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育成馬ブログ(生産⑥)

乳汁のpH値測定による分娩予知(米国イリノイ大学での調査)

 

 だいぶ暖かくなり、すでに分娩が始まっている牧場も多いことかと思いま

す。今回は以前よりJRA日高育成牧場で行っている妊娠馬の乳汁のpH値測定

による分娩予知について、米国でも同様の研究を行ったという報告がありま

したので、ご紹介いたします。

 

●乳汁のpH値測定による分娩予知

 過去に本ブログ(https://blog.jra.jp/ikusei/2011/05/post-d30d.html

でも紹介してまいりましたが、妊娠馬の乳汁のpH値低下が分娩予知に応用でき

ることを当場の頃末らが発見し、2013年に米国の学術雑誌“Journal of the

American Veterinary Medical Association”に論文として発表しました

(242号242~248ページ)。2014年には英国の教科書“Equine

Reproductive Procedures”にも引用され、馬の臨床上有用な研究成果である

ことが世界的に評価されています。(図1)

Photo

図1 英国の教科書にも乳汁のpH値による分娩予知が掲載されています

 

●米国イリノイ大学での調査

 米国イリノイ大学でも同様の研究が行われ、2016年のAAEP(アメリカ馬臨

床獣医師協会)年次大会で発表されました。研究に供された品種および頭数は

明らかにされていませんが、分娩前の乳汁pH値の低下には下記の3パターンが

あったとのことでした。

 ①Fast Decrease:分娩直前にpHが下がるパターン。

 ②Slow Decrease:徐々にpHが下がるパターン。古馬に多かった。

 ③Alkaline pH:pHが下がらないまま分娩するパターン、極めて稀、乳汁中

  のNa+, K+, Ca2+も同じく変化していなかった。

 

●JRA日高育成牧場でのその後の調査結果

 2013年の発表後も、当場では分娩前の妊娠馬の乳汁pH値のデータを蓄積し

ています。イリノイ大学での調査結果と同じく、乳汁pH値は分娩当日まで低下

しないパターン(図2)および分娩5日ほど前から低下するパターン(図3)が

あることから、データを毎年記録することがその馬の分娩予知の精度の向上に

役立つと考えています。

Photo_2

図2 乳汁pH値が分娩当日まで低下しないパターン

Photo_3図3 乳汁pH値が分娩5日ほど前から低下するパターン

 

 また、当場では分娩予知のための乳汁の採取を夕方(16~17時)に行ってい

ますが、そのpH値が基準値となる6.4まで低下していなかったにもかかわらず

分娩した例が約10%ありました。これらの馬においても、分娩直前の乳汁pHは

いずれも6.4以下であり、分娩前のpH低下時期には個体差が大きいことが示唆

されました。

 このことから私たちは現在、乳汁pHに加え繁殖牝馬の分娩直前の行動パター

ン、発汗量などの指標により分娩予知の精度向上を目指した研究を進めている

ところです。今後も、当場からの新たな研究成果の発信にご期待いただけまし

たら幸いです。