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育成馬ブログ(生産②)

牧草分析と結果の活用について(生産②)

 

収穫した乾草を毎年分析
 JRA日高育成牧場のある浦河町でもそろそろ放牧地が雪で覆われる季節が近づいてきました。放牧地の牧草を食べることのできない間は、良質な乾草を給与することが重要となります。本場でも本年収穫した乾草が倉庫内に積みあがっており、厳冬期で使用するための準備が整っています(写真1)。

 

Photo_3写真1 JRA日高育成牧場で本年収穫された乾草

 

 多くの生産者の方が良質な乾草を給与することを望んでいると思います。乾草の見た目でその質をある程度は判断できますが、正確な評価をするためには牧草分析を行うことが推奨されます。表1はアメリカ産輸入乾草および日胆産乾草の主な栄養価を示しています。これらの値が乾草の質を判断する1つの目安になるかと思います。今回は日高育成牧場のデータを参考に、成分分析値の読み取り方をご紹介いたします。タンパク質含有率を例に取ると、日胆産乾草は9.6%、アメリカ産チモシー乾草(1番)は10.3%、アメリカ産チモシー乾草(2番)は12.8%という結果でした。JRA日高育成牧場で2018~2020年に収穫した乾草(33点)の平均値は11.9%(±3.3%)であり、一般的な目標値である9.0%を超えていました。これらの結果から、タンパク質に関しては概ね平均的以上の質の乾草を収穫できていることになります。

 

表1 アメリカ産輸入乾草および日胆産乾草の主な栄養価

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「愛馬のカイバあれこれ(JRAF発行)」を改変

 

繊維(NDFとADF)の評価
 草食動物である馬にとって繊維は非常に重要です。これまでは粗繊維含有率として繊維全体の値が評価に使われてきましたが、近年ではNDFとADFの値を使って評価されます。NDFは中性デタージェント繊維の略で、細胞壁を構成する物質のうち、ヘミセルロース、セルロース、リグニンなどを含みます。また、ADFは酸性デタージェント繊維の略で、NDFからヘミセルロースの値を引いたものです(図1)。リグニンは不消化成分ですが、ヘミセルロースは50%程度、セルロースは40%程度が馬の大腸の微生物によって消化されて、エネルギーとして使用されます。以上のことから、NDFやADFの値が乾草の品質評価に使用できます。

 

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図1 植物細胞に含まれる各構成物
「愛馬のカイバあれこれ(JRAF発行)」を改変


 一般的に、NDFについては、40~50%で良質とされ、65%以上となると嗜好性や採食量が低下し、疝痛リスクが高まると言われています。ADFは30~35%であれば良質と判断され、消化や栄養素利用率が良好です。ADFが45%以上となると、総合的に栄養価が低いと言われますが、このような値になる乾草はほとんどありません。
 図2は先ほどタンパク質含有率でも使用したJRA日高育成牧場で収穫された乾草のNDFおよびADF含有率を散布図で示したものです。良質とされるNDF:40~50%、ADF:30~35%を両方とも満たした乾草は1つもありませんでしたが、ADFが30~35%となる乾草は10サンプル(全体の30.1%)あり、本場で収穫された乾草の中ではこれらのものが良質であると考えられます。

 

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図2 JRA日高育成牧場で収穫された乾草のNDFおよびADF含有率

  

NDFに注目すると、65%以上となる乾草は16サンプル(全体の48.5%)ありました。一般的に、NDFやADF含有率が高くなる原因は、収穫時期が遅れた結果と考えられます。表2は、2020年に収穫された乾草のNDFおよびADF含有率と収穫日の関係を示しており、この結果から天候などの理由により収穫が遅れた乾草のNDFおよびADF含有率が高くなっていることがお分かりいただけると思います。一方で、2番草であっても、適切な時期に収穫を行えばそれなりの乾草を得られることも分かります。以上のことから、これまで多くの文献でも指摘されてきた通り、できる限り開花期前の出穂期に刈り取ることが重要だと考えられます。

 

表2 NDFおよびADF含有率と収穫日の関係

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カルシウムとリンの評価

 
 カルシウムとリンは骨を構成する主成分であり、その比率のアンバランスは骨疾患の発症要因となります。飼料中の適正なカルシウムとリンの比率は1.5~2.0:1と言われています。図3はJRA日高育成牧場で収穫された乾草のカルシウムおよびリン含有率を、散布図で示しています。適正なカルシウム・リン比率の乾草は10サンプル(全体の30.3%)であり、比率が1.5より低いサンプルの方が多いという結果でした。一般的に、チモシー乾草に含まれるカルシウムとリンの変動は大きいと言われており、表1に示したアメリカ産輸入チモシー乾草についても、比率が1.5を下回るものが全体の37.5%、1.0を下回るものが全体の7%含まれていたことが報告されています。一般に濃厚飼料はCa/Pが低いため、状況に応じて、カルシウム含有率の高いアルファルファ乾草やカルシウムを含むサプリメントの使用を検討する必要があると考えられます。

 

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図3 JRA日高育成牧場で収穫された乾草のカルシウムおよびリン含有率

 

終わりに

 
 適切な飼養管理を行うためには、今回ご紹介したように牧草分析を行って、科学的に乾草の質を評価することが推奨されます。その結果を元にして、より良い牧草を収穫するための対策を考える必要があります。例えば、採草地に明らかに雑草が増え、牧草分析の結果からも質が低下していることが示唆される場合には、草地更新を検討する必要があるかもしれません。また、牧草分析と一緒に土壌分析も行い、土壌の状態を正確に把握して適切な施肥管理を行うことで、牧草の質の改善にも繋がります。牧草分析の結果を適切な飼養管理に繋げていただければ幸いです。


参考資料
サラブレッドのための草地管理ガイドブック(公益社団法人 日本軽種馬協会)
https://jbba.jp/data/booklet/guide/pdf/THOROUGHBRED_guide_all.pdf

愛馬のカイバあれこれ(JRAファシリティーズ株式会社)
※一部を下記サイトで確認できます
愛馬のためのカイバ道場 | JRAファシリティーズ株式会社 (jra-f.co.jp)