« 国際サラブレッド生産者連盟の獣医会議 | メイン | IFHA Global Summit »

2024年6月18日 (火)

Neglected Influenza Viruses(無視されたインフルエンザウイルス)?

 分子生物研究室の根本です。

 4月に米国ケンタッキーで開催されたInternational Symposium on Neglected Influenza Virusesに参加してきました。

  Neglected Influenza Viruses(無視されたインフルエンザウイルス)とは、注目されていないインフルエンザウイルスのことを意味しますが、それでは、どのようなインフルエンザウイルスなのでしょうか・・・それは、A型人インフルエンザウイルスとA型鳥インフルエンザウイルス以外のインフルエンザウイルスのことです。具体的には、馬インフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス、コウモリに感染するインフルエンザウイルスなどになります。ですが、近年アザラシ等の海獣やこれまで感染報告のなかった動物に、A型鳥インフルエンザウイルスが感染する例が多く、本学会にはこのような演題も含まれていました。そのような世間から注目を集めないインフルエンザウイルスの学会で、私は馬インフルエンザに関する研究発表を行いました。また学会期間中、あいにくの曇り空だったものの皆既日食を観察することもできました。

12_4                  会場のエントランス       会期中に観察された皆既日食

 この学会で話題になったのが、学会直前の3月末に米国で感染が明らかとなった牛インフルエンザです[1]。牛インフルエンザは、米国においてH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスが牛に感染したもので、牛は乳量低下などの症状を示しました。感染牛の牛乳中に大量のウイルスが認められ、加熱殺菌していない牛乳を飲んだ猫がウイルスに感染したことが報告されています[2]。さらに、感染牛を飼育している農場の人が感染し結膜炎等の症状を示したことでさらなる注目を集めました[3]。米国で流通している牛乳をPCR検査したところ、陽性となったのは150検体中58検体ありましたが、生きたウイルスは検出されませんでした[4]。この結果から、現在行われている加熱殺菌がウイルスの不活化に非常に有効であり、そのため牛に触れない一般の人には対するリスクは低いと考えられます。現在のところ米国以外での牛インフルエンザの発生報告はありませんが、今度も注目すべきインフルエンザウイルスであり、牛インフルエンザウイルスは「無視されたインフルエンザウイルス」とはならないことでしょう。

参考文献

  1. United States Department of Agriculture Animal and Plant Health Inspection Service. Federal and state veterinary, public health agencies share update on HPAI detection in Kansas, Texas dairy herds. 2024.                         (外部リンク)https://www.aphis.usda.gov/news/agency-announcements/federal-state-veterinary-public-health-agencies-share-update-hpai (2024年6月18日リンク確認)
  2. Burrough et al., Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Clade 2.3.4.4b Virus Infection in Domestic Dairy Cattle and Cats, United States, 2024. Emerg Infect Dis 2024. 30:240508. doi: 10.3201/eid3007.240508.
  3. Uyeki et al., Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Virus Infection in a Dairy Farm Worker. N Engl J Med 2024 doi: 10.1056/NEJMc2405371.
  4. Cohen et al., Bird flu appears entrenched in U.S. dairy herds. Science 2024. 384:493-494. doi: 10.1126/science.adq1771.