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育成状況の視察においでください(日高)

まず最初に育成馬の近況ですが、昨年8月の下旬から、10月にかけて、セリでの購買時期や馬の成長状況を考慮して、4群に分けて馴致を開始しその後の調教を進めてきましたが、先に馴致を始めた群が後続を待つ形で、現在牡牝ともようやく、同一調教レベルに追いつきました。週2回のスピード調教を坂路で実施していますが、215日時点で、牡馬は1,000(5ハロン)のギャロップの最終3ハロンを171717秒、牝馬は202020秒の指示をクリアすることができるようになっています。今後も1ハロンの瞬間スピードを求めるのではなく、1,000mの坂路馬場をフルに生かして少なくとも3ハロンの平均スピードを上げていくことで、若馬に対して安全にかつ馬に底力の養成ができる調教を目指したいと考えています。

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牝馬も育成馬全体が坂路で1ハロン202020秒をこなせるまでになっています。馬は左からチッキーズディスコの06(父:シンボリクリスエス)、ハッタロッチの06(父:アグネスデジタル)フランチェスカの06(父:アッミラーレ)(写真提供は齊藤宗信氏)

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坂路に行かない日は、800m馬場において1周-2周の計3周(2,400m)を2列縦隊で、牡はハロン20秒、牝は22秒を上限とした駆歩をベースに調教を進めています。馬は先頭左がファミリアーストーリーの06(牡 父:Diesis)、マイネマリエの06(牡 父:バブルガムフェロー)。(写真提供は齊藤宗信氏)

さて、そういった現在のJRA育成馬の調教状況、飼養管理は、生産や育成に携わる方、JRA育成馬の購買を希望される馬主、調教師の方々に参考にしていただくこと主眼として常時オープンにしております。事前に「育成状況の視察希望」の旨、育成牧場にまで連絡をいただけましたらできる限り対応させていただいています。

これまでにも多くの育成牧場の方々に来場いただいておりますが、先日は三石の青年部の皆さんが訪れ、熱心に視察されるなかで、本年の調教の進展状況や視察した内容に対する質疑など、多く話題に盛り上がりました。中にはJRA育成の生産牧場の方もおられ、愛馬の成長を見て期待に胸を膨らませていました。来場いただいた方には育成牧場の育成馬管理の基礎を明記した第2版となる「JRA 育成牧場管理指針」や育成馬名簿などをお配りし、でき得る限り当育成牧場の育成内容について理解いただけるように努めています。育成牧場で実施されている手法が少しでも皆さんの育成の参考になれば幸いですし、同時に我々にとっても外部の色々な方々との意見交流は大きな刺激にもなっています。

来場をお待ちしています。

なお、一般のファンの皆様には、夏季(7月~10)に毎週牧場見学ツアーを実施する予定ですので、日高路への旅行の際には事前連絡の上是非お立ち寄りください。子馬を含めた場内の馬達とのふれあいなども企画しており、育成馬とは趣は違いますが楽しんでいただけると思います。

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覆馬場において、調教前の歩様チェックに際して、各馬の説明に耳を傾ける青年部の皆さん(写真提供は齊藤宗信氏)

馬をみていただくためのポイント(宮崎)

馬をみていただく際に、馬の保持者はどのような点に注意したらよいのでしょうか。まず、検査する方に馬をみていただく時は、動かないように左側を向けて、写真のように正しく立たせること。そしてタテガミは頚のラインを見せるために右側に寝かせることが基本中の基本です。

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 ヤナビの06さんもきちんとポーズをとっています。

また、馬を検査する方の動きに伴って保持者は位置を変化させる必要があります。その基本は検査者が馬を見渡せ、保持者から検査者の位置が確認でき、検査者にとって安全なポジションであることです。

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 駐立展示における保持者の位置の変化。例えば検査者が①の場所にいる時は、保持者は左手で手綱の根本を持ち検査者をみる(①の位置)。検査者が②の位置に動いたならば保持者は手綱の根本を右手に持ち変え検査者をみる(②の位置)。

また検査する方に馬を引いてみせる時は、常歩、速歩ともキビキビと歩かせることが重要です。そのポイントについては次回掲載いたします。

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 2月に入り1,600m馬場での調教は単走・併走を織り交ぜて、駈歩の総距離は3,100mまで、最後の2ハロンを21秒‐17秒ほどで実施しています。写真はモーリフェアリーの06(牡:父は新種牡馬プリサイスエンド)23日)

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 最後は調教中のおぼっちゃま?馬ヒロジュエルの06。放牧中とは一変した精悍な表情でやる気満々。

皆様にみて、触れていただける馬づくり(宮崎)

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 突然ですが、宮崎イチの美女育成馬?ヤナビの06さん(父は新種牡馬ネオユニヴァース)からの問題です。「私は昨年のセリで買ってもらった中で、最もフツーの育成馬です。それはなぜかしら?

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 一方、宮崎イチのおぼっちゃま馬?ヒロジュエルの06くん(父はフサイチコンコルド)もなにか言ってます。「ホントは僕、宮崎で一番フツーの育成馬なんだよ」。

決してフツーとは思えない派手顔のこの二人、いったい何をいってるんでしょうか?

正解は「セリで購買したとき(1歳時)の価格」なんです。

日本では年間約8,000頭近いサラブレッドが生産されますが、そのうちの約1,000頭近くが1歳市場(セリ)で売却されます。この頭数は当歳市場(約350頭)や2歳市場(約200頭)よりずっと多く、宮崎の育成馬達もみんな昨年の1歳市場で売却された(といいますかJRAが購買した)馬なのです。

ヤナビの06さんをJRAが購買した価格こそ、ほぼ昨年の全国1歳市場での平均取引価格(約824万円)にあたるのです。ちなみにJRAが昨年購買し宮崎にやってきた馬達に限ると、その平均価格はちょっと割安でほぼヒロジュエルの06くん購買価格(683万円)にあたるというわけです。

この購買時価格はJRA育成馬の個別情報の一部なのですが、これ以外にもJRAでは皆様に育成馬をよく知っていただくための資料として、体の大きさ(体重や体高など)、調教実施状況、病歴およびくせなどを育成馬個体情報として開示しています。育成馬の価格は超高級車並ですから、車でいうパンフレットにあたるこれらの情報発信はますます充実させていきたいと考えています。

一方でパンフレットだけではなく、「自分はこんな馬ですよ」と実物を見て、触れて、ご納得いただける馬であることも重要です。すぐに暴れる、蹴るまたは触れさせないようでは、大きなマイナスポイントとなるわけです。現在行っている「調教」には、運動能力の向上のみならず、精神的な成長を促すことも含まれており、多くの皆様にみて、触れていただける馬づくりはその一部です。みて、触れていただくにはそのような状況をつくり練習していくことになります。人と馬とが信頼しあいながら、時間をかけて、繰り返し繰り返し実施することが大切です。

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駈歩調教後のクーリングダウン。324日の育成馬展示会にむけ、展示会場予定地である旧宮崎競馬場一等馬見所(スタンド)にはじめてやってきました(27日撮影)。

調教騎乗における拳と手綱の持ち方(日高)

若手の職員や研修生などに、調教騎乗における拳(こぶし)と手綱の持ち方についてよく質問を受けます。私は基本的には、手綱はダブルブリッジ(図.2 参照)で持ち、手綱を握る拳は、キ甲を通る「サイドレーンの様な拳」が理想だとシンプルに考えています。また安全のためにネックストラップ(馬の頚に掛けた皮ひも)も併せて持つように指示しています。

サイドレーンは騎乗せずに馬を御すときに、馬の頭頚の位置を理想的な位置にコントロールするための馬装具です。育成馬に対しては下の図.1 の様に、馬の頭の位置が理想的になる長さに設定し、制御がきつすぎなり過ぎないように、馬のキ甲を交差させて用います。中間にあるゴム環が緩衝作用を担い、このゴムと同様の役割を拳が行えればよいのです。サイドレーンは規定の位置に馬の頭頚が納まっていれば馬に何のプレッシャーもかかりません。一方でその枠からはみ出そうとすれば明確に「ダメ」と制御します。この明瞭さが馬の理解を早めます。またキ甲に拳を軽く置くメリットは、馬の頚が動く基点がキ甲であり、走行時の馬の頚の動きを妨害することが少ないからです。両足でアブミに立ちふくらはぎで馬とコンタクトを取る調教騎乗においては、よほどのバランス感覚を持った熟練した騎乗者でなければ、手綱を持つことだけでは拳を一定の位置に置くことは困難です。ましてや相手はまだ走行の安定しない若馬なのです。押さえつけるような硬い拳ではなく、弾力のあるゴムをイメージして、そっと拳をキ甲に添えることの大切さを伝えています。持ち上げる様な高い位置の拳、頚にまで下げた低い拳は騎乗者にとってバランスが悪いだけでなく、馬自身の自然な動きまでも阻害してしまうため慎みたいものです。

また、ダブルブリッジは、手綱を二重にして持つため握りを強くすることができ、行きたがる馬に、じっと我慢させる場合には特に有効な持ち方です。また安全の面でもキ甲の左右に拳を分けて位置させることにより、馬が急反転した場合などにもバランスを崩しにくくなります。どんな時でも、少なくとも片手だけ手綱を2重に持つシングルブリッジ(図.3参照)にすることだけは心がけたいものです。

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.1 馴致段階でのサイドレーンの装着。キ甲の部分で左右のサイドレーンを交差させる。このイメージを騎乗者の拳にも求めています。

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.2 ダブルブリッジの持ち方

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.3 シングルブリッジの持ち方

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.4 駆歩騎乗時の適切な拳の位置。サイドレーンの様な拳のイメージを大切に。(モデルはBTC研修生と研究馬)

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.5 ブリッジにしていないと、腕が開いてバランスを崩してしまう危険性が高くなります。手綱のブリッジは、馬のとっさの動きに対して、バランスを崩すことが少なくより安全と考えています。(モデルはBTC研修生と研究馬)

順調に調教が進んでいます(日高)

ここ2週間、連日厳しい寒さの続く浦河ですが、先日はマイナス19度まで冷え込みました。地球温暖化の影響もあるのか、育成牧場では数10年来マイナス20度の大台は記録されていないと聞いており、さらに寒さの増すこれから2月末までには経験できるかもしれません。その一方で、降雪は少なく、アクセス路が確保できるため、年が明けてからも順調に週2回の1,000m屋内坂路馬場でのスピード調教が積めています。

現在、意図的に若干牝馬の調教を遅らせており、坂路では、牡馬は2本(2頭併走で2本目のスピード指示は最後2ハロンを18秒-18秒)、牝馬は1本(2列縦隊でスピード指示は最後2ハロンを22秒‐20秒)としています。牝馬の調教を遅らせている理由としては、経験的に冬の寒い時期から調教量を増やした場合、故障が多く精神的にもテンションが高くなり飼いの食いが落ちてしまうなどの難しさがあるからです。最近のデータでは、季節繁殖動物として春に発情の始まる牝馬は、冬期間は卵巣が活動しておらず性ホルモンが動いていないことがわかってきており、そのあたりのことも牝馬調教の難しさに影響しているのかもしれません。

4群に分けて馴致を行いましたが、群間の運動内容格差は徐々に詰まってきています。その一方で、徐々に四肢の熱、すくみなどの運動量の限界を示すサインを見せる馬も出てきており、これまで以上に注意を払いながら調教を進めていかなければならない段階に入ってきたと感じています。

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厩舎地区から屋内坂路馬場 約2km離れた覆坂路に向かう育成馬達。

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 1,000m屋内坂路馬場での併走調教。スピード指示は、最後の2ハロンを18秒‐18秒。右はハートフルソングの06(♂:父クロフネ)、左はアーチェリーの06(♂:父シルバーチャーム)。非常に軽快なフットワークで、計測されたタイムは3ハロンの合計で58.1(ハロンごとでは21.618.418.1)。持ったままの指示で馬に余裕のあるこの時期としては、蹴り合いなどの事故を防ぐには理想的な間隔を保った併走だと思います。これから求めるスピードと距離がさらに高くなるにつれて、併走での馬の間隔は詰めていくことになります。