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冬期の昼夜放牧について(生産)

浦河では、12月中旬に続いた降雪がひと段落したと思っていた矢先、正月明けの大雪に見舞われました。さらにその後もマイナス10を下回る日が数日続くなど、例年になく厳しい冬となっています。

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正月明けの大雪によって1歳馬の腕節が埋まるまでの積雪となり、歩くのも一苦労です。

さて、前号に引き続き、昨年生まれの1歳馬の管理についてです。大雪によって放牧地に40cmもの雪が積もり、牧草摂取が不可能となったため、1歳馬を事務所付近の放牧地に移動しました。この放牧地にもシェルターはありませんが、現在も昼夜放牧を行っています。放牧地における運動距離をGPSで測定したところ、日中2.5km、夜間4.5km、合計7km程度で、やはり運動量は減少してきました。また、体重もここ2週間の推移は12kgの微増にとどまり、ほぼ現状維持となっています。特に最低気温がマイナス103日間連続で下回ったときには、3日間で全馬45kgほど体重が減少しました(その2日後の測定時にはしっかり回復していました)。一方、昼間のみの放牧管理を行っている空胎の繁殖牝馬の体重も、この期間を含む1週間で約710kg減少していたため、マイナス15にまで冷え込むような日には、摂取カロリーを増やす必要があると考えています。このように運動量と体重の増減を見る限り、昼夜放牧の限界に近づいているようにも感じられます。

一方、馬のコンディションおよび表情を見ると、必ずしも快適そうではありませんが、群れで乾草を頬張り、水を飲み、横たわり、そして放牧地を歩く姿を見ると、我々が想像しているほどダメージはないのかなという印象を受けています。また、この調子なら春まで昼夜放牧を実施できるのではないか、とも思い始めています。しかしながら、最も気温が低下する2月下旬を過ぎるまでは馬のコンディションを見極めながら、臨機応変に対応しようと肝に銘じています。

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現在放牧中の放牧地には多くの木が植えられており、馬達は好んで木の周囲に集まります。

ここからは、馬の寒さに対する適応力について触れてみたいと思います。一般的に、家畜化された馬が屋外で過ごせる限界温度は、マイナス1からマイナス9までと幅広い範囲の報告があります。ただし、これは最高気温が0を下回ることがほとんどなく、降雪も珍しい地域での調査です。しかし、北海道の気候に似たカナダで実施された研究では、「馬は温暖な地域から降雪を認めるような寒冷地に移動しても、その寒さに対して1021日で適応する」と述べられています。一方、寒冷地に繋養されている場合、寒さに馬体が容易に適応し、マイナス15までは馬服もシェルターもなく過ごすことができると報告されています。また、シェルターで雨風を遮った場合、熱放散を20%防ぐことができるとも報告されています。

一般的に、冬期の寒さに対しては、乾草の給餌が重要視されています。つまり、乾草などの高繊維飼料が微生物の働きによって盲腸と結腸で分解された際に熱が発生し、体内を温めることができるからです。このため、外気温が0から5ずつ低下するごとに1kgの乾草の増給が必要とされています。

帯広畜産大学の研究では、北海道和種や半血種は気温の低下に対して安静時の代謝量を増加させずに、皮下脂肪を蓄えることによって適応するそうです。一方、サラブレッド種は皮下脂肪が少なく、安静時の代謝量を増加させることによって適応すると報告されています。したがって、冬期の昼夜放牧に際して、どのようにして乾草を摂取させるかが課題となります。

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通常の乾草(手前左)とラップサイレージ(奥右)を同時に2つ設置すると、ラップサイレージを好んで食べます。

そこで、低水分ラップサイレージと通常の乾草を2つ設置してどちらを好んで食べるか比較したところ、圧倒的に低水分ラップサイレージを好むことがわかりました。ラップサイレージはヒートダメージ(空気と接触することにより好気発酵、品温上昇がすすみ、その結果品質が低下する現象)等に注意が必要であるため、冬期の給餌が適しているといわれています。給餌を開始して3週間ほど経過していますが、子馬に下痢や呼吸器症状等は認めていないので、春まではラップサイレージを給餌する予定です。

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ラップサイレージ(左)と通常の乾草(右)を同時に設置した5日後の状況。圧倒的にラップサイレージが好まれ、食べられていることが分かります。