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順調に騎乗馴致が進んでいます(宮崎)

私たちは、鞍つけ馴致が終了した馬たちに対して、次のステップとしてドライビング※1を実施します。このロングレーン※2によるドライビングの重要なポイントは、御者が後方から前進気勢※3を与えて馬を動かすという点です。つまり、騎乗者の体重負荷がない状態であたかも手綱のようにロングレーンで馬の口(ハミ)から直接コンタクトをとり、馬の進行すべき方向に誘導したり、スピードを制御したりするのです。すなわち、実際に騎乗した場合、騎乗者は馬の頭よりも後方に位置する鞍に座って指示を送るわけですから、騎乗する前に馬を後ろから動かすことに慣らしておこうという考えなのです。ドライビングが十分出来るようになった後、馬房の中で騎乗する動作や体重をかけることに慣らし、徐々に人が騎乗できるように教えていきます。

ブレーキングを開始して20日目の1019日、第111頭は牡牝ごとに集合して1500mのトラックで誘導馬を先頭に速歩を行いました。また、第213頭(牡6、牝7)の騎乗馴致も1018日から開始しました。

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この馬はリラックスしており、杉林の中をドライビングで意欲的に歩いています。馬はレディフェアリーの05(牡・父アグネスタキオン)。2pen

500mのトラックに出る前に数頭単位でラウンドペンに集合し、前後に馬がいることに慣らします。

3500m

誘導馬(乗馬)を先頭に500mトラックで速歩を行っている牝馬たちです。初日ですが馬も落ち着いており一安心です。

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調教後、ゲートの周りを回りながら慣らしています。また、騎乗者のコメントを確認し、馬の状態をチェックします。

ドライビング※1:育成馬日誌(1024日日高育成牧場)参照

ロングレーン※2:騎乗せずに2本の調馬索を用いて行う調教方法

前進気勢※3:馬術用語で馬が自ら前進しようとする気持ちのこと。

ブレーキングの様子がNHKニュースで放映されました(日高)

920日(水)から第2※1のブレーキングを開始しました。これに併せてNHK室蘭放送局の太田記者が取材に来ました。やらせなしのぶっつけ本番でしたが、初めてのラウンドペンでのランジングにもかかわらず、どの馬も人の指示に従いスムーズにこなしてくれました。また、第1※1のドライビングや馬房での騎乗の様子も併せて撮影しました。太田記者は人が騎乗できるまでに多くの過程があることや馬が素直に従っている姿に感心していました。この模様は当日と翌日に北海道内で放映されました。130秒という短い枠の中で全てを紹介することはできませんでしたが、競馬に詳しい方でも競走馬として出走するまでのことをご存知の方は多くないと思います。これからも機会を捉えて積極的に発信していきたいと思います。

Img_1983_1 ラウンドペンでのランジングを撮影する太田記者。ブレーキング初日で上からの撮影にも動じず、エイシンベーリングの05(牡・父カリズマティック)はとても素直にランジングを行えました。

ドライビングとは馬の後ろで、人が2本の調馬索(ロングレーン)を用いて馬を操作することで、馬の背に騎乗することなく口向きを作るために行います。口向きは車で例えるとハンドルとブレーキに該当し、これ無くしては安全に騎乗することはできません。これまでのブレーキングの過程は安全にドライビングに移行するためのものといっても言い過ぎではないほど重要なステップです。

061024pic2 コーンを用いてドライビングでスラロームを行うショッキングピンクの05(牝・父スターオブコジーン)また、ドライビング中でゲートを通過しておくと、騎乗してからのゲート馴致が容易になります。

061024pic3ドライビングでゲートを通過するスイートイブンの05(牝・父ティンバーカントリー

1群の馬たちは順調にブレーキングを消化し、104日(水)から屋内800m走路での騎乗調教を開始しました。誘導馬に先導され、まだフラフラした足取りですが着実に競走馬としてのステップを歩み始めています。

061024pic4 誘導馬に先導され800m走路を運動するJRA育成馬:右からミスクラブアップルの05牡・父シンボリクリスエス)、リキワイワンダーの05(牡・父キャプテンスティーヴ)、メンデスキャンドルの05(牡・父フォーティナイナー)、誘導馬、ヒットザボードの05(牡・父コロナドズクエスト)、レガシークラウドの05(牡・父スクワートルスクワート

1※1、2※1:日高育成牧場では馬の入厩日、性別、馬格、疾病、生年月日等を参考にして、4群に分けてブレーキングを開始しています。第1群は95日から開始していました。

鞍つけ馴致(宮崎)

人が馬に乗るためには、鞍を馬の背中に乗せるのみならず、腹帯(はらおび)を締めて馬の背中にしっかりと固定する必要があります。しかし、この帯を締める操作は、慣れない馬たちにとって最初は息が苦しいので、本来好きではありません。したがって、私たちはブレーキング開始前に、馬房の中でストラップ※1と呼ばれる革の帯で馬の胸部を圧迫する動作に慣らしておきます。この準備によってほとんどの馬が何事もなくローラー※2(腹帯)を受け入れるのですが、中には、実際に広い場所でローラーを装着すると、胸部の圧迫が苦しくてまるでロデオのように暴れる馬もいます。しかし、一時的にこのような反応をした馬もランジングを続けるうちに、やがて落ち着いてきます。さらに、ランジング終了後も馬房の中でしばらく装着したままにすることで、よりローラーを理解し受け入れることが可能となります。そして、翌日からは素直にローラーを装着することができるようになり、その結果、鞍つけ(装鞍)が容易にできるというわけです。ちなみに、第111頭の馬たちは馴致を開始して3日目、923日に無事この過程を終了しました。1souchaku

はじめてのローラー装着です。このように馬を停止させた状態で行います。馬はトップライナーの05(牡・父イシノサンデー)。

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ローラーの圧迫を感じたときの反応です。まるで、カプリオール※3のように空中にジャンプしています。しかし、のんきに見ているわけにはいきません。反応を観察しながら(馬が内側に向かってきた場合、人が危険)、写真のように御者と助手は音声や鞭を使用して馬に強く前進を促す場合もあります。そして、人の指示に従ってリズムよくランジングができるまで待ちます。3babou

ラウンドペンでのローラー装着後は、このように馬房内で装着したまましばらく慣らしますが、この馬はすっかりリラックスしています。馬はハッピードリーマーの05(牝・父ジェイドロバリー)。4jyunti9

馴致開始9日目。装鞍し、ダブルレーン(2本の調馬索)を使用してのランジングを行っています。馬はギザニアの05(牡・父ワイルドラッシュ)。

ストラップ※1JRA育成馬日誌10/10参照

ローラー※2:装鞍の前に帯を締めた状態に慣らすためのベルト状の馬装具

カプリオール※3:平らな場所で馬を空中にジャンプさせる高等馬術

ブレーキング(騎乗馴致)を始める前に(日高)

ブレ-キングとは馬に鞍をつけて人が騎乗できるように教育することです。馬にとってみれば、わけのわからない馬具を付けられ、胸部を締め付けられた上に背中に跨られるわけで不安で一杯なはずです。しかし、この過程を経なければどんなに走る能力があっても競走馬になることはできません。馬が納得して自ら受け入れ、心に傷跡を残さないようにすることが肝心です。

馬は自然界では集団で生活する動物であり、必ず群れの中に順位が形成され強いリーダーのもと群れは安定します。対人関係も同様で、人が馬のリーダーになることで馬は人と一緒にいることに安心して信頼するようになります。馬に接する基本は褒めることですが、特に牡馬は自分がボスと勘違いしやすい傾向があり、ときには毅然とした態度で序列を明確にすることも必要です。ただし、馬を怖がって懲戒することは百害あって一利なしです。

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パッティング:タオルを用いて全身をパタパタと叩きますが、馬はじっとしています。

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ストラップ馴致:ベルトのようなストラップを用いて、馬の胸部を締め付けることに慣らします。

日高育成牧場では円滑で安全にブレーキングを進めるために、事前に様々な準備を行っています。タオルを用いたパッティングもその一つです。タオルで全身を隈なく触り、最終的にはパタパタと叩きます。最初は不安で体を硬くさせていた馬が、慣れると全く動じなくなります。パッティングは馬が人を受け入れてくれたかのバロメーターになります。特に敏感な部分である頭頂部、胸下、飛節の上は念入りに実施します。

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日々の馬体チェック:馬をつなぐことなく肢元を触っても馬はじっとしています。

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ウォーキングマシンの馴致:放牧地への行き帰りにウォーキングマシンを通します。

台風一過

 7月に入厩した馬たちのブレーキングを9月17日から行う予定でしたが、台風13号の上陸が予想されたため、開始が延期となってしまいました。お天道様には逆らえませんので、こればかりは仕方ないといったところでしょうか。幸いにして宮崎市には台風の被害はほとんどありませんでした。気持ちを切り替え、あせらず仕切り直しをしたいところです。 Miya1_16

台風対策として、ラウンドペン※1が強風で飛ばないように内側のベニヤ板をはずし、ロープでしっかり固定します。

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台風の翌日に、再びベニヤ板を針金で固定しました。もう、台風は来ませんように…。

 さて、予定より遅れましたが、21日から11頭(牡6頭、牝5頭)のブレーキングを開始しました。初日はラウンドペン※1でランジング(lungeing)※2を行いますが、馬にとっては生まれてはじめての体験で、何をしたらいいのかとまどうのが普通です。したがって、馬に対して明確な指示をあたえ、人が馬をしっかりとリードしてあげなければいけません。もちろん、人の要求を理解したときには、大げさに馬をほめてあげて緊張を解いてあげることが重要です。なお、人の勝手な判断で、多くのことを一度に教えようとすると、馬は理解できず頭が混乱してしまい悪い癖を覚えてしまうことがあるので注意が必要です。馬には、人間と同じように理解の早い子もいれば、物覚えの悪い子もいます。したがって、ブレーキングの過程をすすめていく際には、決して急がず、ひとつずつ確実に馴致のステップを積み重ねていくことが重要となります。また、ブレーキングの初期は、馬の個性が現れやすい時期なので、よく馬の反応を観察し、その馬にあわせた教育を行っていかなければなりません。

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ラウンドペンで騎乗馴致を行っている様子です。

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二人一組で馴致を行います。馬はレディフェアリーの05(父アグネスタキオン)

ラウンドペン※1:ブレーキングのときに使用する直径12~15m程度の円形馬場のこと。金属製ラウンドペンの壁にベニヤ板を貼ることで外部と遮断し、馬が人に集中して騎乗馴致を行うことが可能となる。

ランジング(lungeing)※2:ランジングとは調馬索(ちょうばさく)と呼ばれるロープを用いて、馬をラウンドペン内で一定のリズムで人の周りを回すことです。