育成馬ブログ(2020年 生産④)
良好な初乳を得るための分娩前の準備
2月になっても日高地方では依然として寒い日々が続いており、馬たちも寒さに耐えながら生活しています(写真1)。春が待ち遠しいところですが、出産シーズンは春よりも早く一足先に訪れます。JRA日高育成牧場でも、2月下旬から子馬が生まれる予定で、妊娠馬の管理も佳境に入ってきています。分娩後の子馬にとって、初乳(分娩直後の抗体を多く含んだ母乳)が重要なことは多くの方がご存じのことかと思いますが、今回は良質な初乳を得るために分娩前にできることについてお話していきたいと思います。
写真1 放牧地のシェルター内で寒さをしのぐ1歳馬たち
分娩前の予防接種
多くの生産者の方は、インフルエンザや破傷風といったサラブレッドに基本的に接種しているワクチンに加え、妊娠馬に対しては流産予防を目的とした馬鼻肺炎ワクチンを接種していることかと思います。馬鼻肺炎ワクチンは、流産の発生する妊娠後期に最も効果を発揮させるため、妊娠7~9か月齢の間に接種することが推奨されています。JRA日高育成牧場では、上記の期間に生ワクチンを2回接種しています。このワクチン接種は流産予防が第一の目的ですが、ここで作られた抗体が初乳から子馬に移行することで、子馬が馬鼻肺炎に感染することを防ぐことにも役立っています。
さらに良質な初乳を作るためには、初乳への抗体が作られる分娩1か月前までにインフルエンザ、破傷風およびロタウイルスなどのワクチン(写真2)を接種することが望まれます。特に、出生後の子馬に重篤な下痢を発生させるロタウイルス感染症を予防するためには、母馬にロタウイルスワクチンを接種しておくことが非常に重要となります。JRA日高育成牧場では、ロタウイルスワクチンの1本目(基礎)を分娩2か月前に、その2本目(補強)およびインフルエンザ、破傷風を分娩1か月前に接種しています。
写真2 ロタウイルス、破傷風、インフルエンザワクチン
分娩前後の環境へ慣らす
一般的に、妊娠馬は遅くとも分娩1か月前までに分娩を行う厩舎に移動することが推奨されています。これは、分娩を行う厩舎の環境に慣らすことで、落ち着いた状態で分娩させることのみならず、分娩厩舎の環境中にいる細菌やウイルスに接触させることで、それらに対する抗体を作らせることも目的にしています。その結果、生まれた子馬は環境中の細菌やウイルスに対する抗体を含んだ初乳を飲むことになり、病気にかかりにくくなります。
分娩をする馬房だけでなく、出生後の子馬を放すパドックや放牧地などにも母馬を触れさせておくことが重要となります(写真3)。JRA日高育成牧場では、分娩1か月前になった段階で、インドアパドックや小さい放牧地に妊娠馬を最低1日以上放すことを行っています。
写真3 分娩後に使うインドアパドックに放される妊娠馬
良質な初乳を得られない場合への対策
これまでお話してきたような準備を行ったとしても、良質な初乳が得られない状況がどうしても発生してしまいます。そのような状況への対策としては、凍結された良質な保存初乳を準備しておくことになります。一般的に、Brix値(糖度)が20%以上の初乳が良質とされており、初産ではない乳量の多い(乳房の大きい)繁殖牝馬から300ml程度の初乳を冷凍保存(-20℃で1年程度)しておくことが推奨されています。JRA日高育成牧場でも、過去に得た冷凍保存初乳がストックされており(写真4)、母馬の初乳のBrix値が低い場合などに、積極的に活用しています。
写真4 ファスナー付きバッグに入れ、空気を抜いて密封保存した初乳
生産地はこれから分娩や種付けの日々が続き、忙しい季節になるかと思います。そのような忙しい日々の負担を減らすためには、事前の念入りな準備が重要であると考えています。今回お話した内容によって、1頭でも健康な子馬が増えることを願っています。