育成馬ブログ 生産編⑧(その1)
今回は当歳から1歳にかけての冬期の飼養管理について、
JRA日高育成牧場で過去に行った調査の結果と、
それを踏まえて現在行っている方法をご紹介します。
○日本(北海道)における厳冬期の飼養管理の課題
馬産地としては寒冷な北海道の冬に馬を管理する上で、
課題となる点が2つ挙げられます(図1)。1つは運動量の減少です。
放牧地内にルーサン乾草を撒くなど工夫を行わなかった場合、
たとえ昼夜放牧(放牧時間17時間)を行っていたとしても
冬期の放牧地での移動距離は
秋の8~10kmから4~6kmにまで減少することがわかっています。
また、もう1つの課題は温暖な他国の馬と体重を比べてみると、
日高地方で飼われている馬は
冬の時期に明らかに体重の増加が停滞することです。
この2点を克服することが寒い北海道で
他国に負けない強い馬づくりを行う際の重要なポイントであると言えます。
図1 寒い北海道では冬に運動量と体重増加をいかに落とさないかが課題
○JRA日高育成牧場で過去に行った調査
厳冬期における最適な管理方法を検討するため、JRA日高育成牧場では、
2010年から2012年にかけて調査を行いました。
その方法は、JRAホームブレッド16頭を出生日や体重、測尺の値が
概ね平均して同じになるように2つの群に分け、
1つは昼夜群とし約22時間の昼夜放牧管理のみを実施し、
もう1つは昼ウォーキング群(昼W群)とし、
約7時間の昼放牧にウォーキングマシン運動を負荷しました。
ウォーキングマシンは時速5kmを30分から始め、
最終的に時速6kmを60分まで徐々に負荷を大きくしました。
そして、2群間で放牧地での移動距離、体重や測尺値、
血液検査上の各種数値、体温や心拍数などの違いを調べました。
○放牧地での移動距離(GPSを用いた調査)
ここからは調査の結果についてご紹介していきます。
まず放牧地での移動距離についてGPS装置を用いて測定した結果、
昼夜群では放牧地の四隅にルーサンを撒くことで移動距離
すなわち運動量が7~12km程度まで増加しました(図2)。
昼W群では2~5kmと以前の調査と変わらない結果でしたが、
ウォーキングマシンによる運動を負荷することで
昼夜群と遜色ない運動量が確保できました。
また、GPSによりおおよそ22時から2時の約4時間は
放牧地に設置した風除け付近の寝藁の上で寝ていることがわかりました。
成長ホルモンは寝ている際に分泌されると言われており、
この約4時間の睡眠時間を快適に過ごさせることも
飼養管理上の1つのキーポイントとなるのではないかと考えられました。
図2 工夫することで放牧地での移動距離を増やすことができる
○体重
昼W群で調査開始当初に一時的な体重減少が認められました。
この理由として、昼W群は調査開始時に
昼夜放牧から昼放牧に切り替えたことにより、
放牧時間が大幅に短縮し、青草などの腸管内容物が減少したこと、
および環境変化による一過性のストレスが原因と考えられました。
1年目と2年目の結果に違いがあるのは、おそらく種牡馬の違いが原因で、
平均体重に差があったためと考えられましたが、
体重増加の傾向に違いは認められませんでした。
昼夜群は、一日の大半を寒い野外で過ごすため、
体重増加が停滞することが心配されましたが、
これらのことからそのような現象は認められないことがわかりました。
図3 冬期に昼夜放牧しても体重増加が停滞するわけではない
(つづく)