そろそろ出産準備を・・・(生産)
2月初旬の-20℃を下回る寒さの後は、少し寒さも緩み、日照時間も日に日に長くなってきました。春を待ち遠しく思う今日この頃です。
日高地方ではすでに出産を迎えている牧場も多いようですが、当場では2月11日出産予定の馬の分娩が遅れているため、本年度の出産シーズンは始まっていません。しかし、出産準備は開始しています。分娩予定日の概ね1ヶ月前からウォーキングマシンを開始し、冬期の運動不足を解消させ、難産などの分娩事故を予防しています。これは、近年、ヒトの出産においても出産の直前まで体を動かすことによって、自然で安全な分娩へと導く方法が見直されているのと同様の考え方です。
時期を同じくして馬房内を電球で照らして人工的に日照時間を延長させる「ライトコントロール」も開始しています。馬は季節繁殖性動物であるため、妊娠に不可欠な卵巣機能は春季以降に発達します。しかしながら、寒冷地である北海道においては、3月に交配を行うためにはライトコントロールによる卵巣機能の早期亢進が必要です。効率的な繁殖管理を実施するためには、適切な栄養管理も不可欠であることはいうまでもありません。
放牧地が雪で覆われ運動不足となりがちな冬期間には、ウォーキングマシンによる運動が有効です。
また、近年、厳冬期である2、3月生まれの子馬の管理方法として普及し始めている“子馬ハウス(屋内パドック)”に、出産前の母馬を慣らす必要もあります。これは、特に初産の場合には、出産直後に初めての場所に連れて行くことで、母馬がパニックに陥ることを防ぐ目的があります。直接的な原因は不明ですが、昨年“子馬ハウス”を使用していた子馬が関節炎を発症した経験から、生後間もない子馬の感染症を防ぐためにも、母馬に “子馬ハウス”に存在している細菌やウイルスに対する抗体を獲得させ、初乳を通じてその抗体を子馬に移行させる目的で、今年は出産1ヶ月前後の期間を中心に“子馬ハウス”に収容するようにしました。
主に冬期間の出生馬に使用する“子馬ハウス”。場所に慣らし抗体を獲得させる目的で、出産前から母馬を収容します。
さて、昼夜放牧を継続している1歳馬達も寒さに順応したのか、それとも寒さの峠が越え、日照時間の延長を体感し、春の訪れを感じているためなのか、ますます生き生きとしています。1月初旬と比較して牧草の摂取量も増え、放牧地でじゃれ合う姿も目立つようになってきました。ブレーキングが開始され、馬房での個体管理を始めるまでは、可能な限り馬本来の群れでの管理を心掛けていきたいと考えています。放牧地で観察していると、1頭が乾草を食べ始めると他の馬も乾草を食べ、1頭が水を飲み始めると他の馬も水飲み場に近づきます。このように集団での行動を尊重することによって、競馬にも不可欠な群れへの適応を自然と身に付けさせたいと考えています。
放牧地でじゃれ合う1歳馬達。特に牡馬同士で遊ぶ頻度が増えてきました。
1頭が水飲み場に向かうと、他の馬もやって来て水を飲み始めます。
放牧地における運動距離をGPSで測定すると合計8~10km程度を推移しており、天候が悪い方が運動距離は長くなる傾向があります。当場では自発的な運動を促すために、放牧地の隅にルーサン乾草を1日に2回置き、さらに1日に2回の飼付け時には、馬房に収容して給餌を行い、放牧を再開する時にフレッシュな状態となることを期待して、運動量を増やす工夫を試みています。
放牧地の隅にルーサン乾草を置いておくと、馬はルーサンを探して放牧地を歩き回ります。
一方、1歳馬の体重は停滞する傾向にあり、標準とされている日増体量(この時期の標準的な値は0.5kg/日)を下回っています。寒冷地である北海道では、当歳から1歳時の冬期間に成長曲線が鈍化するため、冬期の適切な管理方法が課題となっています。当初は米国のコンサルタントが提唱している成長曲線に合わせるべく体重のコントロールを試みていました。しかし最近では、北海道の冬は青草もなく-10℃を下回るような最低気温になることも考えると、他の季節と同じように成長させることは不自然ではないか、また、北海道に比較して寒さが厳しくない馬産に適した米国での成長曲線とは異なってしかるべきではないか、とも考えるようになりました。また、成長の程度が個体ごとで異なるのは自然であり、無理に平均値として得られた基準値に調整する必要はないとも思うようになっています。幸いにも、2月に入ってからは、1ヶ月間程度停滞していた体高が、再び徐々に伸び始めた馬も認められてきていますので、もう少し待ってみたいと思います。冬期の成長の停滞以上に、栄養満点の青草が生え始める春季における成長のリバウンド(代償的成長)に対して、細心の注意を払わなければと肝に銘じています。
このような北海道での当歳から1歳にかけての冬期における成長停滞が生理的なもので、競走馬としての将来にプラスになることを信じるとともに、マイナスに作用する可能性についても関心を持ちながら今後の調査を進めたいと思っています。