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7月セール購買馬入厩(日高)

本年売却したJRA育成馬達は6月中旬から開始されたメイクデビューに続々と出走しています。元気な姿をTV画面で観戦することは、馴致段階から育成を行ってきた我々、育成牧場の職員にとって、楽しみであるとともに、多くの反省が生まれる時でもあります。本年売却したJRA育成馬は、825日現在、7頭が9勝、その内メイクデビュー勝ちが4頭、オープン競走が2勝(ダームドゥラック号・エイシンキンチェム号)と頑張ってくれています。

日高地方ではお盆を過ぎると夏が終わるといわれています。夏の日高地方の風物詩ともなっている1番牧草収穫は、8月初旬にようやく終えることができました(写真1)7月上旬は天候不順の影響により収穫することはできませんでしたが、7月下旬からの晴天によって比較的良好な牧草が収穫できました。牧草の刈取りから収穫までの期間は、夜中に雨の音が聞こえると目が覚めてしまうくらい天気が気になってしまいます。

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写真1:本年は天候に恵まれ、良好な牧草が収穫できました

さて、727日に、7月に行われたセレクトセール、および北海道セレクションセールの各1歳セールで購買した11頭(セレクト1頭、セレクション10頭)が日高育成牧場に入厩しました(写真2)。また、この日には日高育成牧場で生産したJRAホームブレッド3頭も繁殖厩舎から育成厩舎へと移動し、新たな門出をスタートしました。

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写真2:入厩時には購買馬と生産者やコンサイナーの方々との絆の深さを再認識することができます。

購買馬達は生産者あるいはコンサイナーの方々の立会いのもと、個体識別および馬体検査を実施した後にJRA育成馬となります。馬と別れる際の生産者あるいはコンサイナーの方々の表情を見ると、その絆の深さを再認識することができました。改めて身の引き締まる気持ちで育成を行わなければならないと思わずにはいられませんでした。

全馬の入厩時写真を撮影してから5頭以下のグループに分けて放牧を開始しました。セリに向けた個体管理が行われていた馬達は、思う存分に放牧地内を駆け回り、特に牡は新しい群れの中で“”我こそは”と強さをアピールし、群れの中での順位が決まるまでしばし争いが繰り返されます(写真3)。そのため、最初の放牧は怪我やアクシデントに心配させられます。しかし、この時期の昼夜放牧は、騎乗馴致開始までの間に成長を待つとともに、その馬本来の体型および気性に回帰させる期間として不可欠であると考えています。したがって、少々のアクシデントには目をつぶらなければなりません。実際、昼夜放牧を開始してから3日目までに、他馬に蹴られ外傷を負った馬が3頭ほど認められましたが、大事には至りませんでした。

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写真3.牝馬と異なり、牡馬は“我こそは”と競い合います。この光景は自己顕示欲を出し、見栄を張って生きている男性とダブって見えてしまいます。

新しい群れにしてから23日も経過すれば、群れは安定するのですが、7月から8月の中旬にかけての放牧で頭を悩ますのが吸血昆虫であるアブの発生です。日高育成牧場はアブの発生源となる沢地が多く、日中のアブは半端な数ではありません。そのため、日中に放牧されている馬は、草を食すというよりは、馬群は団子となりほとんど動かず、落ち着きなく尾を振り地団太を踏んでアブを追います。このようなことからも、入厩翌日から夜間に重点を置いた放牧に移行しています。

また、騎乗馴致開始までのこの時期に、ハミ受けのために口腔内のチェックをしておきます。まず、狼歯(いわゆる痩せ歯と呼ばれるもので、第1前臼歯の痕跡であり、萌芽しない馬もいます)が伸びていれば抜歯します(写真4)。これは調教が進むとハミ受けのトラブル原因となるためです(図1)。また、臼歯の辺縁が峻立していると口腔粘膜に傷害を与え、咀嚼やハミ受けに悪影響を与えるため歯鑢(しろ:歯を削るためのヤスリ)で削って滑らかにします。

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写真4.歯の処置専用の大きめな無口を付け、専用の器具で狼歯を抜歯します。

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1.前歯と奥歯の隙間の黒い●部位がハミの位置になります。Aが狼歯(手綱が引かれた際にハミとこの歯の間に唇が挟まり傷つけてしまうことがあります)であり、Bは犬歯です。犬歯は牡馬のみにあり、通常ハミ受けとは関係ありません。

気をつけなければならない子馬の病気~ロタウイルスによる下痢症について~(生産)

8月に入り暑い日が続いています。ここ日高育成牧場では、獣医・畜産学系の学部に在学中の大学生を対象に、大学の夏休み期間中「サマースクール」を実施しています。この試みは、馬に興味があるものの普段馬と接する機会が少ない学生に、牧場の作業や講義を通して実際に馬と触れ合ってもらおうというものです。毎年6月頃JRAのホームページ上で募集しますので、興味のある学生のみなさんは是非来年応募してください。

さて、多少時期を過ぎてしまった感じがありますが、前回に引き続き注意しなくてはならない子馬の病気のうち、今回はロタウイルスによる下痢症を紹介したいと思います。

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写真1.サマースクールの一風景(集放牧などの作業を実際に体験してもらっています)

 ロタウイルスの話をする前に、まず子馬の下痢の発症原因は細菌やウイルスだけではありません。生後10日前後に認められる“発情下痢”、人工乳の過剰摂取、飼料の過剰摂取、あるいは抗生物質による腸内細菌の変化など栄養および管理方法に起因する場合もあるため、獣医師に相談するなどして原因を明確にすることが重要です。ほとんどの下痢は軽症のまま治癒しますが、ロタウイルスなどに起因する場合には重度な下痢に移行することもあります。下痢の性状は、水様性、白色、血便に至るまで様々です。下痢は腸管内の細菌やウイルスを排除しようとする生理反応の一種であるため、下痢そのものを無理やり止める治療を行うよりも、下痢に伴う脱水症状を改善することおよび細菌の2次感染を予防するための抗生物質の投与などが一般的です。特に脱水は子馬の体力を奪うため、なるべく早期に治療を開始することが重要です。また、子馬は胃潰瘍を発症しやすく、発症すると胃穿孔といって胃に穴が開いて予後不良となる可能性も成馬と比べて圧倒的に高いため、予防のための投薬も必要です。そのほか、全ての下痢に共通する治療法として、肛門周辺の皮膚炎予防のための洗浄およびワセリンなどの軟膏の塗布が挙げられます。また、正常な腸内細菌の形成を促進する効果のあるラクトフェリンなどの生菌製剤の経口投与も効果的です。

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写真2.ラクトフェリン製剤(Foal Relief、岩崎清七商店)と経口投与器

 さて、本題のロタウイルスが原因の下痢ですが、子馬間で伝播し次々と感染するため、最も警戒しなくてはならない下痢症です。ロタウイルスによる下痢症は、生後直後から4ヶ月齢まで幅広い月齢の子馬に発症しますが、特に1ヶ月から3ヶ月齢に多く、発症した日齢が早いほど重篤化しやすいと言われています。感染あるいは不顕性感染(感染はしているが症状は出ていない状態)している子馬の糞便中にウイルスが含まれ、これが感染源となり他の子馬に伝播します。特に感染後1週間程度は高濃度のウイルスを下痢便中に排出していると言われており、注意が必要です。症状は急性の激しい下痢が特徴で、下痢は水様性で白色からやや褐色を帯びたものまで様々であり、細菌による2次感染を併発した場合には悪臭を伴います(写真3)。下痢以外には元気消沈および食欲の低下が認められ、重症例では発熱することもあります。

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写真3.ロタウイルスによる下痢

 JRA競走馬総合研究所・栃木支所の研究により、ロタウイルス感染症の診断はヒト用の簡易キット(ディップスティック・ロタ、栄研化学)で簡単に行えるようになりました(写真4)。糞便を少量採取し、このキットを用いれば数分で下痢の原因がロタウイルスによるものかそうでないか判定できます。生産牧場の皆様は獣医師を通して家畜保健衛生所(家保)で検査することになりますが、現在家保で使われているのもこのキットです。治療は、脱水が著しい場合には輸液処置が不可欠で、発熱している場合や生後2ヶ月齢未満の若齢馬では細菌による2次感染を予防する目的で抗生物質を投与しなくてはなりません。また、胃潰瘍を予防するための投薬も必要です。予防には、初乳中にロタウイルスに対する抗体が含まれるように、母馬にワクチン接種を行う方法があります。分娩予定日の2ヶ月前および1ヶ月前に計2回のワクチンを接種することにより、発症後の症状を大幅に緩和させることが可能になります。また、ロタウイルスによる下痢症を発症した子馬を取り扱う場合には、消毒可能なゴム製の長靴や使い捨ての手袋を使用し、触れた後は長靴を消毒し手袋を交換するなどの配慮が蔓延防止のため必要となります。なお、消毒にはビルコンなどの塩素系の消毒薬が有効です。厩舎の壁などに付着したウイルスは数ヶ月間生存すると言われているため、発生した場合は十分に洗浄し消毒する必要があります。

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写真4.ロタウイルス検出キット(陽性の場合、写真のように2本ラインが出ます)

 ロタウイルスによる下痢症は、適切な処置を行えば回復し、また他の子馬への伝播を防げる病気です。今後も子馬や繁殖牝馬の管理に役立つ情報を発信していけるよう努力して参りたいと思いますので、どうかよろしくお願い致します。

活躍馬情報(事務局)

先週の新潟競馬においてJRA育成馬エイシンキンチェム号が2歳オープン競走の“ダリア賞”に優勝しました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、本年のブリーズアップセールにて取引された馬です。

同馬の優勝により、2011JRAブリーズアップセールで取引された育成馬は、先週末(2開催終了時点)で7頭勝ちあがり、延べ9勝(内オープン:2競走含む)となりました。なお、同時点で本年売却育成馬82頭のうち41頭が出走しております(出走率50%)。

それでは、今後もJRA育成馬の活躍にご期待頂ければ幸いです!

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86日(土) 3回新潟競馬 7日目 9R】  

ダリア賞 (芝:1400m

エイシンキンチェム号(アルカイックレディの09 牝

父:フジキセキ  厩舎:高野 友和   (栗東)  

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活躍馬情報(事務局)

先週の新潟および小倉競馬においてJRA育成馬オペラダンシング号およびオウケンハナミズキ号が2歳未勝利戦に優勝しました。両馬は宮崎育成牧場で育成調教され、本年のブリーズアップセールにて取引された馬達です。

この2頭の優勝により、2011JRAブリーズアップセールで取引された育成馬のうち7頭(延べ8勝)が勝ちあがりました。なお、先週末現在で本年売却育成馬82頭のうち40頭が出走しております(出走率48.8%)。

それでは、今後もJRA育成馬の活躍にご期待頂ければ幸いです!

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730日(土) 3回新潟競馬 5日目 1R】  

2歳未勝利 (芝:1400m

オペラダンシング号(セイントリープレアの09 牡

父:オペラハウス  厩舎:尾形 充弘  (美浦) 

 

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731日(日) 4回小倉競馬 2日目 1R】 

2歳未勝利 (芝:1200m

オウケンハナミズキ号(デュプレの09 牝

父:バゴ  厩舎:牧浦 充徳  (栗東) 

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JRA育成馬が入厩しました(宮崎)

今年は全国的に暑い日が多くなっていますが、南国宮崎も例外ではありません。7月終盤ともなると気温は限りなく上昇し、鋭い日差しは容赦なく降り注ぎます。ミスト扇風機などを使用して馬の体調管理を十分行い、夏負けしないように気を使う日々が続きそうです。

さて話は変わりますが、2011JRAブリーズアップセール(425日、中山競馬場)で売却されたJRA育成馬が続々とデビューしています。宮崎で育成した馬は15頭がデビューし、そのうち3が勝ち上がりました(731日現在)。これからの更なる活躍を応援しています。

一方、宮崎育成牧場では来年のブリーズアップセールに上場予定の若駒たちが育成のスタートラインに立っています。先に開催されたセレクトセール・セレクションセールで購買した6頭(牡4頭、牝2頭)の1歳馬が、722日(金)に入厩しました。既に九州1歳市場で購買した育成馬が1頭入厩しているので、今年宮崎で育成する全24頭のうち7頭が揃ったことになります。

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馬運車から降りるズーナクアの10(牡馬、父:ダイワメジャー)。兄に重賞2勝のトウカイトリックがおり、血統的にも大いに期待できる馬です。

北海道 静内から南九州の宮崎育成牧場までの輸送は、23日にわたる長旅です。馬運車に乗った育成馬たちは2,000km以上の距離を約42時間、立ったままで過ごさなくてはなりません。今回はこの長旅の様子をお伝えしたいと思います。

720日(水)

セレクションセール翌日、宮崎に移動する6頭の育成馬は静内にある北海道市場に集まります。健康状態チェックと個体照合(マイクロチップの確認)を行ったのち、外傷予防のため輸送用肢巻きを装着します。この肢巻きは強く巻きすぎると屈腱部を圧迫してしまい、弱く巻くと輸送中にずれ落ちてしまうため、慎重に巻く必要があります。これらの準備が整ったら9頭積み馬運車に牡馬から積んでいきます。牝馬が前にいると牡馬は興奮して落ち着かないため、必ず牝馬が後ろに乗ります。馬たちは牧場から馬運車に乗って来ているので、ここで馬運車の「乗り換え」をして、12:00に北海道市場を出発しました。

 

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牧場から乗ってきた馬運車(写真上)から輸送用馬運車への乗り換え。馬間違えを防止するため必ずマイクロチップによる個体照合を実施します(写真下)。

輸送には獣医師を含む宮崎育成牧場の職員2名が付き添います。経路は、函館からフェリーに乗って青森に渡り、その後東北道北陸道中国道を通って九州へとひた走ります。輸送の大きな鍵を握るのが函館~青森間のフェリーです。馬を輸送する手段には車・飛行機・船などがありますが、馬は船輸送に最も弱いといわれています。フェリーが揺れると輸送熱(輸送が原因の発熱)を発症する馬や体調を崩す馬が多く出ます。そのため、フェリーを利用する輸送時には揺れの少ない大型フェリーを選び、少しでも換気のよい上層階に車を乗せています。今回は大型台風の影響もあってフェリーが大きく揺れたこともあり、下船後に輸送熱を発症する馬が出てしまいました。なお、この馬は直ちに抗生物質の投与を開始したこともあり、現在は元気に走り回っています。

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フェリーの乗船待ちをする馬運車。20:00発の大型フェリーに乗りました。

721日(木)

輸送開始からちょうど12時間後にあたる深夜0時に青森で下船し、本州をひたすら南下します。この頃になると元気のよかったやんちゃな育成馬たちにも疲れが出てきました。総輸送時間が42時間にも及ぶため、飼葉は車内で与えますが、車内で水をしっかり飲んで飼葉を残さず食べることが輸送中の元気のバロメーターといえます。夜21:30に宮島SA(広島県)に到着。ここを出ると、目的地の宮崎までは残り僅かです。

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車内で大人しくしているズーナクアの10。水はいつでも飲めるようにしてあります。

722日(金)

3:30 宮原SA(熊本県)に到着。輸送開始から36時間が過ぎた頃から疲労の色はさらに強まり、頭を水桶にもたれかけて休む馬も出てきます。脱水ならびに到着後の輸送熱発症を予防するため、疲労が顕著な馬にはビタミン剤と多めの補液(約4リットル)を行いました。その後九州道を走ること2時間、目的地である宮崎育成牧場に到着しました。

以上が今回の輸送の様子です。到着した育成馬は、馬伝染性貧血検査用の採血とアナボリックステロイド検査用の採尿、さらに再度の個体照合を実施します。涼しい北海道から蒸し暑い宮崎に来て、すぐ横を電車が走る新しい環境に驚きながらも自分の馬房でしっかり飼葉を食べる育成馬たちはとても逞しく見えます。

午後には短時間の集団放牧を行いました。はじめて合流する馬同士とあって、怪我が発生しやすい時です。特に牡馬は、順位付けがなされるまで走り回って蹴りあい、立ち上がって「相撲をとる」ことは避けられません。リスクはありますが、騎乗馴致までの期間に青草をたっぷり食べることで肉体の成長を促し、群れで適度な運動をすることで基礎体力が養成されることを見込み集団で放牧しています。

心配して見守る我々の気持ちなど知る由もなく、今年の馬たちも例年以上に元気に走り回りました。今日から来年のブリーズアップセールまでの期間、力強く成長する日々を楽しみながら彼らを毎日見守っていきたいと思います。

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元気に放牧地を駆け巡るロマンスビコーの10(写真上、牡馬、父:シンボリクリスエス)とカクテルの10(写真下、牡馬、父:新種牡馬アルデバランⅡ)