6月に入り分娩シーズンも終わり「これで毎日ゆっくり眠れるぞ」と思ったら、今度は乾草作りが始まり・・・生産地に休みはありません(写真1)。特に今の時期注意しなくてはならないのが、今回紹介するロドコッカス感染症など子馬の病気です。
写真1.日高育成牧場での放牧風景
細菌やウイルスなどの病原体に対して無防備な状態で生まれた新生子馬は、初乳に含まれる「免疫グロブリン」を吸収することによって、感染を防御することが可能となります。この初乳から摂取した免疫グロブリンは、実は生後約1ヶ月でほぼ半減し、3ヶ月程度で消失してしまいます。一方、子馬自身の免疫グロブリンが十分に機能し始めるのは生後3ヶ月以降であるため、子馬の体内の免疫グロブリンの総量は6~9週齢で最も低くなります(図1)。そのため、この時期には感染症が発症しやすく、発咳や鼻漏、関節炎などに対する注意が必要となります。
図1.子馬の免疫グロブリン量
この時期の子馬がかかる病気の中でも、特に注意しなければならないのが「ロドコッカス感染症」です。この病気はRhodococcus equi.という細菌に感染することが原因で、主に肺炎を引き起こします。2~4ヶ月齢での発症が多いとされています。この病気にかかると、まず肺に小さな膿瘍が形成されるのですが、感染初期には顕著な症状が出ないことが多く、発熱(38.5~40.0℃)、膿性の鼻漏、発咳、努力性呼吸といった症状を認めた時には病状が進行してしまっている場合が多いです(写真2)。急性症例では、朝に異常を認め午後には死に至るなんていうくらい進行が早い場合があります。また、早期に発見でき治療を行ったとしても1ヶ月程度の抗生物質の投与が必要となることも珍しくありません。さらに、同一牧場において集団発生することも多いため、生産地において最も警戒しなくてはならない病気の一つです。肺炎以外にも腸炎や関節炎、眼のブドウ膜炎などを発症させることもありますが、肺炎発症時が最も重篤化しやすいと言われています。
写真2.ロドコッカス感染症の子馬に見られた鼻漏
この病原菌(Rhodococcus equi.)は土壌中に生息しており、子馬は汚染された土壌の粉塵を経口あるいは経気道で取り込むことで感染します。細胞性免疫が未発達な生後1~3週齢で感染しやすく、その後移行抗体が減少する2~4ヶ月齢で発症します。そのため、出生直後から3週齢までの子馬を放牧する小さなパドックが汚染されると、そのパドックを使用する子馬が次から次へと感染してしまうという悪循環に陥ってしまいます。一度汚染された土壌を消毒するのは非常に困難であり、確実な予防法はありません。そのため「早期発見」を心がけ、獣医師による気管洗浄液検査、肺の超音波検査およびエックス線検査によって診断し、早期に治療を行うことが最も現実的な対応となっています(写真3)。
写真3.肺の超音波検査風景
一方、この病原菌(Rhodococcus equi.)は感染した子馬が気管の分泌液とともに菌を飲み込むことで消化管を通じて糞便に含まれて排出されます。また、感染はしても発症はしない成馬も糞便中に菌を排出します。それらが土壌中に侵入し汚染するため、放牧地の糞便をこまめに拾うことが土壌の汚染を最小限にとどめるためには最も適した方法です。放牧地の糞便を拾うことはまた寄生虫の汚染予防にもなるので、積極的に取り組むべきでしょう。
現在JRAでは、この「ロドコッカス感染症」に関して、治療が必要な段階の見極めや有効な土壌の消毒方法などについて研究を重ねているところです。生産地から完全に撲滅することは難しい病気ですが、少しでも皆さんのお役に立てる研究成果が得られましたら、発表していきたいと思います。今後ともよろしくお願い致します。