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育成馬ブログ(生産③)

子馬のロタウイルス感染症の予防について

 

 依然として寒い日々が続く北海道ですが、いよいよ繁殖シーズンが近づいてきました。JRA日高育成牧場でもそろそろ子馬が生まれる予定です。生産牧場の皆様も生まれた子馬を健康に育てるための準備を進めているところかと思います。今回は子馬に下痢症を引き起こすロタウイルスについて、ワクチン接種の重要性や最新動向についてご紹介していきたいと思います。

 

子馬の下痢の主原因
 ロタウイルスは、レオウイルス科に属する二本鎖RNAウイルスです。ヒトを含む多くの動物に感染することが知られており、幼い個体に対して下痢症を引き起こします。ウマにおいては、6か月齢未満の子馬に下痢症を引き起こす病気として知られ(写真1)、日本における子馬の下痢症の約30%がロタウイルスによるものであったという調査結果もあります(Imagawa, 1991)。海外においても、下痢症に占めるロタウイルス感染症の割合は20~77%という報告もあり(Miño, 2017)、世界各国で依然として問題となっている感染症です。発症馬の糞便に含まれるウイルスから容易に感染が広がることから、ロタウイルスを発症させない予防措置を講じることが何よりも重要となります。予防措置として、厩舎内への消毒槽の設置が挙げられますが、軽種馬産業で一般的に使われている逆性石鹸消毒薬(パコマやアストップなど)は効果がない点に注意が必要です。そのため、塩素系消毒薬(アンテックビルコンなど)を使用することが推奨されますが、これらの消毒薬は糞尿などの有機物の混入でも効果が低下しますので、頻繁に交換することが重要となります。

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写真1 ロタウイルス感染症による下痢を発症した子馬

 

妊娠馬に接種するタイプのワクチン
 消毒槽の設置以外の予防措置としては、ワクチン接種が挙げられます(写真2)。ワクチン接種とはある病気に対する抵抗性を獲得するために、その病気の原因となる細菌やウイルスを接種することとして皆様もご存じかと思います。ロタウイルスワクチンが一般的なワクチンと異なる点は、病気を防ぎたい子馬ではなく妊娠馬に接種するということにあります。これは子馬がロタウイルスによる下痢症を発症する時期には、子馬自身が抗体を産生する能力が低いため、母馬に抗体を産生してもらうことを目的に行っています。その結果、母馬が産生した抗体が初乳を通じて子馬に移行し、子馬をロタウイルスの感染から守ることとなります。接種時期は分娩予定日の2か月前に基礎接種(1本目)を、1か月前に補強接種(2本目)を行うと十分な量の抗体が初乳中に産生されると言われています。JRA日高育成牧場では、ロタウイルスワクチンに加えて、馬インフルエンザワクチンと破傷風ワクチンも1か月前に接種することも合わせて行っています。

  

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写真2 ロタウイルスワクチン

  

 ワクチン接種を受けていない妊娠馬から生まれた子馬がロタウイルスに曝露された場合、生後数日の内に症状が出ます。感染した子馬は哺乳をしなくなり、疝痛症状を示したり水様性の激しい下痢を呈したりし、最悪のケースでは死に至ります。一方、ワクチン接種を受けた妊娠馬から生まれた子馬では、母馬からの移行抗体が減少する2~3か月齢の段階で軽度の下痢を示すこともありますが、適切な治療を行うことで回復すると言われています。このように、ワクチン接種によってロタウイルスの感染を完全に防ぐことはできませんが、下痢の期間を短縮したり症状を緩和したりする効果は期待できます。

 

ロタウイルスの最新動向
 現在日本で使用しているロタウイルスワクチンは、A群ロタウイルスのG3P[12]という遺伝子型のウイルス株が使われています。日本を含む世界中で流行しているウイルス株はG3P[12]に加え、G14P[12]というウイルス株もあります。日本におけるロタウイルス感染症と診断された子馬から検出されたウイルス株は、G3P[12]とG14P[12]が交互に流行することが報告されています(Nemoto, 2021)。そのため、今後はG3P[12]に加え、G14P[12]も含むワクチンの開発が待たれます。しかしながら、日本で使用しているワクチンもG14P[12]に対して部分的には効果があることが知られていますので(Nemoto, 2012)、現行のワクチンを接種することは依然として有用であると考えられます。

 世界中で流行しているロタウイルスはA群に属するものですが、2021年にアメリカのケンタッキー州で流行したロタウイルスからはB群ロタウイルスが検出されました(Uprety, 2021)。このB群ロタウイルスは、ヤギやウシに感染するB群ロタウイルス由来と考えられています。また、日本で流行しているロタウイルスはG3の中でもG3Bというウイルス株でしたが、2016年に突如としてG3Aというウイルス株が検出されました。このウイルス株は2017年にアメリカで検出されたウイルス株と非常によく似ていたことから、アメリカから伝播してきたものだと考えられます(Nemoto, 2019)。このように、世界中で新しいウイルス株が出現しており、いつ日本に侵入して流行するか分からない状況です。ワクチン開発には時間を要することを考えると、厩舎内の消毒や子馬の適切な飼養管理の徹底によりロタウイルス感染症を予防していくことが非常に重要と考えられます。下記に示す参考資料を参照して、ロタウイルス感染症の予防に努めていただければ幸いです。

 

参考資料

 
育成馬日誌
気をつけなければならない子馬の病気~ロタウイルスによる下痢症について~(生産)

 

馬学講座ホースアカデミー6
8.子馬の下痢症 ウマロタウイルス病