育成馬ブログ(日高④)
強い馬づくりのための生産育成技術講座2019
~進化するサラブレッド育成馬の調教~
12月に入り、日高育成牧場では雪がちらつく日も多くなってきました。現在、育成馬たちは屋内800m周回コースおよび屋内坂路馬場での調教に加えて、週に1回、トレッドミルを用いた強調教を実施しています。また当場ではトレッドミルでの強調教後にルーチンで血液を採取し、乳酸値を測定しています。
近年、競走馬の世界では人間のアスリートと同様に乳酸値をトレーニング負荷の指標として活用する方法が広がりつつあり、当ブログでもたびたび当場における乳酸値の活用方法を紹介しています。
https://blog.jra.jp/ikusei/2019/01/post-7abd.html
(トレッドミル調教後の採血)
さて今回は、11月18日と19日に浦河と門別で「強い馬づくりのための生産育成技術講座2019~進化するサラブレッド育成馬の調教~」が開催されましたので、その概要についてお伝えします。
この講座は生産育成にたずさわる関係者への情報提供・技術普及を目的としており、今回は育成牧場関係者や馬獣医師など、浦河では約110名、門別では約170名が参加しました。
本年度のテーマは冒頭にも紹介しました「乳酸」。特別講演として、乳酸を活かしたスポーツトレーニング・運動と疲労との関係など運動生理学の分野で第一人者である東京大学の八田秀雄教授から「乳酸をどう考え利用したらよいのか?」というテーマのお話をしていただきました。http://jp.youtube.com/watch?v=DmQUIo_A9uE
(壇上で特別講演をされる八田教授)
八田教授の講演では、これまで「疲労物質」というような見方をされてきた乳酸が、実はエネルギー源となる物質であること、その乳酸を利用する能力のある細胞内のミトコンドリアを高強度トレーニングで増加させることが重要であることが示されました。八田教授はこれまでJRA競走馬総合研究所と長きに亘り共同研究をされてきていることから、サラブレッドのトレーニングについても精通されており、競走馬においても人間のアスリートと同様に高強度トレーニングによってミトコンドリアを増加させることで強い馬を作り出せるのではないかという考えを示されました。
また当場業務課長の冨成から「日高育成牧場における乳酸を指標とした育成調教」http://jp.youtube.com/watch?v=u1XQ5jRX9wk むかわ町にある育成牧場エクワインレーシングの瀬瀬代表から「科学的トレーニングへの可能性~エクワインレーシングの取り組み~」http://jp.youtube.com/watch?v=uJhcz6Fo1cY というタイトルで話題提供が行われました。どちらの牧場においても調教後乳酸値は運動負荷の指標として非常に有用であると報告され、その具体的な活用方法についても紹介されました。
最後の総合討論では、調教後乳酸値の目標値の設定など、競走馬における乳酸値の利用に関して検討課題が多くあることなど有意義な意見交換が行われました。http://jp.youtube.com/watch?v=WIcp3BAof9c
今回の講座を受けて、これまで乳酸値を測定していなかった育成牧場が導入したり、すでに活用していた育成牧場でも今回の発表をふまえ、さらなる活用が行われるかもしれません。当場でも引き続きデータを蓄積し、多くの育成牧場の皆様のお役に立つような研究を積み重ねて参りたいと考えています。