育成馬ブログ 日高④(その1)
●運動時内視鏡検査(overground endoscopy:OGE)について
今回のトピックは運動時内視鏡検査(以下OGE)についてです。
皆様ご存知の通り、競走馬の運動能力と呼吸器疾患は
切っても切り離せない関係にあります。
従来、呼吸器疾患に伴う異常呼吸音(“ヒューヒュー”という喘鳴音や、
”ゴロゴロ”という湿性の音など、様々なものを含む)は、
運動をしていない状態、いわゆる「安静時」に内視鏡で検査されてきました。
しかしながら、調教では異常呼吸音が聞こえるにも関わらず、
落ち着いた状態で行う安静時には異常が認められない、
という症例は少なくありません。
そこで、調教を行いながら内視鏡検査を行うために
近年導入された検査方法が、今回紹介するOGEです。
これを用いることにより、
安静時に認められない異常も診断できるようになりました(図1)。
図1.赤字が安静時内視鏡では検査できないもの
OGEでは、バッテリーやポンプなどの機器を鞍下ゼッケンに収納し、
スコープ部分を頭絡に固定する
ポータブルタイプの内視鏡を使用します(図2,3)。
図2.オーバーグラウンド内視鏡(DRS®:Optomed社製運動時内視鏡)
騎乗運動中に内視鏡検査を行えるため、
異常呼吸音の発生時の状況を再現した検査ができます。
そのため、安静時では異常所見が認められなかった馬でも、
OGEを実施して初めて原因を突き止められることがあります。
また、披裂軟骨の内転や不完全外転などの喉頭片麻痺の所見に加えて、
被裂喉頭蓋ヒダ虚脱や声帯虚脱といった、
OGEでのみ確認できる所見を発見することもできるようになりました。
現在日高育成牧場では、安静時内視鏡で異常が認められた馬や
調教時に異常呼吸音が認められた馬に対し、OGEを実施しています。
図3.装着時
実際に認められるOGE所見には以下のようなものがあります。
① 喉頭片麻痺
図4.左被裂軟骨小角突起が麻痺して
動かないことにより気道が狭くなっている
治療:喉頭形成術(Tie-back手術)
② 軟口蓋背方変位(DDSP)
図5.喉頭蓋が軟口蓋(赤丸)下に潜っている
治療:舌縛り、コーネルカラーの装着、Tie-forward手術
③ 被裂喉頭蓋ヒダ虚脱(ADAF)
図6.被裂喉頭蓋ヒダ(黄矢印)が内側に虚脱している
治療:被裂喉頭蓋ヒダ切除術
④ 声帯虚脱(+喉頭片麻痺)
図7.声帯(赤丸)が両側で内側に虚脱している
治療:声帯切除術(+喉頭片麻痺の程度によっては喉頭形成術)
呼吸器の機能異常は競走能力に大きく影響する可能性があるため、
競走馬として走ることを宿命に生まれてきたサラブレッドにとって
重大な問題です。
異常呼吸音を呈する疾病や所見が
パフォーマンスに及ぼす影響は様々ですが、
これらの症状に対して適切な処置を行うためには、
「正確な診断」が極めて重要であり、
それにはOGEによる運動時の診断が不可欠であると言えます。
さらに、現在日高育成牧場では
喉頭部の形態や機能異常をより詳細に評価するため、
喉頭部超音波検査も併せて行っています(次へ続く)。