育成馬ブログ(2020年 日高①)
JRA育成馬の狼歯について
コロナの影響で、今年は8月にセレクションセールとサマーセールが連続して開催されました。日高育成牧場にはこれらのセリで購買した42頭のほか、ホームブレッド7頭および7月のセレクトセールで購買した1頭の合計50頭が在厩し、騎乗馴致を進めています。
騎乗馴致前に狼歯の抜歯
当場では、毎年騎乗馴致前に育成馬の口腔内を検査し、狼歯があれば抜歯しています。狼歯とは第二前臼歯のすぐ吻側に萌出する第一前臼歯のことで(図1)、調教を進める過程でハミ受けのトラブルの原因となる可能性があるため、予防の意味で抜歯します。狼歯は見えている部分はわずかですが歯根が長く(図2)、エレベーターと呼ばれる器具で周囲の歯肉を丁寧に剥離した後、ロンジャーと呼ばれるペンチのような器具で折らないように抜歯します。
図1 狼歯(矢印)
図2 抜歯した狼歯(青矢印が歯根)
JRA育成馬の狼歯保有率
2017年から2019年に当場に入厩した育成馬のうち、入厩前に抜歯を済ませてきた馬を除く173頭について狼歯保有率を調べてみたところ、86.7%にあたる150頭に狼歯が認められました。狼歯保有率の内訳は牡が81.2%(69/85)、めすが92.0%(81/88)でした(図3)。左のみに狼歯が認められた馬が4.0%(7/173)、右のみに狼歯が認められた馬が2.9%(5/173)、左右両方に狼歯が認められた馬が79.8%(138/173)、全く認められなかった馬が13.3%(23/173)でした(図4)。
図3 狼歯保有率の雌雄差
図4 狼歯の位置
埋没狼歯(Blind Wolf Tooth)
萌出せずに歯肉に覆われている第一前臼歯は、英語でBlind Wolf Toothと呼ばれ、埋没狼歯や盲狼歯と和訳されています。2017年から2019年に当場に入厩した育成馬に認められた狼歯288本中13.2%にあたる38本がこの埋没狼歯でした。
第二前臼歯の吻側の歯肉下にあることが触診で容易にわかることもありますが、位置や大きさが不明な場合にはエックス線検査(レントゲン)によって診断します(図5)。通常の狼歯よりも埋没狼歯がある馬の方がハミ受けに対して不快感を示す場合が多いと言われています。埋没狼歯が確認された場合には覆っている歯肉を切開してから、通常の狼歯の場合と同様に抜歯します。
図5 埋没狼歯(矢印)
2017年から2019年に当場に入厩した育成馬には認められませんでしたが、狼歯が上顎ではなく下顎にできる場合もあります。こちらについても通常の狼歯よりもハミ受けに悪影響が出ると言われているため、速やかな抜歯が必要となります。
以上、当場で行っている狼歯抜歯についてご紹介しましたが、今回の記事が皆様の馬の健康管理に少しでもお役に立てば幸いです。