
併走での調教も安定してきており、調教後も余裕があるように映っています。先頭左からタイキフローラの09(牝 父:ケイムホーム)、シルクファビュラスの09(牝 父:ケイムホーム)、2番手左からアモリストの09(牝 父:スペシャルウィーク)、アルナーダの09(牝 父:マヤノトップガン)
さて、今回は精神面のトレーニングについて触れてみたいと思います。調教を進めていく上で考えなければならないことは、筋力や心肺機能を上昇させる“トレーニング効果”はもちろんのことですが、これとともに馬の“精神面を鍛えること”も非常に重要になります。
トレーニング効果に影響する要素としては、坂路調教に代表される調教コース、馬場素材や馬場の砂厚などのハード面と、走行タイム、走行距離、インターバルトレーニングの間隔などのソフト面が挙げられます。一般的に、これらのトレーニング効果に影響する要素は、調教を実施する上で最も重要と捉えられ、心拍数や乳酸値による評価方法も確立されています。
一方、精神面を鍛えること、つまり馬の能力を可能な限り発揮させることも競走馬にとって重要です。特に、我々が携わっているブレーキングから2歳を迎えるまでの時期には、基礎的な精神面を鍛えるトレーニングを行う必要があります。しかしながら、その方法についてはあまり触れられていません。“精神面を鍛える”と言葉で表現するのは簡単ですが、具体的にはどのようにすべきであるかというのが最大の課題です。
競馬そのものは馬の本能を利用した競技であるといわれていますが、実際は、本来、牧草を食べ群れで行動する馬を、個々の馬房で濃厚飼料を給餌し、人が騎乗できるように馴致して、さらに日々調教を行うことが広義での競馬であると認識しています。すなわち、競走馬というのは本来の生理状態と異なる飼い方をしなければならないために、非常にストレスが掛かっていることが想像されます。そのために、競走馬に携わる我々は、少しでも“ハッピー”になるような馬の管理を心掛けなければなりません。育成期において行えることは、人が騎乗することを許容させること、つまり、人を乗せた状態での“バランス”を習得させ、アクセル、ブレーキ、ハンドルの各種扶助を理解させること、さらに人をリーダーとして認識させ、人が要求することを少しでも理解させることであり、結果的にこれらのことが、“精神面を鍛える”ことにつながると考えています。
放牧地において自身のバランスで駆歩ができない馬は皆無ですが、人が騎乗した際に上手くバランスを取れるようになるまでにはある程度の時間が必要です。“頭を下げてカブったり”、“引っ掛かったり”、“左右どちらか一方が緊張したり”という行動は、バランスを取るための行動であるとも考えられます。そのために、騎乗馴致時には、馬に人を乗せてのバランスをどのようにして習得させるかが重要なポイントになります。具体的には、最初にサイドレーンを使用して馬の頭頚を一定の位置に保った状態での速歩で、人を乗せてのバランスを習得させると同時に、人を乗せてバランスを取るために必要な筋力を養成させます。そのバランスで速歩が維持できるようになってから、前進、減速、方向転換(開き手綱、および左右の単独脚)の扶助を理解させる必要があります。
騎乗馴致時には、馬にとって最もバランスが取りやすい速歩で、人を乗せてのバランスを習得させることに重点を置きます。ステファノシスの09(牡 父:マヤノトップガン)
速歩で人を乗せてのバランスが取れるようになってから、駆歩に移行することによって、騎乗者の扶助を理解しながら“真っ直ぐ走り”そして“折り合う”ことが少し容易になります。欧州では、騎乗馴致を終え、ハッキング程度のキャンターに慣れた後には、一列縦隊(距離1~2馬身)でのステディキャンター調教に移行する前に、7馬身の距離を取り、馬と折り合い、真っ直ぐ走らせるための調教、つまり騎乗者の指示に従わせる調教を一定期間、実施していたのを記憶しています。
騎乗者の扶助を理解しながら“真っ直ぐ走り”そして“折り合う”こと、つまり騎乗者の扶助の理解が“精神面を鍛える”ことにつながると考えています。この扶助を理解させるには、“プレッシャーオン・オフの原則”による馬へのアプローチが重要になります。日々の調教を行う上で重要なことは、何のためにこの調教を行っているのかを理解することであり、偶然ではなく、必然的に馬の能力を最大限発揮させられるように調教を行いたいと思っていますが、なかなか上手くいかない現実を実感しています。
エイダン・オブライエン厩舎では、初期馴致後、一列縦隊(距離1~2馬身)でのステディキャンター調教に移行する前に、騎乗者の指示に従わせるために7馬身の距離でのキャンター調教が一定期間行われていました。