日高育成牧場における仔馬の出産(生産)
今回より1歳セリでの購買から4月のブリーズアップセールまでを綴った日高・宮崎での育成編に加え、「JRA育成馬日誌(生産編)」と題して、日高育成牧場での生産馬の近況についてもお届けしますのでよろしくお願いします。
日高育成牧場では10年前から生産した研究馬を利用して栄養、繁殖および運動生理に関して、主に基礎的な研究を行ってきました。そして昨年から、それらの研究成果をベースに母馬のお腹の中から競走馬までの一貫した育成研究を開始し、その過程で新たな調査研究や技術開発を行うこととなりました。今年生まれた7頭の産駒から、1歳セリで購買した馬と同様にブリーズアップセールまで育成し、競走裡での検証を実施することとなります。まず手はじめとしてこれらの生産馬を活用して、様々な初期・中期育成時期の問題解決に役立てていきたいと考えています。例えば、生後直後から定期的にX線検査、エコー検査、内視鏡検査を実施し、正常ではない所見がいつ発症するのか、その所見が発育とともにどのように変化し、さらに競走期のパフォーマンスに影響するのかなどを調査することもひとつの課題です。今後、得られた成果を生産地にフィードバックすることで「強い馬づくり」に貢献できればと考えています。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、第1回目は出産について触れてみたいと考えています。本年度は2月~5月に7頭の出産を無事に終えていますので、回顧して綴ってみたいと思います。“馬のお産”と聞いてイメージするのは2~3人で子馬の前肢を引っ張り出す光景だと思われますが、日高育成牧場では母子ともに自然のリズムに従い、双方の準備が整った上で分娩が進行するように、自然分娩を実践しています。この自然分娩には子宮の負担を軽減させ、受胎率を向上させる効果もあると考えています。私自身もこれまで分娩では介助が必要であるとのイメージを抱いていたので、最初の頃はイキミ始め寝起きを繰り返す姿を見ると不安になりました。しかしながら、破水後に膣の中の子馬の2本の前肢と鼻端を触知し、正常な胎位であることを確認しさえすれば、通常は破水から30分程度で自然に分娩が終了するので介助は必要ありません。
自然分娩は人的に牽引されることによる子宮への負担を軽減させるだけでなく、母馬は娩出に伴う自然な疲労により横臥状態を維持するため、臍帯が切断されずにつながったままとなり、胎盤からの血液が十分に子馬へ供給されます。さらに人的介助なく産道を通過する時のストレスは、子馬に多大な刺激を与えるため、起立までの時間が短くなるなどの利点があります。
本年度は7頭中1頭のみ人的介助が必要となりましたが、全頭無事に出産を終え、現在は体重も200kgを超えるまでに成長し、8月末の離乳に向け親子間の放牧地での距離も徐々に広がっていっている状況です。次回は離乳についてお届けできればと思っております。
破水後には少し苦しむように寝起きを繰り返す場合もあるが、これは母馬自身で子馬の胎位を修正しているためです。 肩が通過するのに時間を要するが、肩が通過するとすぐに胸まで通過します。 臀部まで娩出後も後肢は産道の中に残ったままの状態で落ち着くことが多い傾向があります。 自然分娩では子馬ばかりでなく母馬も大仕事を終え疲労しており、直ぐには立ち上がらないため、臍(へそ)の緒はつながった状態で血液供給が十分に行われます。 一息ついて、親子のスキンシップとなります。