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育成馬ブログ 日高①

●仔馬の内反肢勢

 

仔馬の肢勢は発育スピード、遺伝、放牧地の硬さなどによる環境など、

様々な影響を受けて変化していきます。

生後間もない子馬の異常肢勢は、成長に伴い治癒する場合もありますが、

重症例を放置することで、競走期のパフォーマンスに

悪影響を及ぼすことも少なくありません。

今回のブログでは、球節以下が体の内側に曲がる

「内反肢勢」について取り上げます。

 

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右後球節以下の「内反肢勢」

 

上記のとおり「内反肢勢」とは、

下肢関節が体の中心に向かって曲がる肢軸異常であり、

蹄尖が内を向く「内向肢勢」とは区別されます(図1)。

 

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図1.標準、内向、内反肢勢の違い

 

「内反肢勢」は成長に伴う自然治癒が期待できないため、

放置せずに装蹄療法などによる肢軸矯正を実施すべきです。

 

内反に対する肢軸矯正には、重症度にあわせて様々なものがありますが、

重要なことは「早期発見・早期治療」です。

 

これには仔馬の成長スピードが関係しています。

仔馬の肢の成長は体から一番遠い下肢部から始まり、

6ヶ月齢で球節以下の成長板は完全に閉鎖します。

このため、成長板閉鎖前であればある程度の効果が得られるものの、

その後は十分な効果が期待できません。

 

具体的な装蹄療法について説明します。

 

軽度であれば、内側蹄負面の多削による左右バランスの調整で

対処できますが、中程度から重度のものでは蹄の外側に

エクステンション(充填剤や特殊蹄鉄などを使用した張り出し)を

装着する方法がとられます(図2)。

ただし、エクステンションでも良化が見込めないような

重症例に対しては外科手術を行うこともあります。

 

仔馬の肢軸異常は

「昨日大丈夫だったから今日も大丈夫!」という事は一切ありません。

当場でも厩舎スタッフ・装蹄師・獣医師が毎日の馬体検査を行っています。

仔馬の肢軸異常は日常の微妙な変化を見逃さず

早期に対処することが重要だといえるでしょう。

 

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 図2.エクステンションを接着し装蹄療法を施した症例

育成馬ブログ 生産編①(その2)

●1歳馬のセールス・プレップについて(その4)

 

○グルーミング(手入れ)

 

ウォーキングマシンによる運動が行われない日は、

念入りなグルーミング(手入れ)が行われていました(図3)。

中でも最も力が入れられていたのが、ゴムブラシで全身を強く擦ることで、

古い体毛をできるだけ抜き、皮膚の血行を促していました。

最初の1週間は変化に気づかないレベルでしたが、

2~3週間続けていると明らかに新陳代謝が良くなり、

自然な艶が出てきました。

そのほか、セリの直前にはトリミングが行われ、

たてがみがきれいに整えられ、耳毛や距毛は短くカットされました。

 

2図3 セリ上場馬のグルーミング(手入れ)

 

 

○セールス・プレップにおける日米の考え方の違い

 

育成牧場で行われることが多いわが国のセールス・プレップと異なり、

生産牧場で行われるケンタッキーのセールス・プレップでは、

考え方が異なるように感じました。

すなわち、日本ではセールス・プレップが“後期育成の入り口”と

位置づけられ、ランジングを行うなど馬を従順にしていくことで

ブレーキングへの移行をスムーズにするという意図があるのに対し、

米国のセールス・プレップは“中期育成の延長”という考え方で、

放牧時間を極力短縮しないなど1歳馬の自然な成長を

促したいという意向が感じられました(図4)。

どちらにもメリットとデメリットがあると思いますが、

わが国においても生産牧場でセールス・プレップを行う際には、

ケンタッキーの自然な成長を促すやり方を

参考にしてみるのも一考の価値があるのではないでしょうか。

 

1図4 日米でセールス・プレップの位置づけが異なる

 

(おわり)

育成馬ブログ 生産編①(その1)

※今回から本年度のJRA育成馬日誌の連載が

スタートとなりますが、今回の記事は5月31日掲載

育成馬ブログ 生産編⑨(その2)」の続きとなります

合わせてご覧ください

 

●1歳馬のセールス・プレップについて(その3)

 

○飼料

 

先月に引き続き、ケンタッキーで行われている

1歳馬のセリに向けての準備(セールス・プレップ)について

ご紹介します。

 

セリに上場される馬は、

ボディ・コンディション・スコア(BCS)の調整のため、

馬房内で個別に濃厚飼料が与えられます。

ダービーダンファームでは、

McCauley Bros.社製の「Option 14 Pelleted」という

大粒のペレットが1日2回与えられていました(図1)。

1回の量は太っている馬(BCSが6.0以上)で1.5kg、

痩せている馬(BCSが4.5以下)で2.0kgでした。

ケンタッキーでは放牧地に生えている牧草の栄養価が高いため、

太っている馬には放牧時に口篭が装着されていました。

反対に痩せている馬は、

他州からの入厩時などで一時的に散見されましたが、

夜間放牧されている内に自然とBCSが回復していきました。

ダービーダンファームは“Honesty(正直、誠実)”を

スローガンにしており、

BCSが5.0前後の自然な馬体を目指していました。

そのほか、毛艶を良くするため米糠油や

各種サプリメントが与えられていました。

 

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図1 1歳馬用の飼料

 

○ウォーキングマシンの使い方と馬体洗浄

 

セリに上場される1歳馬の管理は、

一日おきにウォーキングマシンを

使った運動および馬体洗浄をする日と(図2)、

後述するグルーミングをする日に分かれていました。

 

ウォーキングマシンによる運動は、

常歩のストライドを伸ばしてセリの下見時に

活発な印象を与えることを目的として行われていました。

具体的には、常歩ではついて行けず半分程度は速歩に

なってしまう程度の速度でウォーキングマシンを回して、

徐々に馬が体の使い方を覚えて大きく常歩で歩けるようになったら

さらに速度を上げるということを繰り返していました。

理想を言えば人が引いて(ハンドウォークで)馬の常歩の速度を

コントロールするのがベストでしょうが、

少ない人手で活発に歩ける馬を作るのには

有効な方法だと感じました。

 

ウォーキングマシンで運動した後は、

汗をかいた馬体をシャンプーで洗い、

その後ワックスをかけ毛艶を出していました。

後述するようにゴムブラシで馬体をしっかりマッサージして

血行を良くし、自然な毛艶を出すことが理想ですが、

米国ではそれに加えて飼料(米糠油)やワックスも使って

人工的にも馬を磨くというやり方が行われていました。

 

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図2 ウォーキングマシンによる運動と馬体洗浄

 

(つづく)

活躍馬情報(事務局)

7月9日日曜日の福島3R(3歳未勝利)でのジェイジーノ号の出走により、

2016 JRAブリーズアップセールにおいて売却したすべての馬が、

中央競馬での出走を果たしました。

 

なお、これまでも売却したすべての頭が中央競馬での出走を

果たしたことはありましたが、

今回についてはそれに加えて上場したすべての馬が

中央競馬での出走を果たすという快挙も果たしました。

 

この結果は、購買いただいた馬主のみなさまや

管理する厩舎スタッフのみなさまをはじめ、

関係するすべてのみなさまの多大なるご尽力のおかげであり、

厚くお礼申し上げます。

 

今後もJRA育成馬をよろしくお願いします。