育成馬ブログ 生産編⑪ その1
○ロドコッカス感染症への対策 その1
暖かくなり、子馬のロドコッカス感染症(肺炎)が多発する時期と
なりました。今回は、JRA日高育成牧場および米国ケンタッキー州での
ロドコッカス感染症対策についてご紹介します。
●ロドコッカス感染症の好発時期と子馬の血清中のIgG量の変化
ロドコッカス感染症はロドコッカス・エクイ菌(Rhodococcus equi.)
という細菌が原因の感染症で、出生直後よりも3~12週齢(1~3ヶ月齢)
での発症が多いことが知られています。細菌感染に対する免疫力の指標となる
子馬の血清中の抗体(IgG)量の変化をJRA日高育成牧場で
2014年から2017年に生まれた23頭の血清を用いて測定しました。
その結果、初乳を摂取したばかりの出生1日後をピークに、2ヶ月後まで
ゆるやかに減少していくことがわかりました(図1)。
この抗体(IgG)量が減少し免疫が低下する時期に土壌中などに生息する
ロドコッカス・エクイ菌に曝露されると、感染しやすく肺炎を発症しやすい
ということになります。そのため、生後3~12週齢(1~3ヶ月齢)の子馬は
細菌感染に弱いという認識を持ち、毎日検温するなど注意深く観察することが
この病気の早期発見・早期治療に対して重要なポイントとなります。
図1 子馬の血清中の抗体(IgG)量は出生2ヶ月後まで下がり続ける
●新生子馬に対する血漿製剤の投与
米国では子馬が感染しやすい病原体に対する抗体価を高めた血漿製剤が
市販され、広く普及していました。中でもロドコッカス・エクイ菌に対する
抗体が入ったものは最も一般的でした(図2)。ダービーダンファームでは
出生翌日に全頭に対してロドコッカス・エクイ菌およびウェルシュ菌
(Clostridium perfringens)に対する抗体が入った製剤を、
そして生後1ヶ月齢でロドコッカス・エクイ菌のみに対する抗体が入った製剤を
投与していました。副作用は特に認められませんでした。
1本約300ドルと高価ですが、ひとたびロドコッカス感染症により肺炎を
発症すれば長期間に及ぶ抗菌薬の投与が必要となり、それ以上の経費が
かかるため、血漿製剤を打つことで予防できるなら結局経済的だという
考え方がなされていました。
図2 米国では市販の血漿製剤が普及している
●血漿製剤のロドコッカス肺炎の予防効果(ケンタッキー大学での調査)
ケンタッキー大学の調査チームが過去に市販の血漿製剤のロドコッカス肺炎に
対する予防効果について発表しているので、ご紹介します(2015 AAEP
Proceedings p.37-38)。18頭の健康な当歳馬を用い、
半数の9頭を投与群とし生後48時間以内に血漿製剤を投与し、
もう半数の9頭はコントロール群として投与しませんでした。
そして全頭に生後48時間以降1週間以内にロドコッカス・エクイ菌を
人工的に暴露し、生後1~2週間の期間中に2回肺のエコー検査、
血液検査および気管支肺胞洗浄検査(BAL)を行い、肺の膿瘍のスコア、
血液中の白血球数、血小板数、フィブリノーゲンおよびIgG、
そして気管支肺胞洗浄液(BALF)中のIgGを測定しました。
その結果、エコー検査のスコア、血液中の白血球数、血小板数および
フィブリノーゲン濃度は全て血漿製剤を投与された群の値が
コントロール群の値よりも有意に低く、血清中およびBALF中のIgGは
血漿製剤を投与された群の値がコントロール群の値より有意に高いことが
わかりました。このことから、市販の血漿製剤は免疫力を高め、
ロドコッカス肺炎の予防に繋がる可能性が示されました。
このような調査研究の結果をもとに、米国の生産牧場では新生子馬に対する
血漿製剤の投与が普及していました。
(つづく)