25-26育成馬ブログ(繁殖①)
離乳後の管理~中期育成期が始まりました~
近年、北海道の夏は本州に負けないくらい暑くなりましたが、10月に入りようやく涼しくなってきました。早朝には10℃を下回り、秋が来たと思うと同時に長い冬の到来が近くなっているのを早くも感じているところです。
JRA日高育成牧場では、今年、10頭の当歳馬が離乳しました。例年、暑さの最盛期を過ぎ、アブのストレスも和らぎ始める8月末から9月上旬に離乳をし、リードホースを含めた馬群に移行します。9月下旬にはリードホースも離し、現在は当歳馬のみで集団の昼夜放牧を実施しています。
この時期の当歳は本場から車で10分くらいのところにある「ハッタリ分場」に移動して管理しています。ここは豊富な放牧草と約8haの広い放牧地を備えた分場で、この時期の馬達のよい運動の場として活用されています。昨年には新しい厩舎が竣工し、馬も今まで以上に快適に過ごせるようになりました。
昨年完成した新厩舎
広い放牧地で当歳馬達は元気に運動して成長していきます。
「ハッタリ分場」で過ごす期間は、放牧するだけでなく色々なことに「馴らす」ことと「人との信頼関係の構築」を意識した管理を行っています。一般的に離乳後の当歳馬は、それまでの母馬とともに生活することから離れることで精神的に不安定となりがちで、取り扱いが難しくなる馬もいます。この時期に人間に従ったり頼ったりすることを教えることは、扱いやすい馬づくりに効果的だと感じています。もちろん、離乳前からのしつけもしてきているので、受け入れる下地もしっかりできています。
具体的に行っていることの例としては、まず引馬を個別に実施しています。馬は群れで生活する動物で、他の馬についていく習性があります。離乳前は母馬とともに歩いていたので安心でしたが、離乳後に1頭ずつ歩かせると、歩きたがらなかったり寂しがって集中しない馬もいます。そんな状況下であえて1頭1頭別々に歩かせ、歩きたがらない時には人がプレッシャーを用いて指示を出して促したり、上手く歩けたときには褒めたりすることで人馬の間のルールや信頼関係が構築されていきます。
さらにこの過程では、馬が警戒して歩きたがらない環境でも歩けるように、いわゆる「物見」をしないようにトレーニングしています。例えば、場内にある排水設備の網などを馬は躊躇して立ち入りません。さらに地面にブルーシートを敷き、その上を歩かせたりもします。馬術の障害競技でリバプールという障害物が用いられますが、青い敷物を馬は気にして「物見」をすることがよくあります。これらのような、馬が物見しやすい環境に向かわせると、はじめは警戒する馬達ですが、人が促してクリアさせると、馬は危なくないものと認識できれば馴れるのでスタスタと歩いて通過できるようになります。このように課題をクリアさせることで、馬は人の指示に従うことを覚えます。そして従えば安心であるという経験を積み重ねることで人馬の信頼関係ができてきます。
地面の様子が違うと馬は「物見」をして躊躇しますが・・・
ブルーシートも危なくないと理解できれば大人しく駐立できるようになります。
他にもシャワーでの馬体洗浄馴致やビニル袋の刺激への馴化など、この時期に当歳馬に与えるタスクを多く設定しています。今年の当歳馬は例年よりも元気が良い馬が多い印象ですが、皆順調にクリアし成長してくれるように願っています。