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ブリーズアップセール上場番号が決定しました(事務局)

2012JRAブリーズアップセールは、来たる平成24年4月24日(火)に実施されます。このたび、セール上場予定馬の上場番号が決定いたしました。詳細については、下記ページをご覧ください。

 また、馬主・調教師の皆様には、3月上旬に『売却馬名簿』を発送する予定となっております。JRA育成馬サイトにおいて、『売却馬名簿』の内容はご覧いただけます。

 JRA育成馬サイト(JRAブリーズアップセール) http://www.jra.go.jp/training/bus.html

 JBISSearch (ブリーズアップセール関連ページ)http://www.jbis.or.jp/seri/2012/12O1/sale/

 

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当歳から1歳にかけての厳冬期の管理について(生産)

2月に入り、生産地はまさに分娩シーズンに突入したところです。ここ日高育成牧場でも、今月下旬に2頭のホームブレッドの出生を予定しております(今年全体で8頭生まれる予定です)。JRAで行っている分娩前後の対応につきましては、昨年の本ブログにて紹介しておりますので、ぜひ参考にしていただけましたら幸いです。

   

  

 「日高育成牧場での分娩前後の対応」

 https://blog.jra.jp/ikusei/2011/05/post-d30d.html

    

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  【写真1】 放牧中の1歳馬(雪が深い時は重機で道を作っています)

  

 さて、ここ日高育成牧場では明け1歳馬を昨年11月から【昼夜放牧群】【昼放牧+WM群】の2群にわけ管理をしてきました(写真1)。この研究は昨シーズンから始めたものですが、昨シーズンと比較すると気温は今シーズンの方が低かったものの、体重増加は今シーズンの方が良いという結果となりました(グラフ)。種牡馬の違いからくる成長カーブの違いの影響があるかもしれませんし、単純には比較できませんが、この結果から「厳冬期に成長が停滞するのは、単純に気温の低さのみが影響しているわけではないこと」とは言えそうです。現在測定中の血中ホルモン濃度の値などの他のデータが出揃いましたら、順次発表していきたいと思います。

注)グラフにて11月下旬に【昼放牧+WM群】の体重が大きく減少しているのは、それまで昼夜放牧していたのを昼放牧に切り替えたので青草の採食量が減少したためです。すなわち「腸管の内容物」の量の変化で、馬自体の変化ではありません。

  

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  【グラフ】 厳冬期の体重および気温

   

 今シーズンは2年目ということで、昨シーズンから改良した点をご紹介したいと思います。まず、昨シーズンは分娩間近の繁殖牝馬を分娩馬房へ移動する関係上、調査の途中で放牧地および厩舎を変更いたしましたが、今シーズンはストレスの軽減を考慮し調査期間中は放牧地および厩舎の変更は行いませんでした。また、昨シーズンは移動前の放牧地には屋根付きの立派な「風除け」が設置されておりましたが、移動後の放牧地には設置されていませんでした。そこで、今シーズンはベニヤ板で簡易の「風除け」を設置し、その付近には食料兼敷料として「ラップ乾草(低水分ラップサイレージ)」を敷き詰め、子馬が悪天候時に休息できるスペースとしました(写真2)。GPSを用いた行動観察の結果、日によりますが夜中の5~6時間をこのスペースで過ごしていることがわかり、ひょっとしたら今シーズンの順調な体重増加につながったのかもしれません。ちなみに雪で覆われてしまうと馬が寝られなくなるため乾草を追加し、また小まめにボロを拾うなど、子馬にとって常に「快適な寝床」となるよう注意を払いました。

  

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  【写真2】 昼夜放牧群の放牧地に設置した風除け

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  【写真3】 このように雪で覆われてしまうと馬が寝られなくなるため乾草を追加します

    

 

そのほか、これは昨シーズンから行っていることですが、放牧地の四隅にルーサン乾草を撒いて馬の自発的な運動を促したり、雪が積もって馬が歩き回れない状態になった際は重機で道を作って歩きやすいようにしたり、放牧地内の凍結した箇所には融雪材(塩化カルシウム)入りの砂を撒いて滑らないようにしたり、工夫しています。飼料に関して言えば、「繊維分を腸管内で発酵する際に生じる熱が体温維持に重要である」という理論から、濃厚飼料よりも粗飼料を多く採食させることを強く意識し、通常の乾草よりも嗜好性の良い「ラップ乾草(低水分ラップサイレージ)」を与え、さらに繊維分の豊富なビートパルプを給餌しています。また、単純に体重増加させたいのであれば燕麦などの濃厚飼料を多給すれば良さそうですが、馬体が成長していないのに体重だけが増加している状態というのはすなわち単なる「肥満」ですから、そうならないように毎日ボディコンディションスコアをチェックし、さらに定期的に臀部の脂肪の厚さを測定し(体脂肪率が推定できる)、モニタリングしています。

 この当歳から1歳にかけての厳冬期の管理についての調査の結果につきましては、現在測定中のデータが出揃い次第、本ブログやその他の講習会などでご披露していきたいと思っております。今後もJRA日高育成牧場の調査・研究にご注目していただけましたら幸いです。

  

活躍馬情報(事務局)

先週の東京競馬においてJRA育成馬メイショウスザンナ号が「セントポーリア賞(500万下)」に優勝しました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、昨年のブリーズアップセールにて取引された馬です。

また、同馬の優勝により、2011 JRAブリーズアップセールで取引された育成馬は、14頭勝ちあがり(新馬戦優勝6頭含む)、延べ19勝(内オープン競走3勝、500万特別2勝)となりました。

それでは、今後もJRA育成馬の活躍にご期待頂ければ幸いです!

※本年のブリーズアップセールは424日(火)に開催いたします。多くの皆様にご来場頂ければ幸いです。

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219日(日) 1回東京競馬8日目 9R】  

セントポーリア賞(3500万下) (芝:1,800m

メイショウスザンナ号(グリーンオリーヴの09 牝

父:アグネスデジタル  厩舎:高橋 義忠 (栗東)  

       

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ブリーズアップセールまであと2ヶ月、スピード調教への移行(宮崎)

早いもので、既に2月の半ばを過ぎました。宮崎も例年と比較すると冷え込みが厳しく、連日の馬場の凍結に加えて、水道管の破裂が相次ぐなど例年にない影響が出ています。

宮崎の育成馬達は、まだまだ大小様々な課題を抱えている馬もいますが、全体的には概ね順調に調教を重ねています。宮崎育成牧場では1200mを2本走行するインターバルトレーニングに取り組んでおり、これまでのところ、2本目のラスト3Fが6054秒程度のステディーキャンターでの調教を根気よく積み重ねてきたところです。

まもなく本格的なスピード調教が始まります。3月半ばにはインターバルトレーニング1本目のラスト3F54秒、2本目のラスト3Fを45秒程度で週2回実施する予定です。

現在はスピード調教の準備段階として徐々に調教強度を強化しています。毎年の事ながら調教強度を上げていくことには不安が付きまといます。十分な基礎体力(心肺機能や筋力)をつけてきたつもりではありますが、調教中の動き、調教後の息遣いや歩様、翌日歩様や脚元の状態など心配事は尽きません。何事もなくホッとすることはあっても、喜んでいる暇などなく、すぐに次の課題が迫ってきます。

馬と向き合うということは、この様に日々目の前の課題をクリアーしていくという事の積み重ねなのでしょうが、振り返ってみると大きな進歩に気付くことがあり、それが大きな喜びや励みになります。

九州1歳市場で購買し6月に入厩してきたビューティサツキの10〔写真3.〕とはもう8ヶ月の付き合いです。入厩時はまだ仔馬の面影を残していた彼が、現在では競走馬の二歩手前くらいまで成長しています。馬体重も381kgから456kgに増加。顔つきも既に競走馬のそれに近づいてきました。

すべての馬が、これから始まるスピード調教も順調に消化し、次のステージに進んでいくことを宮崎育成牧場の職員一同全力でサポートいきます。

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〔写真1.宮崎育成牧場を訪れた珍鳥ヤツガシラ〕

 以前このブログで日高育成牧場を訪れたフクロウが話題になっていましたが、宮崎の吉鳥も負けてはいません。昨年末から宮崎育成牧場に滞在していました。

〔動画2.1600馬場での調教の様子〕

 この日の調教は、500m馬場2周のウォーミングアップの後、1600m馬場で1200mの駆歩を併走で2本。1本目の最後の3ハロンが60秒、2本目は54秒の調教を実施しております。動画は2本目のスタート後のシーンです。

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〔写真3.牡相が漂いはじめたビューティサツキの10の表情〕

育成馬検査(日高)

日高育成牧場のある浦河は、昨年末の大雪によって一面銀世界へと様変わりし、新年を迎えてからは冷え込みが厳しく、特に小寒から大寒までの2週間は真冬日が続き、最低気温がマイナス20℃近くに下がり、育成馬たちの“あごひげ”が凍る日もありました。

本年も小寒の頃の恒例行事となっているBTC育成調教技術者養成研修生の騎乗実習が始まりました。本年の研修生は21名で、49日(月)に予定されている育成馬展示会までの約3ヶ月間、10名と11名の2班に分かれ、1週間交代でJRA育成馬を活用した騎乗実習を行います。この騎乗実習は、これまで乗馬にしか騎乗したことがなかった彼ら、彼女らにとって、卒業後のそれぞれの進路に向けた最終の実践研修という位置づけになっています。現状ではまだまだ未熟な研修生たちですが、実際に競走馬になるJRA育成馬を用いて、その調教過程を自分の肌で体験することは、優秀なホースマンになる上で大きな財産になることと思います。今後は育成馬の成長と同様に、若い研修生たちの著しい成長も非常に楽しみのひとつになっていきます。

   

 

  

 毎年恒例となっている3ヶ月間のBTC研修生(右124番手および左3番手。いずれも青ヘルメット装着)の騎乗実習が始まりました。先頭左からダンシングサクセスの10(牡 父:アグネスタキオン)、グレイスフルハートの10(牡 父:ティンバーカントリー)、メガクライトの10(牡 父:アルデバラン)、先頭右からフィエスタの10(牡 父:バゴ)、イシノクイルの10(牡 父:アルカセット)、スティルシャインの10(牡 父:タイキシャトル)、キセキスティールの10(牡 ホームブレッド 父:ケイムホーム)。

 

この厳しい寒さの中、育成馬の調教も順調に進んでおります。800m屋内トラックでは1列縦隊で1周もしくは2周駆歩(ハロン24秒まで)を行った後に、2頭併走で2周駆歩(ハロン22秒まで)の計2,4003,200mの調教をベースに、週12回は800m屋内トラックでは1列縦隊で2周駆歩(ハロン22秒まで)を行った後に、坂路での調教(ハロン19秒まで)を実施しています。前回、2群の牝馬は坂路を1本駆け上がるのが精一杯というような状態であることをお伝えしましたが、この1ヶ月間で体力も向上し、坂路調教後もすぐに息が入るようになってきています。一方、牝馬は精神面でのストレスのケアが必要であり、坂路調教を行うにあたっては、坂路調教当日にも増して翌日の馬のメンタル面の状態に注意を払っています。今後は馬の肉体的および精神的コンディションを見ながら、徐々に調教強度を上げていきたいと考えています

  

  

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 2群の牝馬も坂路調教後にすぐに息が入るほどに体力が向上してきました。先頭はシルクアムールの10(牝 父:アルデバラン)

    

さて、今回は1月下旬に行われた育成馬検査について触れてみたいと思います。育成馬検査とはJRA生産育成対策室の職員が日高育成牧場で繋養している育成馬を第三者の視点から、市場での購買時からの馬体の成長具合、現在の調教進度、馬の取り扱いなどをチェックし、ブリーズアップセール上場に向けての中間確認を行う検査のことです。今回の育成馬検査では、本部からの出張者に加え、宮崎育成牧場の担当者も来場し、鋭い眼差しで馬のチェックが行われました。この検査に備えて、年明けからは日頃にも増して馬の手入れに時間をかけ、タテガミや尾のトリミングにも取り組んできました。

 

   

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育成馬検査に向けて全馬のタテガミのトリミングが行われました。馬はチアズスワローの10(牝 父:スウェプトオーヴァーボード)

 

  

  

検査当日はこの時期にしては両日とも天候に恵まれ、ブリーズアップセール当日さながらの緊張感のなか、育成馬の展示が行われました。検査と同時に、手入れ、トリミング、しつけ、さらには騎乗時の馬装も含め、最も手入れが行き届き美しく仕上げられた馬および担当者に贈られる“ベストターンドアウト賞”の審査も行われ、牡牝それぞれの最優秀馬と優秀馬が選ばれました。

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“ベストターンドアウト賞”の審査で牡の最優秀馬に選ばれたセーフアズロックの10(写真左 牡 父:アルデバラン)優秀馬に選ばれたキセキスティールの10(写真右 牡 ホームブレッド 父:ケイムホーム)

   

  

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“ベストターンドアウト賞”の審査で牝の最優秀馬に選ばれたアリゲーターアリーの10(写真左 牝 父:シンボリクリスエス)優秀馬に選ばれたレディインディの10(写真右 牝 父:ダイワメジャー)

   

今回の検査を通して、個々の馬の発育および調教進度状況を再認識することができました。また、424日(火)に開催されるブリーズアップセールおよび49日(月)に開催される育成馬展示会のためのみならず、馬主、調教師、牧場関係者などのお客様の来場に備えて、馬を展示し、見て頂くという姿勢を再確認する機会にもなりました。

馬を展示すること自体が馴致の一環であり、人馬ともにその状況に慣らし、落ち着いた状態の馬をお見せできるよう取り組んでおりますので、浦河にお越しの際はお気軽にご来場いただき、JRA育成馬を見ていただきたいと思っております。

 

新生子馬の評価方法 ~APGARスコアリングシステムの紹介~(生産)

   寒い日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?ここ日高育成牧場では明け1歳馬を昨年11月から【昼夜放牧群】【昼放牧+WM群】の2群にわけ管理をしています。今シーズンは気温の低い日が多いものの、吹雪になる日は少なく、幸いなことに現在のところ両群とも健康上の大きな問題は起こっておりません。

 

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      【写真1】 昼夜放牧をしている1歳馬

   

 さて、牧場によってはそろそろ分娩の時期が始まっておられるのではないでしょうか(写真2)?今回は、近年導入され始めた新生子馬の健康状態を評価するためのAPGAR(アプガー)スコアリングシステム」について紹介したいと思います。

  

   

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      【写真2】 分娩直後の新生子馬

 

 APGARシステムとは、ヒト医療で広く使われている新生児の健康状態の評価基準で、欧米では近年馬に応用され始めたところです。APGARとは、外見(Appearance脈拍数(Pulse表情(Grimace活動(Activity呼吸数(Respirationの頭文字をとったもので、これらの指標を用いて評価するシステムです。出生後最初の3分間で誰でも簡単に子馬を即時に評価できる方法です(表1)。さらに、負荷をかけたときの筋肉の活動などを評価項目として加えた、獣医師用の評価方法もあります(表2)。

   

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   【表1】 出生後3分以内の子馬の評価のためのAPGRAスコア(生産牧場向け)

   

   

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   【表2】 出生10分以降(~2時間まで)の子馬の評価のためのAPGAR(獣医師向け)

   

   

 

APGARが推奨されている理由は、「新生子馬の健康上の問題を早期に認識することができれば、それだけ早く子馬に集中的な治療を施すことができ、救うことができる子馬が増えるのではないか」という考え方からです。過去の経験から、ハイリスクな子馬でも多くは生後12~18時間までは比較的正常に見えるものですが、いったん問題が発生してしまうと健康状態の悪化は急速に進むと言われています。また、逆に健康で治療の必要のない子馬に関しては、なるべく人手をかけず親子の触れ合いを大事にすることで「育児拒否」の発生が減少することが知られています。APGARを使うと、「早くかつ正確に」子馬の健康状態を評価することができるので、ハイリスクな子馬の早期発見・早期治療と、健康な子馬への過剰な治療の両方を同時に防ぐことができるようになるというわけです。

 例えば今回紹介した【生産牧場向け】のAPGARで「7~8点」であれば必要以上に人が干渉せず見守る(もちろんその後の初乳を飲んだかなどの確認は重要ですが)、「6点以下」であれば獣医師に診察を依頼するなど、牧場ごとにアレンジして使ってみてはいかがでしょうか?

 

●参考文献:Equine Stud Farm Medicine and Surgery