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育児放棄(生産)

222日に本年最初の出産を迎えることができ、当場でもようやく出産シーズンが始まりました。この最初の出産は、初産であり、さらに例年より厳しい冬が影響したのか予定日よりも11日遅れとなりました。初産のために、子馬は50kgと小さく、それも手伝って比較的容易に分娩を終え、さらに初乳もスムーズに摂取したために、スタッフの間でも無事出産を終えたという安心感が漂いました。

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初めての大仕事を終え、子馬の匂いを嗅ぎ、愛情を深める母馬。

翌朝、初乳を経て子馬に移行する抗体の血液中濃度を測定したところ、十分量ではなかったために、冷凍保存初乳を給与することにしました。再度、24時間後に抗体の濃度を測定したところ、十分量の抗体価の上昇を認めることができました。初産のために、初乳中の抗体の濃度が少し低く、乳量も少ないのは一般的なことであり、さらに生後2日間は子馬が乳首から吸飲している姿も認め、また乳首も濡れていたために、この時点では、それほど心配はしていませんでした。しかし、生後3日目から子馬が乳首に近づこうとすると、母馬が子馬を威嚇し、さらには蹴り上げる行為を見かけるようになり、その時期と同じくして子馬の体重の減少を認めました。

初産馬で見られることがある育児放棄が起きてしまいました。馬において育児放棄が起きた場合には、唯一の栄養源である母乳に代わるものを与えなければなりません。その方法として、乳母を導入するか、人工哺乳を行うかのどちらかが選択されます。また、子馬が母馬からの攻撃によって大事に至る危険性もあるために、虐待の程度が激しい場合には早急に母子を分ける必要があります。

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子馬を威嚇し、噛み付こうとする母馬。

 

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小パドックでは他の親子では考えられない程の親子間の距離を確認しています。

今回のケースでは、母馬の攻撃は威嚇程度の範囲であり、さらに初産で泌乳量が少ないために、子馬が執拗に吸い続けることによって痛みを感じているようにも思われ、またヒトが母馬を保定しさえすれば、ストレスは感じているものの吸乳を受け入れるために、早急に母子を分ける必要性は感じられないため、人工哺乳を選択しました。

人工哺乳の方法も様々であり、哺乳瓶での給与や、バケツでの給与などがありますが、今回は、ヒトが保定しさえすれば子馬の吸乳を受け入れることを尊重し、子馬が乳首に吸い付く、吸乳刺激によって泌乳量が増加することを期待して、吸乳時に子馬の反対側から経口投薬器で給与する方法を選択しました。以前、当場で哺乳瓶を使用して人工哺乳を実施した馬が、ヒトをヒトとも思わずに、取り扱いの難しい成馬へと成長した苦い経験もあり、あえて哺乳瓶の選択は避けました。この方法によって、子馬がヒトから乳を与えられているのではなく、母馬の乳首から乳を得ているという意識を持ち続けさせることができればと考えています。

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母馬を保定し、子馬が乳首に吸う時に、口角から経口投薬器を舌の上に挿入し、乳首吸飲時に口蓋と舌の間に生じる陰圧を利用して、人工乳を給与します。

 

 一方で、母馬のストレスを軽減させるために、泌乳に関連するホルモンであるプロラクチンの分泌を促進させるための投薬処置を実施し、泌乳量の改善も試みています。人工哺乳を開始して5日目頃から、短時間ではあるもののヒトが保定することなく、子馬の哺乳を許容する姿、特に母馬が横臥で寝ている状態では23分間も吸乳を許すようになってきました。また、子馬の体を舐める姿も見受けられるようになり、徐々に子馬と母馬の距離が近づいているよう感じています。それとともに乳房の膨らみも少し増し、さらにまだまだ十分量にまでは達していませんが、泌乳量も少し増えています。46kgまで低下した子馬の体重も、生後10日目には60kgにまで回復し、活発な行動も見受けられるようになりました。

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子馬の哺乳を許容する姿も見られるようになり、特に横臥時には23分間も吸乳を許すようになってきました。

初めて妊娠した馬が出産する場合には、このような育児放棄が起こることもあるといわれています。今回、このような育児放棄を経験し、子馬が困惑するのは当然ですが、母馬もどうして良いのか分からずに困惑していることを理解することができました。このような場合、ヒトが新生子を育てるという状況は最後の手段であり、可能な限り母馬が保育できるように対応したいと思っています。一方、海外ではホルモン製剤の投与によって、経産空胎馬に泌乳を誘発させることができるという報告もあるので、今後のことも考え、このような方法も試してみたいと考えています。