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育成馬ブログ 宮崎③

○ 育成馬見学会と秋の馬事イベント(宮崎)

●育成馬の近況

 宮崎育成牧場所属のJRA育成馬の近況をお伝えいたします。9月上旬から

騎乗馴致を開始している1群(牡馬10頭)は、500mトラック馬場での速

歩およびハッキングを実施し、その後1600mトラック馬場において

1000mのキャンターを一列縦隊で実施し、手前を変えて1200mの

キャンターを2列縦隊で実施しています。

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1群牡の500m馬場(左)および1600m馬場(右)での調教の様子。

 

 一方、10月上旬から騎乗馴致を開始している2群(牝馬12頭)は、牡

同様に500mトラック馬場での速歩およびハッキングを実施し、その後

1600mトラック馬場において1200mのキャンターを一列縦隊で実施し

ています。

 スピードは1群および2群ともにハロン25秒程度とゆっくりとし

キャンターですが、年内は落ち着いて真っ直ぐ走行させることを主眼に置い

て調教を進めていきたいと考えています。

 

●育成馬見学会

 「秋の育成馬見学会」を10月27日(土)に開催しました。このイベント

は、毎年10月下旬と3月中旬の年2回実施しております。地元宮崎にお住ま

いのお客様に宮崎の地で成長していく育成馬の姿を間近で見て、少しでも身近

に感じていただくこと、さらに3月の見学会では「サポーターズクラブ」と題

して、お気に入りの牡馬および牝馬をそれぞれ1頭ずつ選んでいただき、その

馬が競走馬として活躍した際にはゴール前写真をプレゼントするなど、JRA

育成馬への応援を通じてより競馬に親しんでいただくことを趣旨に実施してい

ます。

 今回の育成馬見学会には、59名ものお客様にご来場いただきました。この

ような大勢の方々の前での展示は育成馬にとっては入厩後初めての機会となる

ため、普段と異なる雰囲気を察知して落ち着かない馬も散見されましたが、ほ

とんどの馬は大人しく駐立することができました。

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育成馬見学会の立ち馬展示(左)と厩舎内見学(右)の様子。

 

 参加いただいた方々に、「現時点におけるお気に入りの馬」を投票いただき

ました結果、牡馬はシンギングセンセーションの17(父:ヴィクトワールピ

サ)、牝馬はナムラメロディーの17(父:ゴールドシップ)が1番人気とな

りました。育成馬見学会に参加していただきました方々には、この紙面をお借

りしてお礼申し上げます。

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牡馬はシンギングセンセーションの17(左 父:ヴィクトワールピサ)、

牝馬はナムラメロディーの17(右 父:ゴールドシップ)が1番人気となりました。

 

●秋の馬事イベント

 ここからは宮崎で行われた秋の馬事イベントについて触れてみたいと思いま

す。ず、11月4日(日)には「第37回綾競馬」が宮崎県綾町の綾馬事公

苑内錦原競馬で行われました。当日は11レースが行われ、サラブレッド

25頭とポニー24頭が出走しました。

 馬券は発売されていませんが、綾町の特産品を購入すると、その中にレース

毎に2頭の馬番号が記された「お楽しみ券」が入っていて、券に記された2頭

の馬が1、2着に入ると景品がもらえるクジのような仕組みになっており、

「お楽しみ券」を手にした観客はレース毎に一喜一憂していました。「お楽し

み券」を購入していなくても、観客席と走路が非常に近く、草競馬ならではの

迫力が楽しめるのが最大の魅力となっています。宮崎育成牧場からはミニチュ

アポニー2頭を連れて行き、展示およびポニーショーで来場者に馬との触れ合

いを楽しんで頂きました。

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臨場感あふれる綾競馬(左)とポニーショー(右)の様子。

 

 また、11月10日(土)には当場において「市民馬術大会」が行われ、当

場の職員、当場で活動する少年団員、宮崎大学馬術部員が参加して4つの競技

が繰り広げられました。少年団員にとっては初めての競技となる団員もおり、

無事にゴールすると温かい声援が送られたり、昨年のBUセールを欠場した

「元育成馬」の障害飛越競技デビューも行われるなど、ローカル馬術大会なら

ではの参加者および観客とも楽しい大会となりました。

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競技デビューとなる少年団員(左)と元育成馬(右)の競技中の様子。

活躍馬情報(事務局)

11月11日(日)福島1R(2歳未勝利)で日高育成牧場で育成された

アンビル号はスタートから好位につけ、そのまま他馬を突き放し

2着に3馬身をつける快勝。うれしい初勝利を挙げました!

 

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 11月11日 3回福島競馬4日目 第1R 2歳未勝利 ダ 1,150m

アンビル号(ナムラミステリーの16) 牡

【 厩舎:竹内 正洋 厩舎(美浦) 父:ケイムホーム 

 

また11月11日(日)福島9R(3歳上500万下)で

日高育成牧場で育成されたトロピカルスパート号が、最後の直線の大外から

驚異の末脚を使い、3勝目を挙げました!

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11月11日 3回福島競馬4日目 第9R 3歳上500万下 ダ 1,150m

トロピカルスパート号(タヒチアンメモリの14) 牝

【 厩舎:高橋 文雅 厩舎(美浦) 父:フリオ-ソ

 

今後のさらなる活躍を期待しております。

育成馬ブログ 日高③

〇大腿骨遠位内側顆における軟骨下骨嚢胞について

 

 軟骨下骨嚢胞(subchondral bone cyst、いわゆる「ボーンシスト」、以下

SBC)は関節軟骨の下の骨が骨化不良を起こし発生する病変であり、遺伝、

栄養や増体率などの要因により、1~2歳の若馬の様々な骨に生じます。この

うち競走馬の育成に問題となるものとして、大腿骨遠位内側顆のSBCがあげら

れます。日高・宮崎両育成牧場では研究の一環として、毎年秋と春に育成馬の

膝関節のX線検査を行い、この病変の発生状況を調査しています。

馬の膝関節は図1の骨標本に示す位置にあり(図1)、SBCはX線写真では透亮

像(黒く抜けた所見)として認められます(図2)。

  1図1.馬の膝関節の位置

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図2.左:症例のレントゲン像 右:正常像

 

この病変は図3のとおり大きさと形状によって4つのグレードに分けられます。

図3.SBCグレードごとの形状と大きさ(出典:Santschi et.al, 2015,

Veterinary surgery, 44(3), pp281-8 )

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グレード1: 極わずかな軟骨下骨の窪み
グレード2: ドーム状の軟骨下骨の窪み
グレード3: ドーム状のX線透過部位を有する嚢胞
グレード4: 円形・釣鐘状のX線透過部位を有する嚢胞

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図3.膝関節部を後ろから撮影した像

 

 SBCグレードは数値が高くなるに従い、予後が悪くなる傾向にありますが、

X線検査で大型(直径10mm以上)のSBCが確認された1歳馬において、跛行を

示したのは2割以下であり、SBCを確認した馬が必ずしも跛行を呈するわけでは

ないとの報告もあります(妙中ら, 2017, 北獣会誌, 61, 207-211)。

 症状を伴わない場合は治療を行う必要はなく、調教を進めることができます

が、跛行する場合の治療の選択肢としては、①関節内へのステロイド注入、

②関節鏡下での掻爬術、③螺子挿入術(図5)が挙げられます。①のステロイ

ド注入はエコーガイドもしくは関節鏡下でSBC内にコルチコステロイドを注入

する治療法で、SBC内および関節面の消炎作用を期待して行います。②の関節

鏡下での掻爬術はSBCの変性した軟骨を取り除き掻爬することで、健常な軟骨

下骨および関節軟骨の再生を促す治療法です。③の螺子挿入術はSBCを跨ぐよ

うにして螺子を挿入することで固定・補強する治療法です。

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図5-①.ステロイド注入

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図5-②.掻爬術

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図5-③.螺子挿入術

 

 上述したSBCの治療法は一定の効果は認められているものの、ステロイド注

入法では2ヶ月、掻爬術では6ヶ月、螺子固定術では2ヶ月の休養が必要とされ

ます(Kawcak, 2011,  ADAMS&STASHAK’S LAMENESS IN HORSES

SIXTH EDITION, pp801-4およびSantschi et.al, 2015, Veterinary

surgery, 44(3), pp281-8 )。また、SBC自体に未解明の部分が多いため、

確実な治療法としては確立していません。そのため、日高・宮崎両育成牧場で

は、発症時期、原因、跛行との関連性および病変と競走成績の関連性を明らか

にするとともに、治療を含めた管理方法の確立を目指して研究を継続します。

活躍馬情報(事務局)

11月4日(日)京都2R(2歳未勝利)で

日高育成牧場で育成されたメイショウクライム号が、スタートから先頭を奪い

最後の直線では粘りの走りを見せ、うれしい初勝利を挙げました!

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11月4日 5回京都競馬2日目 第2R  2歳未勝利 芝 1,800m

メイショウクライム号(アイカギの16) 牡

【 厩舎:高橋 亮 厩舎(栗東) 父:ケープブランコ 】

 

今後のさらなる活躍を期待しております。