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育成期のV200測定値(後編)(日高)

厳しい冬を乗り越えた植物が生育しはじめる弥生を迎えました。手前味噌ではありますが、日高育成牧場の育成馬たちも厳しい浦河の冬の寒さを乗り越え、さらに基礎体力を築くため、昨秋のブレーキングから始まった日々のトレーニングを順調にこなし、残り2ヶ月を切ったブリーズアップセール、さらには競走馬としてターフを駆ける日に向けてさらにたくましく成長しているように映ります。

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通常調教は800m屋内トラックコースで実施。トラックコースでの調教時には馬がリラックスした状態で走行できるように心掛けています。右からタヤスオドリコの09(牝 父:ゴールドアリュール)、ダイイチボタンの09(牝 父:ダイワメジャー)、ブルーレインボウの09(牝 父:マヤノトップガン)

31日現在、通常調教は800m屋内トラックコースでの調教をベースとし、週2回は屋内1,000m坂路コースでの調教を実施しています。坂路コースでは“オン”に近い状態で“on the bridled”を意識しており、一方、トラックコースでは“オフ”の状態で調教を行い、日々のメリハリを重視して調教メニューを組立てています。本年は坂路調教を行う前に、ウォーミングアップとして800m屋内トラックコースにて1,200mのステディキャンター(22秒/F)を実施しているために、昨年と比較すると総運動量は1,200m増加しています。その後、15分かけて坂路コースまで向かい、34頭を1つのロットとした縦列でのストリングを組んでのステディキャンターを2本実施しています。スピードは1本目が60秒/3F2本目を54秒/3Fを目安としており、運動量が増えている分、昨年同時期よりスピードは少し抑えています。スピードよりも“on the bridled”の手応えを重要視し、ブリーズアップセールの“時計よりも馬の走法や出来映え”をアピールするというスローガンに則した仕上げを目標としています。

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2回は屋内1,000m坂路コースで野調教を実施。坂路コースでは“オン”に近い状態で“on the bridled”を意識して調教を行っています。先頭からサクラハートピアの09(牡 父:トーセンダンス)、ロマンスビコーの09(牡 父:デビッドジュニア)、テイエムサイレンの09(牡 父:ケイムホーム

さて、今回は前回に引き続き、日高育成牧場においてトレーニング効果の指標として、毎年2月と4月に測定している “育成期のV200測定値”についてお伝えいたします。前回は“V200”は異なる個体間での能力の比較よりも同一馬のトレーニング効果を検証するのに適した指標であること(図1)、さらには“V200”の個々の測定値のみを評価すること自体にはあまり意味がないことについて述べさせていただきました。今回は日高育成牧場での“V200”測定値の利用方法、および本年2月に測定した結果について説明いたします。

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1:育成期およびトレセン入厩後の“V200”の測定値の推移(松本ら)。調教馬場の違いなど環境が変わっても経時的に“V200”を測定することによってトレーニング効果を検証することができます。

日高育成牧場では、過去12年間に渡って毎年2月と4月のほぼ同時期に“V200”を測定しています。同時期に、同じ馬場で“V200”を測定するということは、年度毎の調教効果を比較検討する手段のひとつとなり得ることを意味しています。個体毎に適切な調教方法というのは当然異なりますが、“調教群”として捕らえた場合には、2月の時点までにある程度の調教負荷をかけてV200”測定値を上昇させておいた方が良いのか、それとも2月から4月の“V200”測定値の上昇率が高い方が良いのか、あるいは牡と牝では異なるのかなどについての調査研究を実施しています。つまり、その年の“V200”測定値と調教時の運動器疾患の発生率や、その世代の競走成績との関連性を調査することによって、More than Best”となる調教を目指して次年度の調教計画に役立てています。

本年のV200”の測定結果は2月の時点では過去13年間で最も高い値となりました。すなわち、この結果は2月の時点では例年以上に有酸素能を高める調教負荷がかけられており、トレーニング効果が得られているということを意味しています。一方で、調教強度が例年よりも強く、馬への肉体的および精神的負荷も大きいという解釈もできるために、筋肉や骨疾患などに起因する跛行や、餌を残すなどストレスの程度についても注意深く観察しなければならないということも意味していることになります。

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2:過去5年間の2月における“V200”の測定値。本年は過去13年間で最も高い値となりました。この結果は有酸素能を高める調教負荷が十分にかけられていることが推測できる一方で、調教強度が例年よりも強く、馬への肉体的および精神的負荷も大きいという解釈もできます。

個々の馬のV200”測定値に触れてみると、調教中に動きの目立つ馬が期待通り高い測定値を記録している一方で、個々の測定値のみを評価すること自体にはあまり意味がないと申し上げましたとおり、期待していた血統馬が予想を裏切り低かったり、調教中にあまり動きの目立たない馬の測定値が高かったりと、測定値の解析を困難にさせることも少なくありません。キャンターへの移行直後から心拍が上昇する馬はV200”の測定値が低くなる傾向がありますが、スプリンターの条件としては、スタート直後からの心拍の上昇というのが不可欠であるようにも思われるために、短距離に適正のある馬は測定値が低くなる傾向があるのではないのかと推測しながら解析していますが、結論には至っていません。

今後もJRA育成馬での測定データを蓄積し、競走成績と照らし合わせることで検証し、皆様方に還元できればと考えています。なお、日高育成牧場の育成馬展示会は411日(月)10時開始での開催を予定しております。実馬展示後にブリーズアップセールに上場する予定の馬たちのトレーニングを皆さまに披露させていただきます。多くの皆さまのご来場をお待ち申し上げております。