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気をつけなければならない子馬の病気~ロタウイルスによる下痢症について~(生産)

8月に入り暑い日が続いています。ここ日高育成牧場では、獣医・畜産学系の学部に在学中の大学生を対象に、大学の夏休み期間中「サマースクール」を実施しています。この試みは、馬に興味があるものの普段馬と接する機会が少ない学生に、牧場の作業や講義を通して実際に馬と触れ合ってもらおうというものです。毎年6月頃JRAのホームページ上で募集しますので、興味のある学生のみなさんは是非来年応募してください。

さて、多少時期を過ぎてしまった感じがありますが、前回に引き続き注意しなくてはならない子馬の病気のうち、今回はロタウイルスによる下痢症を紹介したいと思います。

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写真1.サマースクールの一風景(集放牧などの作業を実際に体験してもらっています)

 ロタウイルスの話をする前に、まず子馬の下痢の発症原因は細菌やウイルスだけではありません。生後10日前後に認められる“発情下痢”、人工乳の過剰摂取、飼料の過剰摂取、あるいは抗生物質による腸内細菌の変化など栄養および管理方法に起因する場合もあるため、獣医師に相談するなどして原因を明確にすることが重要です。ほとんどの下痢は軽症のまま治癒しますが、ロタウイルスなどに起因する場合には重度な下痢に移行することもあります。下痢の性状は、水様性、白色、血便に至るまで様々です。下痢は腸管内の細菌やウイルスを排除しようとする生理反応の一種であるため、下痢そのものを無理やり止める治療を行うよりも、下痢に伴う脱水症状を改善することおよび細菌の2次感染を予防するための抗生物質の投与などが一般的です。特に脱水は子馬の体力を奪うため、なるべく早期に治療を開始することが重要です。また、子馬は胃潰瘍を発症しやすく、発症すると胃穿孔といって胃に穴が開いて予後不良となる可能性も成馬と比べて圧倒的に高いため、予防のための投薬も必要です。そのほか、全ての下痢に共通する治療法として、肛門周辺の皮膚炎予防のための洗浄およびワセリンなどの軟膏の塗布が挙げられます。また、正常な腸内細菌の形成を促進する効果のあるラクトフェリンなどの生菌製剤の経口投与も効果的です。

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写真2.ラクトフェリン製剤(Foal Relief、岩崎清七商店)と経口投与器

 さて、本題のロタウイルスが原因の下痢ですが、子馬間で伝播し次々と感染するため、最も警戒しなくてはならない下痢症です。ロタウイルスによる下痢症は、生後直後から4ヶ月齢まで幅広い月齢の子馬に発症しますが、特に1ヶ月から3ヶ月齢に多く、発症した日齢が早いほど重篤化しやすいと言われています。感染あるいは不顕性感染(感染はしているが症状は出ていない状態)している子馬の糞便中にウイルスが含まれ、これが感染源となり他の子馬に伝播します。特に感染後1週間程度は高濃度のウイルスを下痢便中に排出していると言われており、注意が必要です。症状は急性の激しい下痢が特徴で、下痢は水様性で白色からやや褐色を帯びたものまで様々であり、細菌による2次感染を併発した場合には悪臭を伴います(写真3)。下痢以外には元気消沈および食欲の低下が認められ、重症例では発熱することもあります。

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写真3.ロタウイルスによる下痢

 JRA競走馬総合研究所・栃木支所の研究により、ロタウイルス感染症の診断はヒト用の簡易キット(ディップスティック・ロタ、栄研化学)で簡単に行えるようになりました(写真4)。糞便を少量採取し、このキットを用いれば数分で下痢の原因がロタウイルスによるものかそうでないか判定できます。生産牧場の皆様は獣医師を通して家畜保健衛生所(家保)で検査することになりますが、現在家保で使われているのもこのキットです。治療は、脱水が著しい場合には輸液処置が不可欠で、発熱している場合や生後2ヶ月齢未満の若齢馬では細菌による2次感染を予防する目的で抗生物質を投与しなくてはなりません。また、胃潰瘍を予防するための投薬も必要です。予防には、初乳中にロタウイルスに対する抗体が含まれるように、母馬にワクチン接種を行う方法があります。分娩予定日の2ヶ月前および1ヶ月前に計2回のワクチンを接種することにより、発症後の症状を大幅に緩和させることが可能になります。また、ロタウイルスによる下痢症を発症した子馬を取り扱う場合には、消毒可能なゴム製の長靴や使い捨ての手袋を使用し、触れた後は長靴を消毒し手袋を交換するなどの配慮が蔓延防止のため必要となります。なお、消毒にはビルコンなどの塩素系の消毒薬が有効です。厩舎の壁などに付着したウイルスは数ヶ月間生存すると言われているため、発生した場合は十分に洗浄し消毒する必要があります。

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写真4.ロタウイルス検出キット(陽性の場合、写真のように2本ラインが出ます)

 ロタウイルスによる下痢症は、適切な処置を行えば回復し、また他の子馬への伝播を防げる病気です。今後も子馬や繁殖牝馬の管理に役立つ情報を発信していけるよう努力して参りたいと思いますので、どうかよろしくお願い致します。