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育成馬ブログ(2021年 生産③)

冬期の成長停滞とその対策

全国的な寒波の襲来により、日高地方も平均気温が-10℃を下回る極寒の日々となっています。昨シーズンは積雪の少ない暖かい冬でありましたが、本シーズンはこれまでのところは例年並みの積雪の日々となっています。年が明けて1歳となった子馬たちも、このような厳しい寒さの中でたくましく育っているところです(写真1)。

1_2写真1.氷点下の中で日向ぼっこをする1歳馬たち

子馬の成長停滞
日高地方の厳しい寒さは子馬の成長にも大きな影響を与えることは、みなさまも実感しているところかと思います。当歳の春から1歳の春までの1年間にわたる馬体重の推移を図1に示しました。こちらのデータは2017年から2019年に生まれたJRAホームブレッド24頭のものを使用しています。春に生まれた当歳は、緩やかな曲線を描いて成長していきますが、最低気温が氷点下となってくる12月初め頃から成長の停滞が認められます。その後、寒さの続く3月末頃まで、仮想の成長曲線に比べて実際の成長曲線が大きく乖離していることがお分かりいただけると思います。

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図1.子馬の馬体重の推移

 さらに、寒さの緩和してきた4月以降についても、仮想の成長曲線に近い値まで戻るには約2か月かかっていることもお分かりいただけると思います。このような成長停滞は、成馬となった時の馬体重に影響を与える可能性が示唆されるだけでなく、DOD(発育期整形外科疾患)の発症にも大きく影響を与えています。そのため、この時期の成長停滞を予防することがとても重要となり、生産牧場の方々も頭を悩ませていることと思います。

成長停滞を予防するための対策
成長停滞を引き起こす要因は、大きく分けて①栄養摂取量の低下、②寒さによるエネルギー消費量の増加、③放牧地での運動低下の3つに分けられるかと思います。これらの要因に対する対策について、JRA日高育成牧場が行っている方法をご紹介していきたいと思います。

まず、①栄養摂取量の低下については、11月頃までは放牧地で摂取可能であった青草の生育が止まって枯れることにより、粗飼料の摂取量が低下することが大きな原因です。さらに、12月以降は積雪によって放牧地が覆われると、よりいっそう粗飼料を摂取する機会が少なくなります。粗飼料は腸管内で腸内細菌によって発酵分解される際に熱を発生させることから、えん麦などの濃厚飼料に比べ体温を維持する効果が高いので、冬期の飼料として優れています。多くの生産牧場においても、自家製のロール乾草を放牧地内に設置することを行っていることと思います。JRA日高育成牧場では、イネ科牧草よりも多くのカロリーを含むマメ科のルーサン乾草を毎日放牧地に投げ入れることで、粗飼料摂取量を維持しています(写真2)。このように、上質な粗飼料を良い状態で摂取できる点は大きなメリットであると考えています。

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写真2.積雪上に散布されたルーサン乾草を食べる子馬たち

 つづいて、②寒さによるエネルギー消費の増加への対策は、馬服を着用することや退避場所として放牧地内にシェルターを設置することで対応しています。GPSを用いて昼夜放牧(22時間)を行っている子馬の行動を観察した結果、約6時間はシェルター内で過ごしていることが分かっています。このことは、風や雪を防げるシェルター内が過ごしやすい休息場所として役立っていることを示唆しており、寒さ対策を行いながら昼夜放牧を行う上ではシェルターが重要な設備であると思われます。シェルター内で過ごした場合には、放牧地内で過ごすよりも20%以上の熱量を節約できるという報告もあります。

 そして、③放牧地での運動低下への対策としては、当歳の12月よりウォーキングマシーンによる運動を実施しています。子馬の成長にとって運動が重要ということはみなさまも実感しているところかと思います。運動させた子馬と運動させなかった子馬を比較したところ、運動させた方の子馬で骨密度が増加したり、屈腱が発達したりしたという報告もあります。しかしながら、GPSを用いた子馬の放牧地での行動分析によると、冬期は放牧地内での移動距離が短くなることが分かっています。そのため、低下した運動量を補うことで、骨や屈腱の成長を促すことを目指しています。

 これまでご紹介してきたように、JRA日高育成牧場では成長停滞に対応するための様々な試みを行っていますが、最適な対策法を見いだせていないのが現状です。冬期に体重が落ちた馬を再び元の状態に戻すためには、体重を維持するために必要な労力と同等かそれ以上の労力が必要とも言われています。そのため、今後も適切な冬期の飼養管理方法を検討していき、その成果をご紹介できるように努めていきたいと思います。