25-26育成馬ブログ(宮崎③)
GPS機器を用いたタイム測定
育成調教におけるタイム指示
競走馬の育成においては、段階に応じて調教タイムを上げていきます。本年の宮崎育成牧場の育成馬は、1歳の9月ころから騎乗馴致を開始し、11月初旬には1600m周回馬場での騎乗を開始し当初は24秒/F(ハロン:200m)程度、12月には18秒/F程度のスピードで調教を行ってきました。年が明けて1月以降は、強調教として15秒/Fの調教も始め、ブリーズアップセールに向けて12秒/F程度までタイムを縮めていくことになります。
調教におけるタイム指示は、育成馬の体力や心肺機能の向上を目的として設定していますが、当然遅すぎると調教効果を得られないですし、速すぎると疾病を発症するリスクが上昇してしまいます。そのため、騎乗者には調教タイムを守って調教をするように指示を出していますが、経験のある騎乗者でないとなかなかタイム通りに騎乗することは難しいのが現実です。経験の浅い騎乗者は、ヘルメットに小型のメトロノームを付けたり(写真1)、馬のハロン間の完歩数(馬の歩幅の数)を数えたりして、タイム感覚を身につけていきます。しかしながら、正確な調教タイムを測定していないと、その感覚が正しいのかどうかが分からないままとなってしまいますので、タイム測定は非常に大事な要素となります。
写真1 ヘルメットに装着したメトロノーム(1秒間隔で音が鳴るように設定)
調教タイムの測定
調教タイムの測定方法には様々なものがありますが、皆様が真っ先に想像するのはJRAのトレーニング・センターやBTCの坂路馬場で導入されている自動タイム測定システムではないでしょうか。このシステムは、ゼッケンに取り付けたICチップが特定の地点を通過すると自動でタイム計測をしてくれるもので、調教馬場の画面にすぐさまタイムが表示されるので即時性もあり、非常に有益なシステムです(写真2)。しかしながら、これらのシステムの導入には莫大な資金が必要で、簡単に設置できるものではありません。特に、宮崎育成牧場のような屋外馬場(屋根で覆われていない調教コース)においては、これらのシステムのセンサーを設置するための新たな建造物の工事も必要になります。
そのため、これまでの宮崎育成牧場では、コースの真ん中に人が立って、ハロン棒を通過するたびにストップウォッチでタイムを測定するという、非常にアナログな方法でタイム計測を行っていました。このような手計測では、誤差が大きい上に、計測者から見たハロン棒の角度によっては正確な測定が困難であるという問題もあります。
写真2 ICチップを用いた自動タイム測定システム
GPS機器を用いたタイム測定とその活用
近頃では、スマートウォッチなどにGPSの位置情報を受信して走行距離とタイムを計測する機能がついており、それを利用してランニングなどのラップタイムを計測している方もいらっしゃるかと思います。宮崎育成牧場では、今年からモータースポーツ向けのタイム計測機能がついたGPS機器を導入し、調教時のタイム測定を行っています。まず、専用のアプリでコースとラップ計測地点を指定します(写真3)。このコースの場合は、Sがスタート、S1~S6がラップタイム計測地点、Fがフィニッシュ(ゴール)となり、
1ハロンごとのタイムを測定できるように設定しています。また、この機器は非常に優れており、写真にある矢印の方向に向けて通過した場合のみタイム測定をするので、逆手前(反対回り)でウォーミングアップをすることも可能です。測定待機画面にしてから騎乗者に持たせて調教を行うことで、後は自動的にタイム計測を行ってくれます(写真4)。タイムは千分の1秒まで測定でき、その結果は自動的にGPS機器に保存されます。タイムのデータをPCなどに取り出すことも可能で、調教記録を残すためのツールとしても、非常に有用であると考えます。
(S:スタート、S1~S6:ラップ地点、F:ゴール)
現段階では、このGPS機器は主にタイム計測に使用していますが、今後は各種研究にも役立てたいと考えています。例えば、これまでの手計測では直線のみのタイムを計測していましたが、今後はスタート地点からのすべてのタイムを計測することが可能なので、強調教時の運動負荷の程度の指標としている血中乳酸値の評価もより正確なものになると考えられます。さらに、この機器のGPSの精度は非常に高く、位置情報を解析することで、近年話題になっているストライド頻度(単位時間当たりのストライド数:ピッチ数)を測定できます。一般的に、速く走るためには、ストライド頻度を上げて、ストライドを伸ばすことが必要です。そのため、調教の中でいかにしてストライド頻度を上げるかが鍵になるので、このGPS機器は調教の効果判定にも使える可能性があります。今後、これらの内容について新たな知見が得られれば、また皆様にご紹介したいと思います。
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