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活躍馬情報(事務局)

3月24日土曜日の中山1R(3歳未勝利)で、

日高育成牧場で育成されたゴールドクロス号が、

先手を奪い、そのまま後続を突き放して初勝利をあげました。

 

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3月24日 3回中山競馬1日目 第1R  3歳未勝利 ダート 1,800m

ゴールドクロス号(コンドルウイングの15) 牡

【 厩舎:小西 一男 厩舎(美浦) 父:エスポワールシチー 】

 

 

さらに、3月25日の阪神10R(淀屋橋ステークス【4歳上1600万下】)では、

日高育成牧場で育成されたオールインワン号が、

同レースを昨年から連覇し、5勝目を挙げました。

 

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3月25日 2回阪神競馬2日目 第10R  淀屋橋ステークス 芝 1,200m

オールインワン号(ゴールドコインの13) 牡

【 厩舎:浜田 多実雄 厩舎(栗東) 父:アドマイヤムーン 】

  

今後のさらなる活躍を期待しております。

育成馬ブログ 日高⑧

○ブリーズアップセールでの個体情報(X線画像)について

 

 雪が溶けはじめ春の訪れが感じられる暖かく穏やかな季節になった、

ここ日高育成牧場では4月のJRAブリーズアップセール本番に向けて、

育成馬たちの調教がヒートアップしてきています。

 

 この調教と並行して行われているのは、育成馬の球節や飛節などの

X線撮影です(写真1)。これは、通常の臨床現場のように

痛みや腫れの原因究明を目的としているのではなく、

JRAブリーズアップセールにおいて会場内の情報開示室や

インターネットを介して購買者に公開するためのものです。

これらの情報は『レポジトリー』と総称されており、

競走馬のセリ市場の透明性および信頼性を高めることに寄与しています。

 

 今回のブログでは、このレポジトリーのX線画像の中でも注目度が高い

『種子骨炎』および『飛節のOCD』について触れたいと思います。

 

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写真1:育成馬のX線撮影風景

 

種子骨炎

 馬の種子骨炎(Sesamoiditis、正確には第一指節種子骨炎)は

球節の過伸展や捻転などが原因と言われており、炎症により

種子骨内の孔状構造が太くなる他、骨辺縁の靭帯付着部が粗造になります。

この疾患は、跛行だけでなく種子骨に付着している靭帯の炎症を

続発することもまれにあるとされています。跛行の有無に関わらず、

X線撮影により孔状構造の線状陰影や骨辺縁の粗造などが認められれば

繋靭帯炎などの前駆症状として考えられることから、重度であれば

慎重に調教を進めていくことが推奨されています。

 

 JRAブリーズアップセールでは、前肢球節部の種子骨の

X線検査による評価を程度の軽いものから順に

グレード(G)0~3の四段階に分類しています(図1)。

また、セリ会場に設置する個体情報開示室(4月19日~23日)

において、種子骨の線状陰影や骨辺縁粗造の有無などの状態を

X線画像で確認することができます。

 

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図1:種子骨グレード(%はJRA育成馬全体に占めた割合)

 

 各グレードにおける、育成馬を用いた競走期における繋靭帯炎発症率

初出走までに要した日数2・3歳時の出走回数ならびに総獲得賞金

関する調査(計550頭)では、前肢の種子骨グレードが高い馬は

低い馬に比べて繋靭帯炎を発症するリスクが高いことが

確認されていますが(表1)、その一方で種子骨グレードは出走回数や

能力に殆ど影響していないことも報告されています(表2~4)。

  

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表1:種子骨グレードと前肢繋靭帯炎の発症率の関係

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表2:種子骨グレードと初出走までに要した日数の関係

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表3:種子骨グレードと出走回数の関係 

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 表4:種子骨グレードと総獲得賞金の関係

 

 

離断性骨軟骨症

 OCD(Osteochondrosis dissecans)と略されるこの疾患は、

発育過程における骨化異常の結果として関節軟骨の糜爛(びらん)や

剥離を生じる疾患です。飛節が好発部位ですが、膝関節や球節、

肩関節などにも発症します。跛行の原因となることもあり、

その程度によっては関節鏡で骨軟骨片の摘出が必要となることもあります。

  

 JRAブリーズアップセールでは、飛節部のX線画像を公開しています。

図2、3は、比較的頻繁に認められる飛節部のOCDですが、

一時的な関節液の増量などを認めることはあるものの、

跛行を示すことは少ないとされています。

 

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図2:脛骨遠位中間稜のOCD

 

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図3:脛骨内顆のOCD

 

 JRA育成馬の飛節部OCDについての過去の調査(計413頭)では、

OCDを発症していない馬、発症した馬およびOCD摘出術実施馬の

初出走まで要した日数2・3歳時の出走回数および総獲得賞金

比較しています。何れの項目においても大きな差が認められないことから、

後期育成期に認められる飛節部のOCDは熱感や腫脹などの明らかな

炎症症状を伴わなければ、手術をしなくても競走能力に影響を

及ぼさないことが報告されています。

 

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表5:飛節部OCDと出走まで要した日数との関係

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表6:飛節部OCDと出走回数との関係Image

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表7:飛節部OCDと総獲得賞金の関係

  

 この他にもレポジトリーとして咽喉頭部疾患(内視鏡)や

屈腱炎(エコー)、軟骨下骨嚢胞(X線撮影)などの情報を

公開していますが、これらの詳細についてはまた別の機会に

ご紹介いたします。JRAブリーズアップセールでは、

今後も市場の透明性と信頼性の向上のため正確な情報公開を続けるほか、

更なる育成期疾患の調査研究に努めてまいります。

育成馬ブログ 宮崎⑦

○育成馬調教見学会(宮崎)


プロ野球のキャンプも2月をもって終了し、

夜の街も少し静かになったように感じる今日この頃です。

宮崎はプロ野球やサッカーJリーグのキャンプのメッカとなっていますが、

実は平昌オリンピックでメダルラッシュに沸いたスピードスケートの

ナショナルチームが基礎体力向上のための強化合宿を

オリンピック直前の1月に行っていました。

その中には中学生まで日高育成牧場内のスケートリンクで練習していた

小田卓朗選手とウイリアムソン師円選手もおりました。

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平昌オリンピックでの一場面

 

スピードスケートナショナルチームの一員として直前の強化合宿を

宮崎で実施して平昌オリンピックに出場した小田卓朗選手は

1000mと1500mで5位入賞。

また、箱根駅伝で総合4連覇を果たした青山学院大学陸上競技部も

2012年から毎年2月に春季合宿を行っています。

このような背景から、2020年東京オリンピックの直前合宿地として、

海外各国からも注目を集めています。

このような宮崎の地で、育成馬の調教を実施できるのは

恵まれていると改めて実感いたします。

●育成馬の近況

さて、宮崎育成牧場のJRA育成馬22頭は、4月24日(火)に

RA中山競馬場で開催されるブリーズアップセールに向けて

調教メニューをこなしています。

初めにウォーミングアップとして500m馬場でのハッキングを

実施しています。その後は1600m馬場に移動して、

通常は1列縦隊で20~18秒/ハロンのペースでの

1600mのステディキャンターを実施しています。

 

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週1回実施している牡馬の強調教時の様子

内:上場番号67番モルフェスペシャルの16(牡 父:スクワートルスクワート)

外:上場番号16番ラストワルツの16(牡 父:シンボリクリスエス)


また、週1回実施するスピード調教では、

1200mを2本走行させるインターバルトレーニングを実施し、

2本目に3ハロンを45秒(ハロン14~15秒)程度で走行しています。


YouTube: 育成馬日誌宮崎17 18⑦ 2

3月中旬に行われた調教動画

●育成馬見学会

宮崎育成牧場では、地元の一般来場者に普段は開放していない

育成馬厩舎地区を開放し、当場で繋養している育成馬を

間近でご覧いただけるイベントを年に3回開催しています。

10月と3月には育成馬の立ち姿をご覧いただく

「育成馬見学会」を開催し、特に3月には気に入った馬を

牡・牝それぞれ1頭ずつ選んでいただき、

その馬が中央競馬のレースで勝利すると、

ゴール前の写真をパネルにして贈呈する

「ドリームサポーターズクラブ」というイベントも実施しています。

本年は3月24日(土)14時から当場育成馬厩舎地区で

開催予定となっております。

 

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ドリームサポーターズクラブの登録馬が優勝した際に贈呈している写真パネル

.

また、2月には育成馬の疾走する姿を間近で見ることができる

「育成馬調教見学会」も企画しており、

本年の「育成馬調教見学会」は2月17日(土)に開催いたしました。

当日は天候にも恵まれたため、70名ものお客様にご来場いただきました。

お客様には、少し高台からブリーズアップセール上場予定馬が

疾走する蹄音や馬の息遣いを間近で感じていただきました。

ご参加いただきました方々には、この紙面をお借りして、

改めてお礼申し上げます。

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育成馬調教見学会には70名ものお客様にご来場いただきました

育成馬ブログ 生産編⑧(その2)

前回(生産編⑧ その1)に引き続き、

今回もJRA日高育成牧場での冬期の飼養管理方法についてお話します。

 

○血液検査上の数値の違い

 

血液検査では、昼夜群において腎臓の機能の指標である

血中尿素窒素(BUN)の有意な上昇が認められました(図4)。

BUNの値は、生理基準値を上回ることもあり、

昼夜群では脱水が起こり腎血流量が減少していた可能性が疑われました。

このことから、冬期に昼夜放牧をする際には、

放牧地内の水桶の凍結を防止するなど

脱水に注意する必要があると考えられました。

 

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図4 冬期に昼夜放牧する際には脱水に注意する

 

○体温

 

体温は馬房内に収容した際に測定しましたが、

図5に示すように昼夜群で有意に低い期間がありました。

このことは基礎代謝の低下を意味しており、

寒い野外で長時間過ごす昼夜群には何らかの保温処置

(馬服の着用やシェルターの設置など)が必要と考えられました。

 

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図5 昼夜群では体温が低くなり基礎代謝が低下する

 

○厳冬期に昼夜放牧する際の注意点

 

2年間にわたる調査の結果を踏まえて、

厳冬期に昼夜放牧する際の注意点をまとめます(図6)。

まず、運動量を増やすため、

放牧地の四隅にルーサン乾草を撒くなどの工夫をすることが重要であり、

さらにウォーキングマシンを活用することで

夏と変わらない運動量を確保できます。

また、夜中に快適に眠れるように、

放牧地内にシェルターや風除けを設置し、乾いた寝藁を敷くことで、

子馬に必要な成長ホルモンの分泌を促すことができると考えられます。

さらに、水桶が凍ると脱水を起こしてしまうため、

電熱線入りのウォーターカップを設置するなど

水桶の凍結防止措置が重要です。

また、基礎代謝の低下を防ぐため、

馬服を使用するなど子馬を保温する措置が有効ではないかと考えられます。

これらの点に注意しながら、

現在JRA日高育成牧場では厳冬期にも全頭昼夜放牧しています。

また新たな知見が得られましたら、本ブログでご紹介したいと思います。

 

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図6 JRA日高育成牧場で厳冬期に注意している点のまとめ

育成馬ブログ 生産編⑧(その1)

今回は当歳から1歳にかけての冬期の飼養管理について、

JRA日高育成牧場で過去に行った調査の結果と、

それを踏まえて現在行っている方法をご紹介します。

 

○日本(北海道)における厳冬期の飼養管理の課題

 

馬産地としては寒冷な北海道の冬に馬を管理する上で、

課題となる点が2つ挙げられます(図1)。1つは運動量の減少です。

放牧地内にルーサン乾草を撒くなど工夫を行わなかった場合、

たとえ昼夜放牧(放牧時間17時間)を行っていたとしても

冬期の放牧地での移動距離は

秋の8~10kmから4~6kmにまで減少することがわかっています。

また、もう1つの課題は温暖な他国の馬と体重を比べてみると、

日高地方で飼われている馬は

冬の時期に明らかに体重の増加が停滞することです。

この2点を克服することが寒い北海道で

他国に負けない強い馬づくりを行う際の重要なポイントであると言えます。

 

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図1 寒い北海道では冬に運動量と体重増加をいかに落とさないかが課題

 

○JRA日高育成牧場で過去に行った調査

 

厳冬期における最適な管理方法を検討するため、JRA日高育成牧場では、

2010年から2012年にかけて調査を行いました。

その方法は、JRAホームブレッド16頭を出生日や体重、測尺の値が

概ね平均して同じになるように2つの群に分け、

1つは昼夜群とし約22時間の昼夜放牧管理のみを実施し、

もう1つは昼ウォーキング群(昼W群)とし、

約7時間の昼放牧にウォーキングマシン運動を負荷しました。

ウォーキングマシンは時速5kmを30分から始め、

最終的に時速6kmを60分まで徐々に負荷を大きくしました。

そして、2群間で放牧地での移動距離、体重や測尺値、

血液検査上の各種数値、体温や心拍数などの違いを調べました。

 

○放牧地での移動距離(GPSを用いた調査)

 

ここからは調査の結果についてご紹介していきます。

まず放牧地での移動距離についてGPS装置を用いて測定した結果、

昼夜群では放牧地の四隅にルーサンを撒くことで移動距離

すなわち運動量が7~12km程度まで増加しました(図2)。

昼W群では2~5kmと以前の調査と変わらない結果でしたが、

ウォーキングマシンによる運動を負荷することで

昼夜群と遜色ない運動量が確保できました。

また、GPSによりおおよそ22時から2時の約4時間は

放牧地に設置した風除け付近の寝藁の上で寝ていることがわかりました。

成長ホルモンは寝ている際に分泌されると言われており、

この約4時間の睡眠時間を快適に過ごさせることも

飼養管理上の1つのキーポイントとなるのではないかと考えられました。

 

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図2 工夫することで放牧地での移動距離を増やすことができる

 

○体重

 

昼W群で調査開始当初に一時的な体重減少が認められました。

この理由として、昼W群は調査開始時に

昼夜放牧から昼放牧に切り替えたことにより、

放牧時間が大幅に短縮し、青草などの腸管内容物が減少したこと、

および環境変化による一過性のストレスが原因と考えられました。

1年目と2年目の結果に違いがあるのは、おそらく種牡馬の違いが原因で、

平均体重に差があったためと考えられましたが、

体重増加の傾向に違いは認められませんでした。

昼夜群は、一日の大半を寒い野外で過ごすため、

体重増加が停滞することが心配されましたが、

これらのことからそのような現象は認められないことがわかりました。

 

Photo_3図3 冬期に昼夜放牧しても体重増加が停滞するわけではない

 

(つづく)

2018 JRAブリーズアップセール関連情報(事務局)

○上場番号が決定しました!!

2018JRAブリーズアップセールの上場番号が決定いたしました。

以下のリンク先、JRAホームページ上で公開しておりますのでご覧ください。

(上場候補馬一覧および上場候補馬血統表を更新しております)

 

   http://jra.jp/training/bus.html

 

今後セールに関わる更新情報等がありましたら、

当ブログや上述のホームページにて公開いたしますのでご確認ください。

今後ともJRAブリーズアップセールをよろしくお願いいたします!!

育成馬ブログ 日高⑦

日高育成牧場では、

JRAブリーズアップセールの上場馬名簿に掲載するための写真を

つい先日まで撮影していました。

皆さんは以下の馬体写真をどのように撮影しているかご存知でしょうか?

 

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実は、馬体撮影は、馬に適切な姿勢をとらせるための

ハンドリングテクニックが必要なことに加え、

日差しや風など天候の影響を受けるため、

想像以上の手間と時間をかけて行われているのです。

このため、1頭の馬に1時間近くかかることも珍しくありません。

そこで今回は、その撮影方法についてご紹介します。

 

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横見写真や駐立展示の基本となるのは、

「左表(ひだりおもて)」と呼ばれる馬体の左側面を見せる姿勢です。

この姿勢をつくる手順としては、

1.最初に人からのプレッシャーとその解除によって前進・後退を行い、

  人馬の間にある程度のスペースをつくります。

  最初から人馬の距離が近い状態で立たせると、

  写真を撮るタイミングで人が離れた際に、

  馬が人を頼って前に動いてしまいます。

 

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×人馬の距離が近い状態

 

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○人馬の間に適切なスペースがある状態

 

2.次に前進・後退によって、

  「軸」と呼ばれる左前肢と右後肢の距離を決定します。

  「軸」は長すぎず、短すぎず、

  馬体全体のバランスを勘案した適切な長さにします。

 

3.そして「軸」肢である左前肢と右後肢を動かさずに馬を前後させ、

  左後肢と右前肢の位置を決定します。

  この際、各馬の体型や肢勢に合わせて

  バランス良く駐立させることが重要です。

 

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4.右前肢と左後肢は、

  それぞれ「軸」肢である左前肢と右後肢よりも

  若干後方に位置させるように駐立させます。

 

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そのほかに写真撮影の時に気をつけていることは、

①平坦な場所、背景が落ち着く場所で撮影すること

②頚のラインを見やすくするため、タテガミは右に寝かせておくこと

③前傾姿勢にならないこと

④左右の耳が重ならず、いずれも前方に向いていること

⑤心臓に対して水平に馬体を撮影すること

などです。

 

下の写真は、後肢の間隔と位置は適切ですが、

左前肢と右後肢の間隔が広い、「軸」が長い立ち姿です。

 

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上の写真の姿勢から、数回前進・後退をさせた後の写真です。

今度は四肢の位置がバランス良く整いました。

 

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私たちは育成馬の写真を年に2回、

セリで購買した後の10月(パンフレット用)と

翌年の2月(上場馬名簿用)に撮影していますが、

その都度、各馬の成長を感じることができます。

4月9日に日高育成牧場で行われる展示会、

そして4月24日に中山競馬場で行われるブリーズアップセールでは、

それからさらに成長した育成馬たちをぜひご覧ください。