厳冬期の1歳馬の管理~代謝とまとめ~(生産)
前回まで3回にわたって日高育成牧場で行なっている厳冬期の管理に関する調査・研究で得られた結果について述べさせていただきましたが、今回でまとめとしたいと思います。最後は代謝の話になります。
体温が低下する
まず、昼夜放牧している群(以下、昼夜群)では、昼放牧している群(以下、昼W群)と比較して体温が有意に低い傾向が認められました(図1)。動物は例えば“冬眠”する時などに体温を下げることにより代謝を落とし、これにより脳などの中枢神経を守るということが知られています。今回の結果はそこまで大げさなものではありませんが、厳冬期に昼夜放牧を継続していると外気温の低下に対応するため代謝を落としている自然な反応と推察されました。
代謝に関わるホルモン
昼夜群が代謝を落としている傾向は、血液中のホルモンの数値にも現れていました。サイロキシンは甲状腺から分泌され、代謝量の制御に関わることが知られています。このホルモンの数値は、統計学的有意差はありませんでしたが、昼夜群の方が低い傾向がありました(図2)。サイロキシンはヒトの方では成長にも影響を与えていることが示されており、厳冬期に昼夜群の体重増加が停滞する原因の一つになっている可能性があります。
副交感神経活動(HFパワー)
馬房内安静時にホルター型心電計を装着して、副交感神経活動の指標であるHFパワーという数値を測定しました。HFパワーとは副交感神経活動が亢進するにつれ、数値が上昇します。その結果、HFパワーは昼夜群で上昇する傾向にありました(図3)。競走馬の運動科学的な分野において、副交感神経活動の亢進には、ポジティブな面とネガティブな面があります。ポジティブな面としてはかつて現役時代のテイエムオペラオーのHFパワーを測定した研究では競走馬の平均的な数値より高い値であったという結果が出ています。この場合は遺伝的要因やトレーニングによりいわゆる“スポーツ心臓”となり安静時の心拍数が著しく低下したことを意味します。逆にネガティブな面では、絶食を続けた馬のHFパワーが上昇したという研究もあります。この場合はエネルギー不足に対して代謝を落として体が適応した結果を意味します。今回の昼夜群の上昇は後者を意味する可能性が高いと言えます。
図3 副交感神経活動(HFパワー)
まとめ
前3回も含めて、厳冬期の管理に関する調査・研究で得られた結果についてまとめます(図4)。昼夜群では、体重増加の停滞や体温の低下、HFパワーの上昇など基礎代謝の低下が示唆される結果が得られました。昼W群では、プロラクチンやサイロキシンといったホルモンが高い値を示し、基礎代謝が維持されていることが示唆される結果が得られました。
将来アスリートとなるサラブレッド競走馬においては、基礎代謝の低下を防止した方が良さそうな感じはしますが、そもそもこの当歳馬から1歳馬にかけての厳冬期に代謝が落ちた影響が、競走期である2歳の夏以降にどれほど影響があるのかはまだわかっていません。今後は、厳冬期の昼夜群においては基礎代謝低下を防止する管理方法、昼W群においてはWMによる適切な運動負荷について調査を継続し、競走期への影響までを含めた成績を比較・検討していきたいと思います。
図4 まとめ
以上、4回にわたり厳冬期の管理に関する調査・研究について述べさせていただきました。今後もJRAが行なう調査・研究にご注目いただけましたら幸いです。