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馬体重の日内変動について

前回、宮崎からの日誌では「馬体重の変動」を話題として、長時間輸送等による30kgもの体重減が数日間で回復する例をお伝えしました。今回は1日の中でどれだけ体重が変動するかについての話です。なお、日内変動といっても朝と夕方のみの比較ですのでご了承ください。

● 体重の日内変動

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上の図1は夏季の連続9日間、朝・夕の体重を計測したものです。これをみますと、1歳の育成馬(牝馬)と14歳の乗馬(去勢馬)の2頭とも、夕方に比べて朝の馬体重が増加していることがわかります。この9日間を平均すると、1日の変動幅は乗馬で9kg、育成馬で5kgとなりました(下の図2)。これは、65kg の大人に換算すると0.91.3kgほどの変動幅です。なお1日の最大変動幅は乗馬で15kg、育成馬で13kgでした。

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ちなみにこの2頭は毎日一緒に放牧されていて(2頭のみ)、計測開始の1週間前から、涼しい夜間は放牧、暑い昼間は厩舎で静養というパターンで管理していました。もう少し詳しくいいますと、①朝8時に放牧地から厩舎に戻り、体重計測後に軽い運動、②厩舎にて、830分と15時に餌付け(太りやすい14歳乗馬は合計1kg1歳育成馬は合計3kg)、③16時に体重計測後、放牧(以降朝まで夜間放牧)といった管理でした。

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2頭で仲良く放牧中。今回データをとった育成馬(右)と乗馬(左)です。

朝の体重がなぜ増加したかといいますと、夜間放牧での十分な青草の採食などの理由が、逆に夕方の減少は、厩舎での制限された餌の量や昼の暑さによる消耗などの理由が考えられます。特に14歳乗馬の方は太りやすい傾向でしたので、昼間の餌の量が少なかったこと(夜間の青草採取量が多かったであろうこと)が、変動幅を大きくした要因といえるでしょう。厩舎の馬房内で管理されている競走馬の場合は、これほどの変動幅はないのかもしれません。

また興味深いことに図1をみると、前半の4日間に比べ後半の5日間で、2頭とも同じように変動の幅が大きくなる傾向がみられました。原因は不明ですが、気象条件や夜間放牧中の運動量が一因と思われます。蒸し暑い日も雨の日も夜間放牧は継続されます。天候のほかにも小動物の出現や街の騒音などに驚いて走り出すなど夜間の運動量も日によって変化があったのでしょう。馬は群れで行動する動物ですし、特に仲良く寄り添っていたこの2頭は、ほぼ同じ運動量であったと思われることも、同一の変動傾向がみられた理由ではないかと考えています。

     宮崎の育成馬24頭が揃いました。

Big Dream Stables 宮崎育成牧場の今シーズンのラインナップが揃いました。7月のセレクションセール購買牡馬4頭(当初は日高育成牧場で繋養)と8月のサマーセール購買馬13頭のあわせて17頭が95日に入厩しました。

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今回入厩した8月購買馬たちはしばらく夜間放牧を継続し、馬体の成長を促がします。写真は朝、集牧前の8月購買牡馬4頭です。先頭はタヒチアンブリーズの07(父:ボストンハーバー)。後続は左からバルジの07(父:タップダンスシチー)、ホットマイハートの07(父:スパイキュール)、エイダイヒロインの07(父:クロフネ)。

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台風13号が過ぎ去った920日より、7月購買馬を中心に、騎乗のための馴致をスタートさせました。馬はスラムインの07(父:ゼンノロブロイ)。

育成馬 活躍情報

97日(日)に行われました第28回新潟2歳ステークス(GⅢ)において、セイウンワンダー号(育成馬名:セイウンクノイチの06、父:グラスワンダー、領家政蔵厩舎、馬主:大谷高雄氏)が優勝しました。同馬にとっては2つ目の勝ち星で、JRA育成馬としてはダイワパッション号(フェアリーステークスGⅢ、フィリーズレビューGⅡ)以来の重賞制覇となりました。

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サマーセールの事前検査で感じたこと(日高)

北海道市場において818日から開催されたサマーセールで、JRA58頭の1歳馬を購買しました。このうちの45頭(牡20、牝25)が、27日から29日にかけて日高育成牧場に無事入厩してきました。今年については、牡馬は環境に慣れ次第騎乗馴致を開始し、牝馬はしばし昼夜放牧を行い、馴致開始まで成長を待つことになります。

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 2頭放牧で仲良く草を食む牡馬(手前2)。左はマンリーポッケの07(父キャプテンスティーヴ)、右はカズサヴァンベールの07(父アルカセット)。牡馬を多頭数で放牧すると、群れが落ち着くまで争いが続き、蹴り傷などが絶えません。群れ作りに要する危険性を極力排除するため小頭数で放牧し、翌週からの騎乗馴致に備えます。

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 走路内の放牧地に放牧され、大人しく調教馬を見つめる牝馬の群れ。はじめは調教馬に興味を示すものの、過度に入れ込み激走するような牝馬はあまりいません。走路で騎乗するBTC利用者にも理解があり、淡々と調教が進められます。

さて今回は、サマーセールに向けてJRAが事前に行った検査と、「コンサイナー」と呼ばれるセリ上場業務を請け負う育成者について、感じたことを書いてみたいと思います。

サマーセールは、上場頭数が1,000頭を超える日本最大規模の1歳馬セールです。1日に上場される頭数も250頭を超え、すべての馬を購買候補にしているJRAにとって、セリ当日のみでは十分な検査が行えません。そこで数年前から、日高育成牧場の育成スタッフが中心となり、セール1週間前から近隣の牧場を回り上場予定馬の検査を行っています。検査で訪れた牧場は、効率的に多頭数の検査を行うことを目的として、門別町から様似町までの54のコンサイナーとしました。ちょうどお盆の真最中だったのですが、我々の検査にご理解・ご協力をいただいた皆様のお蔭で、上場予定頭数1,273(上場頭数1,124)のうち624頭の事前検査が行えました。

ほぼすべての育成者が事前に測尺(馬の身長や体重を測定すること)を実施しており、きれいに磨き上げられた馬をじっくり検査させていただきました。多くの馬がいる中からわざわざセリ名簿の番号順に馬を出し、太陽光線の角度を考えて、馬の立ち姿を判断しやすいよう平坦に整地された検査場所を選んでくれる、といった「見る人が見やすいと感じる方法」を実践するコンサイナーの展示技術はかなり向上していると感じました。中には過去に患った病気の履歴や下肢部のX線写真を提示してくれる育成者もあり、馬格の大小や病歴の有無以上に、誠実さに立脚して正確な情報を提供することで得られる信頼は大きいものだと感じました。

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 整った環境の下、上場予定馬を展示する育成者(左)と検査を行うJRAスタッフ。

 展示するにあたり、以前はハミをかませずに展示される馬が多く見られましたが、今回の検査では殆どの馬がチフニーと呼ばれるハート型のハミと革製の引き手を使っていました。常歩で歩様検査をする際のUターンは、自然で見やすいと言われている右回りのUターンが定着しています。引き馬では展示者の右側を馬が歩くため、左回りをすると馬が外に振られて後肢が外に流れてしまいます。そのため歩様検査でUターンをする際には右回りをするのが一般的です。また、現在でもトレセンや競馬場で多くの競走馬に対して行われている引き手を2本使う引き馬が、馬産地では遠い昔のことのように感じられます。

 コンサイナーが管理する頭数は、過去の売却実績などにより預託申し込み頭数が変わるなか、核となる管理者が自身の判断で頭数を決定しています。前年の実績が良くて多くの依頼を受けたからといって急激に頭数を増やしすぎると、すべての馬に手が行き届かなくなることもあります。今回検査した中には頑なに自分の限度頭数にこだわり、高いレベルの管理を維持している方もおられました。管理頭数と管理人数とのバランスが大切だと思います。

 競合しあうコンサイナーの中で、売却成績を上げるための様々な努力がみられます。例えば育成業者同士でグループを作り、インターネットでの情報配信や上場予定馬の写真カタログを作成し活発な販売促進を行うことなども、セール結果に影響しているようです。

 今回、サマーセールの事前検査で多くのコンサイナーを見て回り、ポリシーをもった育成を行っている育成者が多くなってきたと感じました。特に、見る人が見やすいと感じられる展示方法や、馬をよく見せるための育成技術は数年前に比べて格段に進歩していると思います。

 全体にレベルアップしているこの業界が、今後どのように日本の競馬産業に定着していくのか楽しみであり、私としても変化を見守っていきたいと思っています。

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サマーセール当日の速歩展示。セリ運営の迅速化に伴いマイナーな展示手法になってきましたが、購買者にとっては健康な馬を選ぶ上での重要な情報源です。 

輸送による馬体重の変動(宮崎)

宮崎は暑い日が続き、育成馬を担当する私たちは毎日いい汗をかいています。でも夏バテで食欲が低下し、体重が落ちる人もいますし、水分の補給を怠ると熱中症などにつながりやすい時期でもあります。今回は「馬体重の変動」が話題です。

JRAではこの夏の小倉記念・札幌記念などの出走予定馬について、「調教後の馬体重」として、レースの34日前(水曜か木曜)の体重を発表しています。ただし、競走馬の体重は変動も大きく、健康な時でも一日に10kg以上も変わることがあると説明されています。一般に競走馬では、12分間強い運動を行った場合で約1ℓ(1kg)、1時間の運動で約11ℓ(11kg)の発汗があるといわれており、1回の排糞や排尿で2kg以上減ったりもします。

それでは1歳の育成馬ではどうでしょうか。育成馬の3日間での体重変動について、やや極端な例を示します。

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上の図は17月に入厩した育成馬4頭(牡馬)について、入厩時(入厩日の放牧後)と3日後の馬体重を計測したものです。最大では実に33kg!4頭の平均でも30kgの変動を示しています。これを65kgの大人に置き換えると実に60kgにまで減じたことになります。その要因としては入厩時27時間の長時間輸送による消耗が挙げられます。輸送時は馬運車内の環境に配慮して塵埃の発生につながる乾草の給餌を行いません。また、疝痛予防の観点からも、餌の量は意識的に減らしています。実際には馬自身の食欲も減退する場合がほとんどです。つまり、排糞・排尿、発汗に対し、採食量が大幅に減じることとなります。なお、給水は十分に行う必要があります。もうひとつの要因としては最初の集団放牧による消耗(4頭の順位付けが定まるまで、暑さの中、飲水もせずに発汗するほど走り回るため)です。

これほどの変動はあまり好ましいことではありませんが、この4頭は入厩後体温の上昇や食欲の減退もなく、体重も安定し、順調に放牧を継続しています。つまり一見健康で順調に入厩した場合でも、入厩時の体重は通常体重よりも大幅に減じており、3日間で30kg増加して、ほぼ正常まで回復したものと考えられます。育成馬入厩に際しては、輸送中の健康管理(体温計測、温度管理、換気、飲水、飼葉、補液)や入厩当初の放牧地における飲水確認(必要に応じて飲水場まで引いて行く)に特に気を配っています。暑熱期における水分の補給は人馬を問わず大切なことです。

     セレクト・セレクションセール購買の牝馬2頭も入厩しました。

7月のセレクトセール・セレクションにおけるJRA購買のうち、2頭の牝馬が87日に入厩しました。血統、馬体ともたいへん期待のもてる楽しみな2頭で、すでに九州市場で購買し入厩済みのゲイリーアミューズの07(父は新種牡馬ボーンキング)とともに、夜間放牧(16時~8時まで)を開始しています。3頭の新たな群れはとても仲良く、順調なスタートをきっています。

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北海道内(静内・早来)から宮崎への輸送は日本の本土を縦断する旅で、まる2日間に近い長距離輸送です。写真は函館から青森に向けての高速フェリー(本年5月に就航した東日本フェリーの通称「ナッチャンワールド」)への馬運車乗り込み風景です。従来船なら4時間近くを要する青森までを2時間で結びます。馬運車の運転席左横モニターには車内の馬の様子がきれいに映し出され、常に監視が可能です。

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仲良く牝馬3頭で放牧中です。中央に九州産馬ゲイリーアミューズの07(父:ボーンキング)をはさみ、左のタイキフレグランスの07(父:サクラバクシンオー)は、重賞勝馬アポロティアラの半妹で、体高158.5cmとひときわ大きな馬格です。右のスーパードレスの07(父:キングカメハメハ)は2歳の短距離でレコード勝ちしている母に、先日の函館2歳ステークスを勝った種牡馬という期待の配合です。