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育成馬ブログ(2020年 生産②)

Withコロナで実施する研修

 今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、多くのイベントが中止や延期に追い込まれていることは、皆様も実感しているところかと思います。サラブレッド生産地においても、北海道トレーニング・セールの中止にはじまり、多くの1歳市場が入場制限や新型コロナウイルス感染症対策を講じた上での開催となったことは皆様もご存じのことでしょう。日高育成牧場では、例年行っている一般の方を対象としたバスツアーを全面中止しております。さらに、例年8月に実施していた獣医学生を対象とした研修であるサマースクールについても、新型コロナウイルス感染症の情勢が読めないことから中止という判断を下しました。

 しかしながら、いつまでも外部からの研修を中止し続けるわけにもいかず、Withコロナの時代に合った「新しい研修様式」を模索しなければならない状況となっています。今回の記事では、新型コロナウイルス感染症対策を講じた上で実施した研修の報告と、これから実施する予定の研修についてご紹介したいと思います。

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写真1.コロナ禍でも“集団”で行動する離乳後の当歳馬たち

コロナ対策を講じた当歳離乳見学研修
日高育成牧場では、JBBA生産育成技術者研修生を対象とした実習形式の研修を毎年受け入れています。例年は8月末から9月上旬にかけて行われる当歳馬の離乳の際に、研修生に日高育成牧場まで来てもらい、離乳や当歳馬に関する講義と実際の離乳を見学する研修を行っていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の情勢が予断を許さない状況では、例年と同様の形での研修の実施には問題があると考えられ、何かしらの対策を講じなければならないと考えました。

 まず、講義室という「3密」の空間で行われる講義での感染リスクを少しでも低下させるために、本年の講義はZOOMを活用したオンラインで実施しました。その結果、講師であるJRA職員が研修生と接触する機会を減らすことができました。さらに、このオンライン上での講義には別の効果もあり、例年では実習の直前に行っていたため研修生が内容を良く理解するための時間がなかったわけですが、今回は実習の1週間以上前に実施したことで内容を復習する時間ができたと思います。

 一方で、離乳の見学実習については実際に日高育成牧場に来てもらう必要があります。例年であれば研修生全員が同じ日に牧場に来て見学をしていたのですが、今年は少人数(5人以下)のグループに分けて、複数回に分けて実施しました(写真2)。日高育成牧場での離乳は、親子馬群の中から母馬を段階的に他の放牧地に移していく「間引き法」で実施しています。これは当歳馬への精神的なストレスの影響を最小限にするために実施しているものですが、結果的に複数回の研修にも対応できる形になりました。このように、新型コロナウイルス感染症対策を講じた形で、「新しい研修様式」で無事に研修を行うことができました。

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写真2.離乳後の当歳馬の様子を見学する研修生たち

JRA日高育成牧場 実践研修プログラムのご案内
JBBA軽種馬経営高度化指導研修事業の一環として、JRA日高育成牧場では実践研修プログラムを開催しています。これは、競走馬の生産・育成に従事されている方を対象とした、実習と講義を主体とする実践的な研修です。講師はJRA職員が担当し、日高育成牧場で繋養されている馬たちを用いた実習も行うことができます。

本年は、参加人数制限やマスク着用などの新型コロナウイルス感染症対策を講じた中での研修となりますが、可能な限り例年と同様のクオリティの研修を行っていきます。すでに実践研修プログラムの募集は開始しており、12月18日(金)までの月曜~金曜の間の1日(2~4.5時間)で行うことになります。新型コロナウイルス感染症の今後は見通せない状況が続いていますが、そのような状況下であっても何かを学びたいという方々の申し込みをお待ちしております。

実践研修プログラムの詳細はこちら

https://jbba.jp/news/2020/pdf/jissenkenshu2020.pdf

育成馬ブログ(2020年 生産①)

草地更新とは?

 競走馬の生産牧場における草地(放牧地や採草地)の重要性は言うまでもありませんが、他の作物と同様に、同じ草地を連続で使用することによる土壌成分の枯渇、牧草の栄養価低下、雑草の繁茂などが問題となります。そのため、定期的な「草地更新」を行うことが望まれます。

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写真1.放牧地で牧草を食べる馬たち

 

草地更新前の準備

 草地更新を行う判断は、上述のように雑草が多くなったというような“主観的な”基準がきっかけになるかと思いますが、更新を行う前に土壌の状態を科学的に調べて“客観的な”基準も参考にすることが大切です。JRA日高育成牧場では、公益社団法人日本軽種馬協会(JBBA)が行っている事業を活用して、更新を予定している草地の「土壌分析」を行っています。

 土壌分析は、JBBAに分析依頼申請を行った後、対象となる草地の概ね5か所以上から土壌サンプルを採材し、分析機関に送付するだけで結果を得ることができます(表1)。この分析結果は、草地更新時に使う肥料や土地改良資材の使用量を決定するために必要な情報となるので、とても重要なものになります。また、草地に関する基礎的な情報(土壌の種類、広さ、牧草の種類など)を再確認するという意味でも、有益なことだと考えられます。

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図1.草地更新前に実施した土壌分析結果

 

草地更新の流れ

 土壌分析を行い、更新をしたい草地の状況を把握した後、いよいよ草地更新を行っていくことになります。一般的な草地更新(完全更新法)の流れをまとめると、表1の通りです。現在JRA日高育成牧場で行っている方法では、8月中旬から作業を開始しています。まずは、対象となる草地の雑草を含む牧草を除くために(1)除草剤を散布します。その後、枯れた草を埋没させるために(3)耕起を行い、この状態で冬を越すことになります。

Photo_5(サラブレッドのための草地管理ガイドブック【JBBA発行】を参考)

 

 翌春の土壌の凍結がなくなった4月下旬頃に、土壌の状態を改善するための(4)土壌改良資材を散布(土壌分析結果に基づいた量)し、そして土地を整えるための(5)砕土・混和・鎮圧(写真2)を行います。その後、埋没種子(土壌に残っていた種)から発芽した雑草を処理するために、再び除草剤を撒きます。JRA日高育成牧場では、雑草の生育が盛んとなる5月頃と播種前の8月頃の2回にわたって除草剤処理を行っています。そして、寒くなる前(9月頃まで)に(7)施肥・播種・鎮圧を行うことで、ついに草地更新作業が終了となります。このように、草地更新は1年間をかけて行う根気のいる作業となります。

 

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写真2.鎮圧の様子

草地更新後の管理

 これまで述べてきたように、草地更新は牧草の種を撒くまででとりあえずは作業が終了となります。しかしながら、種を撒いて発芽(写真3)してからの管理も非常に重要となります。その後の管理が不適切であると、牧草が順調に育たないだけでなく、最悪の場合には牧草が定着しない可能性もあります。それを避けるためには、適切な時期に追肥(追加の肥料散布)することや、雑草を取り除くための掃除刈り(雑草が成長・繁殖する前に刈り取る作業)をすることが重要になってきます。

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写真3.草地更新後に発芽した牧草

 

 また、更新した草地の管理方法について再検討することも非常に大切です。そもそも、放牧地が荒れた原因を究明しないことには、草地が再び荒れてしまう可能性が高いと考えられます。草地が荒れる原因としては、放牧地の利用状況が悪い(放牧頭数が多い、放牧時間が長いなど)、肥料の施肥量や施肥時期が不適当、掃除刈りの実施方法が不適当(実施頻度が少ない、刈り取りの高さが長いなど)が考えられます。これらに対して適切な管理方法をすることで、草地が良い状態に維持されるだけでなく、草地更新にかかる費用も抑えることが可能になると思われます(図1)。

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図1.草地更新の要点

 

 日本の牧場においては、放牧地の広さの問題もあって更新時の代替放牧地の確保が難しく、今回ご紹介した完全更新法による草地更新はなかなか困難であると思われます。そのような場合には、簡易更新法を実施してみても良いのかもしれません(詳細はサラブレッドのための草地管理ガイドブック【JBBA発行】をご参照ください)。今回の記事をきっかけに、いま一度「草地更新」について考えていただくことになれば幸いです。

サラブレッドのための草地管理ガイドブックはこちら

https://jbba.jp/data/booklet/guide/pdf/THOROUGHBRED_guide_all.pdf

活躍馬情報(事務局)

10月18日(日)新潟競馬4R3歳以上1勝クラスでは、宮崎育成牧場で育成されたダイヤクイン号が勝利しました。

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10月18日(日)4回新潟競馬 第4日目 4R

3歳以上1勝クラス ダート1,200m

ダイヤクイン号(マイネカプリースの16) 牝

〔厩舎:羽月友彦(栗東) 父:クロフネ〕

  

今後のさらなる活躍を期待しております。

育成馬ブログ(2020年 宮崎②)

〇 ウインズのある宮崎育成牧場

 世界的にも新型コロナウイルス対応に追われた夏でしたが、宮崎育成牧場でも毎年夏の恒例の馬事イベント「馬に親しむ日」は中止とさせていただきました。毎年楽しみにされていた方も多いことから非常に残念ですが、来年は開催できる状況になっていることを願っています。

 また、当場の行事ではありませんが宮崎地方のもう一つの大きな行事「綾競馬」も中止が決定してしまいました。例年11月初旬に宮崎県綾町で行われる迫力満点の草競馬で、地元の方にとって最も身近な「競馬」であるだけに非常に残念な思いです。

 そのような中ではありますが、宮崎育成牧場内にあるウインズ宮崎は全国のウインズに先駆けて7月11日より営業を再開しております。ソーシャルディスタンスを保つなど感染予防策を講じたうえでの限定的な営業時間内での再開ではありますが、公園地区を含め当場を訪れるお客様も増えているようで、少しずつ賑わいを取り戻しつつある状況です。

 このウインズには当牧場で育成した活躍馬の写真も掲示されていて、育成牧場のなかにあるウインズならではのものとなっています。館内には本年活躍しているヨカヨカ号(宮崎育成牧場出身)の写真も展示してありますので、是非ご注目いただければと思います。なお、ヨカヨカ号は熊本産馬ということで、ウインズ八代(熊本県)にも写真を飾ってもらいました。     

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【写真1】ウインズ八代にもヨカヨカ号の写真を展示しています

 また、ウインズ宮崎は育成牧場内にあることから、全国で唯一馬の調教の様子を見ることができるウインズでもあります。まだ躾の行き届いていない幼稚園生のような馬たちですので、馬の近くでご覧いただくわけにはいきませんが、タイミングが良ければダートコースを走る姿も見ることができます。

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【写真2】ウインズ宮崎の屋外からは調教の様子も見ることができます

 

〇 育成馬の入厩完了

 さて、先日のセプテンバーセール(北海道)で本年の育成馬の購買が終了し、本年のラインアップが揃いました。今年も全国の1歳セリで購買した馬とJRA日高育成牧場で生産した馬を併せた22頭の育成馬が宮崎に入厩しました。育成馬の日高と宮崎の各育成牧場への振り分けについては、施設面や牡牝のバランス、血統、購買価格など様々な要素を検討したうえで決定しました。
今年も各セリでの購買馬が決定するたびごとに振り分けを行い、宮崎行の馬20頭を3回に分けて輸送しました。特に3回目の輸送では台風12号が接近している中での輸送でしたので、輸送計画の変更を余儀なくされましたがなんとか無事に終えることができました。今年も育成馬の輸送の様子はグリーンチャンネルの番組「馬産地通信」で紹介されており、毎年楽しみにされている方もいらっしゃるようです。今年の放映は既に終了しているようですので、もし来年の視聴機会があればチェックしてみてください。

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【写真3】長距離輸送時は馬運車内で給餌します

 全馬の入厩が完了した後、馬たちの健やかな成長とこれから本格的に始まる育成業務の安全を祈願して入厩神事を執り行いました。同時に各所のお祓いもしていただきましたので、人馬のけがなく育成馬を送り出していけるようにしたいと思います。

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【写真4】馬場のお祓いをしていただきました。落馬しませんように!