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22-23育成馬ブログ(宮崎②)

〇2022~23年シーズン宮崎育成馬が揃いました!
 

 去る9月末日、セプテンバーセールで購買した牝馬3頭が日高からの長旅の末、宮崎育成牧場に到着しました。これをもって、本年の宮崎育成馬22頭(牡11頭、牝11頭)が揃ったことになります。先の日高育成牧場からの報告にもある通り、1歳セリをはじめとする馬市場の盛況ぶりを反映して、育成馬の購買価格も上昇しており、宮崎にも1,000万円を超える価格で購買した馬が6頭入厩しました。これらの馬を含めた22頭のラインナップは例年にも増してバラエティ豊かです。血統的には、実績あるドゥラメンテやモーリス、初年度産駒である現2歳世代が活躍を見せマインドユアビスケッツやデクラレーションオブウォー、そしてこの1歳世代が初年度産駒となるシュヴァルグラン、スワーヴリチャード、アニマルキングダムなど、今が旬の種牡馬の産駒が揃っていますし、母馬をみてもステイゴールドの妹やウインドインハーヘアの孫、そして最近続けざまに活躍馬を出している「バラ一族」ロゼカラーの娘など、母系にも魅力的な血統背景を持つ馬が多くいます。また宮崎育成牧場出身のタムロチェリーの孫(タムロブライト2021)はダイヤモンドステークス(G3)を勝利したミライヘノツバサ号の弟という血統馬でもあります。血統面だけでなく馬体や精神面においても素質の高さがうかがわれる楽しみな馬たちが揃っていますので、その能力を100%発揮できるよう、彼らに寄り添って成長を促していきたいと思います。

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九州産馬プリンセスゴールド2021(牝、父ケイムホーム)

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宮崎ゆかりの血統タムロブライト2021(牡、父オルフェーヴル)

〇入厩神事ならびに育成馬見学会を開催しました
 

 育成馬が全頭入厩したことを受けて、育成調教における人馬の無事を願って入厩神事を執り行いました。宮崎育成牧場では例年、育成馬の入厩時と退厩時(ブリーズアップセールへの出発時)に、当牧場から程近い、神武天皇を祀る宮崎神宮の権禰宜(ごんねぎ)を祭主様としてお迎えして神事を執り行っています。馬に携わる仕事である以上、ケガは付き物ではありますが、どうすればケガや事故を防ぐことができるかを常に念頭に置いて業務にあたることが重要となります。このような機会を通じて、安全対策への認識を新たにし、緊張感をもって育成調教に取り組んでいきたいと思います。

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 また、10月29日には、本年の宮崎育成馬の初お披露目の機会となる「秋の育成馬見学会」を開催しました。当日は、日頃からJRA育成馬や宮崎育成牧場を応援してくださっている近隣にお住いの方々だけでなく、HPなどで開催日時を調べて訪れてくださった熱心なファンの方など73名のお客様にご来場いただきました。開催に向けては、念入りにトリミングを行って身だしなみを整えるとともに、展示のリハーサルを繰り返して、万全を期して臨みましたが、その成果もあって全馬ともにお行儀よく、かつ堂々とした姿を見ていただくことができました。初めて育成馬を間近で見たお客様も多く、迫力ある雄大な馬体と、1歳にして人の指示をしっかり理解するスマートさのギャップに魅力を感じていただけたようでした。来春にはさらに成長した姿をお披露目できる機会を設けたいと考えておりますので、ご興味のある方は是非足をお運びいただければと思います。

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〇集団放牧で脱“馬見知り”
 

 育成馬たちの現況としましては、騎乗馴致を経て馬場での騎乗調教が始まった段階です。宮崎育成牧場では、南国の温暖な気候を生かして、11月でも夜間放牧(夕方4時頃から翌朝8時頃まで)を実施しています。育成馬の放牧の目的としては、運動量増加による体力増強、良質な牧草の摂取による成長促進、集団行動による群れへの順応、といったことが挙げられます。当場には約1ヘクタールの放牧地が6面あり、それぞれに3~4頭を放牧していますが、今年の宮崎育成馬においては、群れへの順応という観点から、定期的にその組み合わせを変更する試みを行っています。固定されたメンバー同士で放牧するほうが、馬も精神的に安定して落ち着いた群れになると考えられますが、一方で、競走馬になってからはトレセンや競馬場で、常に多数の馴染みのない馬たちと顔を合わせることになります。そのような環境でも平常心を保っていられることは、持てる能力を最大限発揮する上で、重要な要素の一つと言えます。育成馬たちは、メンバーが変わるたびに、匂いを嗅ぎあったり、遠目で様子を窺っていたかと思えば唐突にケンカを始めたりと様々な反応を見せますが、すぐに馴染んで仲良く集団生活を送っています。その成果が出ているのかはわかりませんが、集団での騎乗調教が始まっても、テンションが上がる馬もおらず、落ち着いて騎乗者の指示に応えることができています。育成馬たちには、人見知りならぬ“馬見知り”をしない、堂々とした競走馬になってほしいと願うばかりです

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22-23育成馬ブログ(生産②)

乗用馬生産を目的とした受精卵移植を実施

 秋競馬が始まりGI競走では多くの熱戦が繰り広げられており、そこで活躍した馬たちはその後種牡馬および繁殖牝馬としてのキャリアをスタートさせることとなります。そのため、多くの競走馬は5歳程度で引退するのが一般的です。一方、乗用馬の世界では年齢を重ねるごとに技量が増していく傾向があり、特にオリンピックなどの最高峰の競技会に出場する競技馬は10歳以上であることがほとんどです。その結果、競技会で優秀な成績を残してキャリアを終えた段階では高齢となっていることが多く、その段階からサラブレッド生産と同様に本交による生産を行うと、数頭の産駒しか得られないことになります。そのため、乗用馬の世界では、受精卵移植を含む生殖補助医療を用いた生産が認められており、世界各地で盛んに実施されています。今回、JRA日高育成牧場において乗用馬生産を目的とした受精卵移植を実施しましたので、その概要をご紹介します。

 

生殖補助医療を用いた生産のメリット

 
 生殖補助医療とは、人工授精(AI)や受精卵移植などの技術のことを指し、繁殖効率を上昇させることや生殖機能に問題のある症例から産駒を得ることを目的に発展してきた技術になります。乗用馬の世界では昔から実施されており、多くの馬が生産されてきた実績があります。生殖補助医療を用いた生産の流れは、まず産駒を得たい繁殖牝馬(受精卵提供馬:ドナー)に対して本交やAIを実施します。AIに用いる精液は冷蔵または冷凍されたものを用いますが、冷凍精液を用いることで海外の優良な種牡馬を輸送することなく産駒を得ることができます。AIの約8日後にドナーの子宮から受精卵回収を実施します。そして、見事に受精卵が回収できた場合には、代理母(出産・育児を担当)(レピシエント)に受精卵を移植して出産まで管理することになります。レピシエントに対しても、ドナーのAIのタイミングに合わせて排卵させておく必要があります(図1)。
このような生殖補助医療を用いた生産のメリットは、2つあげられます。まず一つ目は、「現役を引退する必要がない」ことがあげられます。生殖補助医療を用いた方法では、ドナー自体が子馬を生むのではなく、レピシエントに産んでもらうことになります。このように、優秀な競技馬が競技を引退することなく産駒を得ることができることは、大きなメリットであると言えます。また、生殖補助医療を用いて受精卵を複数回収することができれば、産駒を「1年に複数頭を生産」することも可能になります。1回の発情周期で複数個の排卵を認めることもありますし、発情期の間の複数回の発情周期ごとに受精卵を回収できればさらに多くの産駒を得ることも可能です。以上のように、生殖補助医療は乗用馬生産の世界においては、不可欠な技術と言えます。

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図1 生殖補助医療を用いた生産の流れ

 

優秀な総合馬術競技馬を用いて受精卵移植を実施

 
 今回受精卵移植のドナーとなったのは、16歳のオランダ温血種(KWPN)の総合馬術競技馬(写真2)です。この馬は東京オリンピック2020のリザーブ馬となるなど高い能力を示していましたが、怪我のためハイクラスの競技会からは引退した経緯があります。乗用馬として非常に高い能力を有している上に、優れた血統も持っていることから、産駒を生産することとしました。一方で、浅指屈筋腱の状態が落ち着けば、まだ乗用馬として活用できる可能性があることや、16歳と比較的高齢であり、通常の方法で生産を行った場合には非常に少ない頭数の産駒しか得られないことなどを踏まえ、受精卵移植による生産を選択しました。

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写真1 ドナーの競技会での様子

 

父馬候補は、フランスの乗用馬用種牡馬として実績のある馬の凍結精液を用いることとしました。今回行ったAIは、排卵近くになった段階で6時間おきに直腸検査をしてモニタリングを行い、排卵を認めた段階でAIを実施するという方法を採用しました(写真2)。しかしながら、凍結精液によるAIの受胎率は本交に比べると低いことが知られていることや、繁殖牝馬が比較的高齢であることなどから、残念ながら受精卵回収はできませんでした。

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写真2 人工授精(AI)の様子

 

そこで、サラブレッド用の現役種牡馬と本交を行って受胎率を高めて受精卵回収を試みました。その結果、2つの受精卵を回収することに成功しました(写真3・4)。得られた受精卵は、排卵のタイミングをドナーと合わせておいたレシピエントに移植を行っています。レシピエント候補馬は4頭用意していましたが、実際にタイミングの合ったレシピエントは2頭のみであり、受精卵移植を行うためには多くのレシピエント候補馬を用意しておく必要があることに注意が必要です。

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写真3 受精卵回収の様子

Photo_5写真4 回収された受精卵

 

 受精卵移植を行ったレシピエントに対して約1週間後(胎齢14日)に妊娠鑑定のエコー検査を実施したところ、見事に受胎を確認しました(写真5)。受胎を確認したのは10月下旬でしたので、順調に行けば来年の9月下旬に出産となる予定です。

Photo_6写真5 受精卵移植後に受胎を確認

 

終わりに

 
 現在の日本の馬術競技馬の多くは海外から輸入された馬が多くを占めています。東京オリンピック2020における日本人選手の活躍などにより、今後は日本国内でもハイクラスの乗用馬の需要が高まり、引退せずに産駒を生産する可能性も考えられます。そのような乗用馬生産を行う際には、今回実施した技術が必ず必要となるはずです。JRA日高育成牧場では、乗用馬産業の発展の助けとなることを目的に、今後も生殖補助医療に関する知見を深めていきたいと考えています。乗用馬生産に興味のある方は、下記の参考文献も参照ください。


参考文献:凍結精液による人工授精・受精卵移植法の手引
http://univ.obihiro.ac.jp/~dosanko/2017_2019/researchcollection.pdf

活躍馬情報(事務局)

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11月5日(土)阪神競馬11R KBS京都賞ファンタジーステークス(GⅢ)において、日高育成牧場で育成されたリバーラ号が勝利しましたsign01

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11月5日(土)阪神競馬11R KBS京都賞ファンタジーステークス 芝1,400m

リバーラ号(インドリヤ2020)牝 父:キンシャサノキセキ

厩舎:高柳瑞樹(美浦)

馬主:荒井泰樹 氏  生産者:シンボリ牧場

今後のさらなる活躍を期待しております。

活躍馬情報(事務局)

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10月29日(土)東京競馬2R 2歳未勝利において、

宮崎育成牧場で育成されたジャックパール号が勝利しましたsign01

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10月29日(土)東京競馬2R 2歳未勝利 ダ1,300m

ジャックパール号(スピーディユウマ2020) 牡   父:ノボジャック

厩舎:鈴木慎太郎(美浦)

馬主:吉川朋宏 氏  生産者:サンバマウンテンファーム

今後のさらなる活躍を期待しております。