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当歳馬の離乳について(生産)

 アブなどの吸血昆虫もいなくなり、すっかり秋めいた放牧地の馬たちは快適そうです。まさに「天高く、馬肥ゆる秋」といったところでしょうか(写真1)。ここ日高育成牧場では9月の中旬までに当歳馬の離乳が終わりました。今回はこの「離乳」についてお話したいと思います。

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写真1.離乳が終わり、当歳馬同士のみで昼夜放牧を実施しています。

 まず、離乳するためには、子馬が「心」と「体」両方の面で十分成長していることが重要です。「心」とは精神面のことで、子馬が母馬から離れてもストレスを感じなくなっているかどうかということです。過去に昼夜放牧を実施している母子間の距離について調査した結果、3週齢までは平均5m以内に留まっていますが、それ以降は徐々に距離が広がり、約15週齢になると平均15m程度に達し、それ以降はほとんど変化しないことがわかっています(図1)。一方、同じ放牧地にいる子馬同士の距離は、4週齢まではお互いあまり近寄らないが、16週齢以降には平均40m程度に達し、それ以降はほとんど変化しません(図2)。以上から、1516週齢になると精神的に安定し、母馬から離れ子馬同士の群れでも大丈夫になると考えられます。

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1.昼夜放牧を実施している母子間の距離

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2.同じ放牧地にいる子馬同士の距離

 「体」の面では、子馬が母乳に頼らなくても発育に必要な栄養を飼料から摂取できるかどうかということが目安になります。子馬は出生後しばらくは母乳からの栄養のみで成長できますが、約2ヶ月齢から徐々に母乳からの栄養供給が減少するためクリープフィードと呼ばれる離乳食を与える必要が出てきます。離乳前には発育に必要な1~1.5kgの飼料を自ら摂取できるようになっていなくてはなりません。この養分要求量を満たす飼料を子馬が摂取できるようになる時期は4ヶ月齢前後と言われています。

 以上、「心」と「体」と両方の面から子馬の成長を考えた場合、離乳の時期は早くても「4ヶ月齢以降」と考えなくてはなりません。また、成長面から考えた場合には、体重が「220kg以上」であることも目安となると言われており、これを考慮すると「56ヶ月齢」が離乳の適期と言えます。さらに、「7月中旬から8月中旬まで」は気温が高く、アブなどの吸血昆虫が多いため、離乳後のストレスを考慮するとこの時期を避け「8月下旬以降」の離乳が推奨されます。

・離乳時期の目安

    56ヶ月齢(早くても4ヶ月齢以降)

    体重220kg

    11.5kgの飼料を摂取できる

    8月下旬以降(吸血昆虫がいない)

 以前は離乳といえば母馬の飼育環境は変更せずに子馬を離れた場所に移動するという方法が一般的でした。この方法では子馬にとって非常に大きなストレスがかかり、離乳直後には子馬の体重が大きく減少し、減った体重が1週間程度回復しないなんていうこともしばしば見受けられました。近年は離乳後に子馬にかかるストレスを減少させるため、原則的に子馬の飼育環境を変更せずに母馬を移動させるやり方が推奨されています。この方法は「間引き法」と呼ばれ、2段階のステップを踏んで行います。具体的には例えば6組の親子が同一の放牧地にいると仮定すると、まず最初に3頭の母馬だけを移動させ(間引き)ます。すると当然母馬がいなくなった3頭の子馬はさびしくて鳴きますが、残り3組の親子が平然と過ごしているため、極度のパニック状態には至らず、そのうち落ち着きます。この時、残す方の母馬には他の子馬に対しても寛容な穏やかな気性の繁殖牝馬を選ぶことがコツです。そして23週間が経ち、群れが落ち着いたところで残りの3組の母馬を移動させます。すると今度は今回母馬がいなくなった3頭の子馬が騒ぎますが、前回離乳した3頭が落ち着いているためパニックには陥りません。このように1つの群れで2段階に母馬を間引いて離乳させる「間引き法」を実施すると子馬にかかるストレスを軽減することができます。日高育成牧場でもこの「間引き法」を実践しています(写真2)。

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写真2.「間引き法」による離乳を行った翌日。真ん中の2頭の母馬を間引きました。

 母馬と離れ離れになった離乳後は、群れで行動する馬という動物の性質を考えると、なるべく他の子馬と一緒に群れで行動させることが推奨されます。十分な広さの放牧地があれば昼夜放牧を行って馬房で過ごす時間をなるべく短縮するのが理想ですが、その場合はもちろん離乳直後から昼夜放牧を開始するのではなく離乳前から昼夜放牧に慣らしておかなくてはなりません。もし昼間放牧しかできない場合は、離乳した子馬2頭を1つの馬房に収容する「馬房のシェア」という方法もあります。

 以上、離乳とは子馬にとって非常にストレスのかかることには間違いはなく、ストレスを軽減するためには「群れで行動する」という馬本来の性質を良く考えた管理が重要になります。

・離乳による子馬のストレス軽減のコツ

    子馬の飼育環境は変化させず、母馬を移動する

    1つの群れの母馬を2週間間隔で2回に分けて「間引く」

    離乳後の子馬は、昼夜放牧や馬房のシェアによってなるべく群れで過ごさせる

最後に、離乳後の注意点です。ストレスがかかる子馬の健康状態に注意するのはもちろんですが、急に授乳をしなくて良くなった母馬の「乳房炎」にも注意が必要です(写真3)。昼夜放牧の場合は自然と運動量が確保されるためそれほど発症しないようですが、昼間放牧をしている馬、特に離乳を機に昼夜放牧から昼間放牧に切り替えた馬は発症しやすくなります。症状は乳房が張り触ると嫌がる、後肢の歩様がおかしくなるなどです。発症した場合、抗生剤の投与など治療が必要になります。

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写真3.離乳後は母馬の乳房炎に注意。

今回は主に日高育成牧場で実践している「離乳」についてお話しましたが、生産者の皆さんは「当歳セールの前に離乳を終えておきたい」「1歳セールが終わらないと馬房が空かない」など様々な事情があることと思います。今回の話を基本に、それぞれの牧場に合ったやり方を見つけていただけましたら、幸いです。