育成馬ブログ 日高⑤
○ 育成馬の体力測定(日高)
前回お伝えしたとおり、暖冬の影響で日高育成牧場の育成馬59頭は
比較的過ごしやすい日々を送っています。
朝夕の気温は氷点下10度を下回るものの、降雪があっても昼間に気温が
あがるため根雪にならずに溶けてしまいます。
坂路馬場までのアクセス路確保に心配することのない恵まれた環境の中、
育成馬達の心身を鍛錬する日々が続いています。
●育成馬の調教状況
まずはJRA育成馬の調教状況についてお伝えします。日高では育成馬59頭を
出生時期や成長度合い、馬格や血統等を参考に3群にわけて騎乗馴致を開始し、
群ごとに運動メニューを作成して調教を進めてきました。しかし1月中旬には
最後に馴致を開始した3群の馬達にも基礎体力がつき、同じ調教メニューが
こなせるようになったため、全馬が同じ調教メニューをこなしています。
現在は屋内800mトラックにおいて縦列のキャンター(1周:ハロン22秒程度)を
行った後、手前を変えて2or3列縦隊でのキャンター(2周:ハロン20秒程度)を行う
メニューをベースにしています。強い負荷を課す坂路調教は毎週火曜日・金曜日に
実施しており、屋内800mトラックでハッキング(キャンター2周)を行ってから坂路2本
(縦列、3ハロン54秒程度)を駆けあがります。
体力のついた若馬は坂路で速く走りたがりますが、今はあえてスピードを求めず、
きれいな隊列で距離を詰め、正しい走行フォームで走ることに主眼を置いています。
全身を使って後躯をきちんと踏みこませた走りを教えることが現時点の課題だと考え
ています。
また、休み明けの月曜日と坂路翌日にあたる水曜日・土曜日には800m屋内
トラックで「リラックス」させることに主眼を置いた調教を、木曜日にはスタミナ強化を
目指して普段より少し長い距離を乗る調教を行っています。
このように1週間の調教メニューをパターン化することで、育成馬に「オン」と「オフ」を
理解させ、日々の調教にメリハリをつけられるように心がけています。
動画1.屋内1000m坂路コースでの調教
先頭からグレインラインの14(父:エンパイアメーカー)、
シルクハリウッドの14(父:タニノギムレット)、
クイーンマーメイドの14(父:トビーズコーナー)
●育成馬の体力測定
現在、育成馬の体力測定として毎週金曜日の坂路調教後に『乳酸値測定』を
行っています。これは坂路調教直後に採血を行い、血液中の乳酸値を測定して
馬個別のトレーニング効果を判断するものです。
調教後の息遣いや騎乗者の感触などの感覚的なデータと乳酸値という科学的
データをあわせることで、各馬の現在の状態を判断しています。
これと別に行っている体力測定に「V200値測定」があり、これは群全体のトレーニン
グ効果を見る検査として利用しています。「V200値」は心拍数が200拍/分に達した
時の走行速度を意味しており、競走馬でもこのV200値やVHRmax(最大心拍数に
達したときの走行速度)を測定して体力・持久力評価に用いています。
日高育成牧場では17年前から2月と4月にV200値の測定を行っています。
毎年同時期に同じ馬場で測定するこのデータは、その世代の調教効果を過去と
比較する際に有用です。
乳酸値測定は馬個別の体力変化を調べるために、V200値測定は“調教群”として
トレーニング効果が期待どおり得られているか判断するために使っています。
写真1.V200測定を行う育成馬。最後の直線はハロン17秒で駈け抜けます。
今年は2月3日に牡(24頭)、2月4日に牝(23頭)のV200値測定を実施しました。
全測定馬の平均値は631.7 m/min(牡平均:629.8、牝平均:633.7)であり、
今年の群は過去10年の2月平均のなかで最も高い値を示しました。
このことから、現時点では調教負荷が適切にかかり、有酸素能が高められていると
考えられます。次回の検査は4月に行う予定なので、結果が出たら同ブログ内で
報告しようと思います。
●セリ名簿用写真撮影を始めました
4月26日に開催されるJRAブリーズアップセールに向けた準備を少しずつ始めて
います。その1つとして、例年より半月ほど早い2月初旬から写真撮影も開始しまし
た。これは今年のセリ名簿にはブラックタイプに加え、直近の育成馬写真も掲載する
ことが決まっているためです。撮影開始から2分とかからずに終わる馬もいれば、
いつまでも落ち着かず時間のかかる馬もいますが、現在のところ撮影は順調に
進んでいます。
写真2.写真撮影を行うエブリシング14(牝、父:サマーバード、BU番号:50)。
毎年のことですが、育成馬の写真撮影を始めるとセールが近づいてきたと感じます。
我々JRA職員が育成馬に手をかけられる時間はセールまでの残りわずかな時間で
す。この限られた時間を有効に使い、競走馬としてデビューしてから後悔しないよう、
スタッフ一丸となって日々の管理にあたろうと思います。