育成馬ブログ 生産編⑨(その2)
その1はこちら
乳汁の出が悪い母馬に対する処置(生産⑨) その2
ドンペリドン
ドンペリドンは吐き気止め、消化管機能改善薬として
利用されているドーパミン受容体拮抗薬という種類の薬剤です。
同様の作用を持つメトクロプラミドは血液脳関門を通過しますが、
ドンペリドンは通過しないため安全性が高いと言われています。
また、レセルピンと効果を比較した試験では、レセルピンを
投与された馬は沈鬱、下痢といった副作用が認められたのに対し、
ドンペリドンはより効果的で安全であったと報告されています。
以上のことから、アガラクティアに対する第一選択薬となっており、
米国では馬用にEquidone Gelというペースト剤が販売されています(図3)。
JRA日高育成牧場では人用のドンペリドン錠(10mg)を60錠、
砕いて粉にし飼葉に混ぜて与えています(図4)。
外見上で乳腺の発達具合(乳房の大きさ)を確認し、
また子馬が乳を飲んでいる様子を注意深く観察し
(母馬が嫌がるそぶりを見せたり、子馬がいつまでも満腹とならずに
寝ないといった様子であれば乳汁不足が推察されます)、
程度に応じて1日1回もしくは2回投与します。
図3 米国で販売されているEquidone Gel
図4 ドンペリドン錠60錠を砕いて粉にし飼葉に混ぜる
スルピリド
スルピリドは本来精神病や胃潰瘍の治療薬です。
注射薬が販売されているため、粉薬を残してしまう馬にも
投与することができます。JRA日高育成牧場では
ドグマチール(50mg)を10A、1日2回筋肉内投与しています。
図5 確実に投与したい場合は注射薬のスルピリド
クッシング病(PPID)で治療中の妊娠馬に対する注意点
かつてクッシング病と呼ばれていた下垂体中葉の機能異常
(Pituitary Pars Intermedia Dysfunction:PPID)で
治療中の妊娠馬では、治療薬であるドーパミン作動薬の
ペルゴリドがアガラクティアの原因となるため注意が必要です。
病状にもよりますが、一般的には分娩予定日の2週間前には
投薬を中止することが推奨されます。
いずれの治療薬についても、投与に際しては
かかりつけの獣医師にご相談ください。