育成馬ブログ 生産④
○ブセレリンを用いた発情誘起
過去に同ブログおよび強い馬づくり講習会でデスロレリンを用いた発情誘起
についてご紹介いたしましたが、デスロレリンは輸入薬のため代わりに国内で
一般的に入手できる薬剤でできる方法はないかという質問を多数受けました。
文献を探していたところ、Journal of Equine Veterinary Scienceという米国
の雑誌に、ブセレリンを用いた発情誘起に関する報告が記載されていましたの
で、今回ご紹介いたします。
●ブセレリン製剤(エストマール注)
ブセレリンはゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)様作用を持ち、我が国
では「エストマール注」という薬剤が牛の卵胞嚢腫、卵胞発育障害(卵巣静
止)、排卵障害の治療用として市販されています(図)。
図 ブセレリン製剤(エストマール注)
●発情誘起に対するブセレリンの効果
米国にあるハグヤード馬医療機関およびケンタッキー大学のグループが、79
頭のサラブレッド繁殖牝馬を用いた調査によると、ブセレリンの1日2回12.5μg
ずつ筋肉内投与により、卵胞が35~40mmに発育した牝馬は71%で、その平均
治療日数は10.42日であったと報告されています。卵胞の発育後、排卵した牝
馬は64%とやや低かったですが、受胎した牝馬は72%と高い割合を示しまし
た。
詳しく知りたい方は、2018年のJournal of Equine Veterinary Science 66号
p.98をご覧ください(英文)。
●デスロレリンとの効果の比較
2018年5月の同ブログでも記載しましたが、日高軽種馬農協の柴田獣医師ら
のグループが、2014年から2016年にかけて87頭のサラブレッド繁殖牝馬を用
いて行った調査によると、デスロレリンの1日2回150μgずつ筋肉内投与によ
り、卵胞が35~40mmに発育した牝馬は68/87頭(78.2%)で、その平均治療
日数は5.3日(3~14日)であったと報告されています。卵胞の発育後、交配か
ら2日以内に排卵した牝馬は43/46頭(93.5%)と、卵胞が発育してしまえば
ほとんどの牝馬が排卵に至ることがわかっていますが、受胎した牝馬は28/66
頭(42.4%)と低い割合にとどまりました。しかしながら、排卵後に33/38頭
(86.8%)の牝馬が正常な発情サイクルを取り戻し、通常の方法での交配に移
行できたことが確認されています。
ブセレリンとデスロレリンの効果を比較すると、卵胞が発育した牝馬の割合
はどちらも7割程度と遜色なく、平均治療日数はデスロレリンの方が約半分と短
く、排卵した牝馬の割合もデスロレリンの方が高い一方、受胎した牝馬
の割合はブセレリンの方が高いという結果でした。
現在のところデスロレリン注射薬は国内では製造されておらず、使用するた
めには海外から輸入しなくてはなりませんが、ブセレリンは日本製の薬剤が市
販されています。何らかの原因により卵胞が発育しなくなってしまった牝馬の
治療の選択肢の一つとして、今回ご紹介した方法がお役に立てば光栄です。
これらの方法を試したい場合はかかりつけの獣医師にご相談ください。