育成馬ブログ 生産編④
・強い馬づくりのための生産育成技術講座2015
~移行免疫不全症に関するお問い合わせ~
去る11月19および20日の両日に「強い馬づくりのための生産育成技術講座
2015」が浦河町および日高町門別で開催されました。
各会場では以下の講演が行われ、浦河103名、門別206名の多くの皆様方に
ご参加いただき、盛況のうちに終了しました。
『分娩日の予測法 -乳汁のpH・Brix測定について-』
『子馬の飼養管理 -生後から2ヶ月齢-』
『BTC屋内坂路馬場の運動負荷について -美浦トレセン坂路馬場との比較-』
(※浦河会場のみ)
『ローソニア感染症対策』(※門別会場のみ)
講演では質疑応答が活発に行われましたが、当日のみならず終了後も複数の方
から「移行免疫不全症」についてのお問い合わせをいただきましたので、回答を
含めてご紹介します。
講演会の様子(門別会場)
Q.移行免疫不全症の検査は、獣医師でなければ出来ないのでしょうか?
A.子馬の血中IgG濃度を測定するため、採血が必要になりますので、獣医師による
検査となります。ただし、獣医師以外でも可能な方法もありますので、ご紹介します。
正確な検査ではありませんが、哺乳前後のBRIX値を比較することで、移行免疫
不全症かどうかの推定が可能です。
①哺乳前の初乳のBrix値を事前に測定し、出産10~12時間後のBrix値を再測定
して比較する。
②その数値の差が10以上であれば、子馬は十分量の初乳を摂取し、満足できる移行
免疫を獲得したと推定できる。
③一方、Brix値の差が10未満の場合、子馬は十分量の初乳を摂取しておらず、
移行免疫不全の状態にあると推定できる。
例えば、哺乳前のBRIX値が25%の場合、
12時間後の値が15%以下に下がっていれば十分量の初乳を摂取したこととなり、
16%以上であれば十分量は摂取していないと推定できる。
哺乳前後のBRIX値による移行免疫不全症の推定法
なお、この検査では、保存初乳を採取していないことが条件です。
採取した場合には利用できません。
また、繰り返すようですが、子馬の血中IgG濃度を正確に計測できる検査ではあり
ません。このため、少なくとも以下の場合には、出産8~12時間後における血液検査
が推奨されます。
・出産前に漏乳が認められた(出産時のBRIX値が低い)。
・母馬の乳の出が悪い。
・子馬が初乳を飲めていない。
・フォールリジェクト(育子拒否)。
参考文献:Korosue K, Murase H, Sato F, Ishimaru M, Kotoyori Y, Nambo Y. Correlation of serum IgG concentration in foals and refractometry index of the dam's pre- and post-parturient colostrums: an assessment for failure of passive transfer in foals. J Vet Med Sci. 74(11):pp1387-95. (2012)
Q.馬の初乳の代替品として、牛の初乳を投与しても効果はあるのか?
A.米国のLavoieらが行った調査では、「通常どおり母馬から初乳を摂取した子馬
6頭(対照群)」と、「牛の初乳400mlを2時間間隔で20時間後まで合計4リットルを
投与した子馬6頭(投与群)」を比較したところ、血中IgG値に有意差は認められ
なかったと報告されています。
ただし、初乳投与後のIgGの半減期(血中濃度が半分になる期間)は、対照群では
26日間であったのに対し、投与群では9日間と約3分の1程度の期間であったことが
確認されています。また、牛の初乳中にも厩舎環境に存在する多くの病原体に対して
の抗体は含まれていますが、馬特有の病原体に対しての抗体は含まれていないこと
も念頭に置く必要があります。
これらのことから、積極的に推奨することはできませんが、馬の初乳が不足している
際、やむを得ない場合の緊急用として、牛の初乳をストックしておいても良いかもしれ
ません。
参考文献:Lavoie JP, Spensley MS, Smith BP, Mihalyi Absorption of bovine colostral immunoglobulins G and M in newborn foals. J.Am J Vet Res. 1989 Sep;50(9):1598-603.
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