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ブレーキングシーズン到来

7月に入きゅうした育成馬(千葉、八戸での購買馬)たちは、夜間放牧をしている間にすくすくと成長します。この時期、体重は1ヶ月に10kgから15kg程度増えます。私たちは半月に一度体重を測定し、個体ごとにグラフを作成して視覚的な要素も取り入れて成長の度合いを評価しています。もちろん、それぞれ血統も違えば、早生まれ・遅生まれもありますので、馬にあった成長をすることが重要だと考えています。なかなか大きくならない馬もいれば、順調に成長する馬、春になってぐんと伸びる馬等、さまざまです。

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青森産馬トップライナーの05(父イシノサンデー)です。
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騎乗馴致前にトリミングし、男前になりました!?

一般的な傾向として、北海道に比べて宮崎は冬の気候が温暖で青草が豊富なので、冬から春に大きく成長するのが特色です。したがって、宮崎育成牧場は、JRA購買馬の中でも比較的小さな馬の成長を促すのに適しているともいえます。7月のセレクトセール、セレクションセールでの購買馬6頭は、購買後に日高育成牧場に一時的に入きゅう、2ヶ月程度の昼夜放牧の後、今月宮崎に入きゅうしました。このように夏を涼しい北国で過ごし、冬に温暖な地区(宮崎など)に移動して馬を仕上げることを一般に「二元育成」と呼んでいます。宮崎の気候の利点を生かし心身ともに健康な馬を育成したいと考えています。

さて、7月に入きゅうした馬たちは、まだまだ小さな子供なのですが、そろそろ彼らの人生の中で一つの試練を与えなければなりません。その試練とは、「騎乗馴致(ブレーキング)」です。今まで人を乗せたことがない馬に、鞍やハミなど様々な制御道具をとりつけ、人が騎乗して馬を自由自在に動かすことが出来るように教育する初期課程(過程?)のことをこのように呼んでいます。英語ではブレーキング(BREAKING)といいますが、一馬力の馬にブレーキ(BRAKE)を取り付けて制御するのではなく、馬たちの「野生」をブレーク(BREAK)し、人との新しい関係を築くことが重要なのです。現在、ブレーキングに備えて引き馬やタオルパッテイングなどを実施しています。

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このように集団で引き馬の練習を行います。
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ヒラヒラしたもので体に触ることに慣らすタオルパッティングです。

サマーセールが終了し、JRA育成馬が入きゅうしてきました。

8月21日から25日まで、新ひだか町の北海道市場でサマーセールが開催されました。1,122頭のサラブレッド1歳馬が上場された大規模なセールですが、売却率は5年ぶりに30%を越え、売却総額も前年を1.3億円ほど上回る、約18.2億円でした。せりの会場では馬を見に来場しているバイヤー(購買者)の数が多く感じられ、実際のせりでも例年以上のせり合いで、目当ての馬を購入することは簡単ではありません。数字だけでなく景気が回復しつつあることが感じられた市場となりました。

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活発なせりあいとなったサマーセール

それでも新種牡馬のアラムシャーやコロナドズクエストの産駒をはじめとして、素質あふれる若馬を購入できたと思います。最高価格馬は1950万円(税抜)で落札した母ハローヘレンの牡馬で、姉に今年の2歳戦で2連勝と活躍しているJRA育成馬ハロースピードがいます。父はマヤノトップガンからヘクタープロテクターに変わっていますが、姉に負けず劣らず伸びのある好馬体をしており、非常に楽しみな1頭です。

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最高価格馬のハローヘレンの05

サマーセールで購入した馬の日高育成牧場への入きゅうは8月30日から始まり、9月1日には今年のラインナップが揃いました。入きゅう時に血液検査、特徴照合や歩様検査等の馬体検査および写真撮影を行いましたが、ほとんどの馬がおとなしく躾られており、牧場やコンサイナーのしっかりした教育の成果が伺えました。馬体の写真撮影には、よりよい映像を得ることを目的として、背景ボードに光線が吸収されにくいモスグリーンを採用したところ、昨年以上に馬体がはっきり見えるようになりました。
 また、レントゲンによる蹄の撮影を行ないました。これは肢軸(しじく)検査と呼ばれるもので、これを参考に今まで以上によい装削蹄につなげられればと思っています。「蹄なくして馬なし」といわれるほど、蹄の状態を把握することは重要です。

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入きゅう時の綿密な馬体検査
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蹄の状態をレントゲン像で確認します

日高育成牧場の育成馬日誌をお届けします!

今回より「JRA育成馬日誌(日高)」をお届けすることになりました。JRA育成馬の近況や調教過程、日高育成牧場の出来事等をお届けしますのでよろしくお願いします。

まずはちょっとうれしいニュースから。日高育成牧場では馬に食べさせる乾草を自給しています。牧草収穫には刈り取りからロールまで連続して3、4日間の晴天が必要で、途中で雨に降られるとパーになってしまいます。今年の夏は天候不順で、長期予報で晴れマークが続いていても急に雨マークに変わったり、晴れマークにもかかわらず雨が降ったりと大気の状態が安定せず、なかなか牧草収穫が捗りませんでした。7月末からやっと夏らしい天候となり、なんとか1番牧草の収穫を終了してほっとしているところです。

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テッターをかけて牧草を乾かします
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ロールベイラーで牧草をロール状にします

JRAでは北は北海道から南は九州まで全国各地で開催される1歳馬市場でJRA育成馬を購入しています。現在、日高育成牧場にはセレクトセールとセレクションセールで購入した17頭のサラブレッドが入きゅうしており、2頭から5頭のグループに分かれて、午後2時から翌朝8時まで昼夜放牧を行っています。暑さとアブのためしばらくの間は快適な放牧環境とはいえませんが、放牧地でおいしい青草を腹一杯食べて9月上旬から始まる騎乗馴致まで英気を養ってもらいたいと思います。

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JRA育成馬の放牧風景

さて、8月21日から5日間の日程で約1300頭の馬が上場される国内最大規模のサマーセールが始まります(注1)。育成馬の仕入れはその後の育成に勝るとも劣らぬほど大切であり全頭をチェックしていきますが、せり期間中だけでは時間が足りず、14日から1週間かけて主要コンサイナー(注2)を中心に事前の検査を実施しています。上場馬の中から磨けば光るダイヤモンドの原石を見つけ出すことは大きな楽しみでもあります。

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真剣な眼差しでの馬体検査

(注1)この文書は8月15日に作成しております
(注2)コンサイナー:せりに上場される馬を飼養管理する専門業者

育成馬の入きゅう

今回より「JRA育成馬日誌(宮崎)」をお届けします。
JRAが千葉サラブレッドセールで購入した1頭と、八戸市場で購入した5頭の1歳馬たちが7月6日に入きゅうしました。青森から宮崎までは約31時間の長時間輸送なので、輸送による体力の消耗や怪我など心配しましたが、無事到着し一安心です。

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青森から馬運車が無事到着し一安心
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馬運車から降ろす様子

翌日から、♂3頭、♀3頭の2グループに分け、放牧による管理を開始しました。最初の数日間は昼間放牧を行うことで環境に慣らし、その後夜間放牧へ移行します。宮崎における夜間放牧のメリットは、なんといっても暑くないということです。宮崎育成牧場では、夜間放牧を馬の運動量を増やす目的で実施しているのではありませんし、また、馬を疲れさせて取り扱いをおとなしくしようとも考えていません。あくまでも、青草を食べさせ馬の生理状態を自然に帰すことが夜間放牧の目的であると考えています。そして、秋の騎乗馴致開始までに十分な肉体の成長を待つことが重要だと考えています。

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夜間放牧を開始しました
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入きゅう1週間後に削蹄を行いました

一方、最初の放牧は、知らない馬同士での組み合わせで、しかも始めての場所ということで事故が起こりやすい瞬間といえます。我々はリスクを軽減するために少頭数での放牧を行っていますが、事故の確率が0になることは決してありません。したがって、この時期に集団放牧が必要なのかという議論もありますが、早い時期に入きゅうした馬は馴致開始までに時間があることも実施している理由のひとつです。メリットとリスクを天秤にかけながら、健康な馬を育成するために馬を観察しながら集団放牧を実施することが重要です。しかし、近年では、コンサイナー(注1)の技術も向上しており、今後、入きゅう時期の遅い馬については、集団放牧を行わずに騎乗馴致(注2)を開始することもあるかもしれません。

(注1)コンサイナー:他の牧場から馬を預かり、セリに向けて専門的な教育を行う業者
(注2)騎乗馴致:人に乗られたことのない馬を人が乗れるように慣らすこと