育成馬ブログ 宮崎②
●雨天時の夜間放牧が馬体重に及ぼす影響(宮崎)
○育成馬の近況
2群に分けて騎乗馴致を進めている育成馬の近況をお伝えいたします。
9月上旬から騎乗馴致を開始している1群(牡馬10頭)は、
最初の3週間はドライビング中心に馴致メニューを組み、
現在は500m馬場において速歩および
ハッキング程度を行えるまでになっています。
11月からは1600m馬場でのキャンター調教を実施する予定です。
写真① 500m馬場で隊列を整えた速歩を実施する1群牡の育成馬
1群牡のドライビング動画
一方、10月上旬から騎乗馴致を開始している2群(牝馬12頭)は、
ドライビングを開始したところです。
11月からは角馬場において集団での速歩調教を開始する予定です。
○夜間放牧の1歳馬を襲った豪雨
馬を管理していると、雨や雪などの悪天候時に放牧すべきか
舎飼いにすべきか頭を悩ます時があります。
予報とは異なって、夜中に雨が屋根を襲う音で目覚め、
放牧している馬を集牧した経験をお持ちの方も
少なくないのではと思われます。
今回は天気予報と大幅に異なる豪雨に見舞われた際に、
夜間放牧を実施していた馬の体重の変化について触れてみたいと思います。
事の経緯は、日本列島に甚大な被害を及ぼした台風18号が
9月17日朝に宮崎に直撃するという予報、
および15日夕方から16日朝までの降雨量は
最大で10mm/h未満という予報を鑑みて、降雨量はいくらか多いが、
48時間の馬房内管理となることは回避すべきとの判断を下し、
15日夕方から夜間放牧を実施したことから始まりました。
しかし、上記の予報に反して、
台風18号が秋雨前線を刺激した影響を受け、
15日23時以降から降水量が10mm/hを超え、
16日6時には最大となる34mm/hの豪雨を認めました。
なお、16日0時からの1時間あたりの降水量は下図のとおりであり、
放牧中の総雨量は約250mmに達しました。
図① 9月16日未明から午前中の降水量
(日本気象協会 tenki.jp より)
6時の時点において、目視で全馬の異常を認めなかったこと、
また、激しい豪雨および放牧地から厩舎への馬道が冠水しており、
人馬の安全を考えた場合には集牧可能な状況でなかったこと、
さらに前日の13時に馬体重測定を実施していたことから、
豪雨時の放牧が馬体重に及ぼす影響を把握するため、
集牧を前日の馬体重測定時刻である13時に行い、
馬体重を測定することとしました。
写真② 豪雨による馬場および馬道の冠水
○豪雨により馬体重は減ったか?
放牧前後において馬体重の減少を認めたのは1頭のみ(-1kg)であり、
その他の21頭は増加を認め、
そのうち4頭(牡牝それぞれ2頭)は10kg以上増加していました。
平均増加量は6.6kg(牡:6.4kg、牝:6.8kg)でした。
なお、集牧直後の体温については39.5℃が最も高く、
5頭が39℃を超えており、これらは全て牝馬でした。
これらの馬は治療することなく、翌日には平熱に復しました。
体重増加の原因は不明ですが、集牧の1時間前には雨は止んでいたため、
測定時には馬体はほぼ乾いており、
汗コキを用いて水分を取り除くことは困難な状態であったことから、
体重増加が馬体に含まれた水分に起因することは否定されました。
GPSを装着していなかったために推測の域を出ませんが、
豪雨のために放牧地での運動量が大幅に減少したため、
エネルギー消費が減少したことが原因の一つとして挙げられます。
その他、体重測定の直前まで青草を摂取していたために
水分摂取量が増加したこと、また牡に関しては、
馴致を実施しなかったことも一因であるものと推測されます。
事前に総雨量が250mmにも達することが分かっていれば、
必ず舎飼いを行っている程、
また夜中も集牧すべきではないかと自問自答する程の豪雨であったため、
体力消耗に伴って体重が減少しているものと推測していましたが、
ほとんどの馬が増加する結果となりました。
馬は元来、草原で暮らす動物であるため、
夜間放牧の環境に慣れさえすれば、
降雨による影響は私たちが想像しているほどではないのかもしれません。
そういえば、アイルランドでの研修中に、
昼夜放牧を実施している馬の管理の秘訣は、
馬体の油を落とさないことであり、
そのためにシャンプーはもちろん真冬でも
お湯で馬体を洗浄することは避けなければならず、
馬の手入れの基本はブラッシングであるといわれたことを思い出しました。
私達が馬のために良かれと思って実施している
シャンプーやお湯での洗浄は、
実は馬の自然の抵抗力を減退させているのかもしれません。
セリで美しい馬体の馬ほど、購買後に夜間放牧を実施すると、
皮膚炎を発症しやすいということも関係があるのかもしれません。
写真③ 夜間放牧管理では馬体の油が不可欠なのかもしれません
(写真はアイルランドの夜間放牧の様子)