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育成馬ブログ 宮崎③

○育成馬見学会の開催(宮崎)

10月に入り、宮崎では2週連続して週末に台風が襲来しました。特に台風19号は県内各所で厳戒態勢がとられましたが、幸い大きな被害には至らなかったようです。この台風の影響により、育成馬の調教や放牧管理が予定どおりに進まないこともありましたが、「急がば回れ」の格言のとおり、当初の計画に追い付こうとせずに、馬のメンタル面を第一に考えて、調教および管理を実施しています。

 

育成馬の近況

2群に分けて騎乗馴致を進めている育成馬の近況をお伝えいたします。9月中旬から騎乗馴致を開始している1群(牡馬10頭)は、ドライビングおよび騎乗による速歩調教を重点的に実施し、現在は1600m馬場でのハッキング程度のキャンター調教を実施するまでに進んでいます。

一方、10月上旬から騎乗馴致を開始している2群(牝馬12頭)は、ドライビングを中心に実施しながら、徐々に丸馬場での騎乗も行っています。11月初旬には500m内馬場において集団での速歩調教を開始する予定です。

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写真① 500内馬場で隊列を整えた速歩を実施する1群の牡の育成馬。

 

ドライビング

JRA育成馬に対する騎乗馴致は、「育成牧場管理指針」に基づいて実施しています。騎乗馴致の中でも、重点的に取り組んでいるのはドライビングです。ドライビングというのは、騎乗せずに2本のロングレーンを使用して、馬車の御者のように馬を後ろから制御することです。騎乗馴致時に行うドライビングには主に以下の効用があると考えられています。

①   騎乗することなく基本的なハミ受け、例えば開き手綱による「内方姿勢」のバランスを馬に習得させることができる。

②   後方からの御者の指示と内方のリードレーンの操作を馬に対して受け入れさせ、騎乗せずに騎乗者の重心と一致しやすい重心移動を習得させることができる。

③   脇腹に調馬索が触れることに慣れさせることにより、騎乗者の脚による後方からの指示に慣れさせることができる。

④   馬は後方からの扶助に従って自ら前に進まなければならないため、常に馬の気持ちを前向きにすることができる。

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写真② 馬車の御者のように騎乗せずに馬を後方から制御するドライビングの様子。

 

最終目標は騎乗することであるため、ドライビングを省略し、可能な限り早く騎乗した方が効率が良いという考え方もあるかもしれません。しかし、騎乗馴致とは積木を下から一段ずつ積み重ねていく作業と同様に、一つ一つ繰り返して確実に馬に理解させる「忍耐」の作業です。このように、騎乗馴致では、騎乗できるようになることを最終目的としてはならず、騎乗者を乗せた時に馬がバランスを取りやすい体勢を習得させること、つまり、騎乗者を乗せた状態で最大限の能力を発揮させることを最終目的とします。また、人馬ともに安全に騎乗へと移行させるためにも、ドライビングは非常に重要なプロセスと考えられます。

 

動画 騎乗者を乗せた時に馬がバランスを取りやすい体勢を習得させるために、立ち木を利用したスラロームや放牧地での速歩での手前変換をドライビングで繰り返し実施しています。

⇒ http://youtu.be/LRrayz-c8ho

 

育成馬見学会

さて、前回の育成馬日誌でも案内させていただきました「育成馬見学会」を10月18日(土)に開催しました。このイベントは、毎年、10月中旬のこの時期とスピード調教を始める3月中旬の年2回実施しており、地元宮崎にお住まいのお客様に宮崎の地で成長していく育成馬の姿を間近で見て、少しでも身近に感じていただくこと、さらに3月の見学会では「サポーターズクラブ」と題して、お気に入りの馬を牡牝それぞれ1頭ずつ選んでいただき、その馬が競走馬として活躍した際にはゴール前写真などをプレゼントさせていただくことによって、JRA育成馬を応援してより競馬に親しんでいただくことを趣旨に実施しています。

また、本年は実馬展示に先立ち「馬の見方」をテーマに簡単な講義を行ったところ、お客様からは「初めて知る話で面白かった」「馬への親しみや興味がさらに深まった」など大変好評でした。

この育成馬見学会は、私たちにとっても大勢のお客様に育成馬を慣らすための良い機会となるため、大人しく展示ができるように意識して当日に備えました。その成果が実ったのか、天候が良く、無風状態に助けられたのか、当日の育成馬達は80名を超えるお客様を前にしても、大人しく駐立している馬がほとんどでした。調教が進むにつれ少し神経質になる馬も出てくるかもしれませんが、この調子で3月の見学会まで「忍耐」を持って、馬の調教および管理に取り組んでいきたいと思います。

育成馬見学会に参加していただきました方々には、この紙面をお借りして、改めてお礼申し上げます。

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写真③ 育成馬見学会は晴天にも恵まれ、80名を超えるお客様にお集まりいただきました。

活躍馬情報(事務局)

先週土曜日の東京1R(2歳未勝利)において、JRA育成馬コーリンバロック号が優勝しました。同馬は日高育成牧場で育成され、2014年JRAブリーズアップセールで取引されました。

 

 今後のますますの活躍を期待しております。

 

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10月25日 4回東京競馬6日目 第1R  2歳未勝利 ダート 1,400m 

コーリンバロック号(ナイキトライアンフの12) セン

【 厩舎:小野 次郎 厩舎(美浦) 父:ロージズインメイ サマーセール購買馬 】

講演会のお知らせ

 JRAでは、強い馬づくりに資することを目的として、軽種馬の育成調教、飼養管理に関する知識や技術についての普及・啓発を図るため、栗東および美浦トレーニング・センター近隣の民間育成牧場で競走馬の育成調教、飼養管理に携わっている方々を主対象とした巡回馬学講座(育成技術講習会)を、(公社)競走馬育成協会及び(公財)軽種馬育成調教センターとの共催により毎年実施しています。

 

1.開催日時・場所  

  1)平成26年10月29日(水) 17:00~19:00    

  栗東トレーニング・センター 厚生会館別館2階大会議室  

  2)平成26年11月5日(水) 17:00~19:00    

  美浦トレーニング・センター 厚生会館分館2階大会議室

 

2.演題および講師   

    演題 : 『競走馬の走りと重心』      

    講師 : 青木 修 氏(日本装削蹄協会)

 

3.主催     (公社)競走馬育成協会、(公財)軽種馬育成調教センター、日本中央競馬会

活躍馬情報(事務局)

 10月11日(土)の東京1R(2歳未勝利)において、JRA育成馬タイセイレグルス号が優勝しました。同馬は日高育成牧場で調教されたJRA育成馬で、2014年JRAブリーズアップセールで取引されました。

 今後のますますの活躍を期待しております。

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10月11日 4回東京競馬3日目 第1R  2歳未勝利 ダ 1,300m

タイセイレグルス号(シャンパンセラーの12) 牡

【 厩舎:池上 昌弘 厩舎(美浦) 父:アルデバラン サマーセール購買馬 】

育成馬ブログ 日高②

○  騎乗馴致、はじめました

 オータムセールが終了した北海道では、季節は秋から冬へと移り変わります。紅葉していた木々は葉を落とし、朝夕の気温が10℃を越えることも殆どなくなりました。まもなく訪れる冬に向けてあわただしく準備が進む日高育成牧場から、育成馬の近況を報告します。

 

オータムセール購買馬の入厩

 HBA北海道市場で開催されたオータムセールにおいて、JRAは2頭の牝馬を購買しました。10月10日にこの2頭が日高育成牧場へ入厩し、当場には今季育成する59頭(市場購買馬52頭、JRAホームブレッド7頭)が揃いました。オータムセールで購買した2頭は、今月20日まで環境に慣らしたのちに騎乗馴致を開始していく予定です。

 

育成馬の近況

 今季の騎乗馴致も、例年通り全59頭を3つの群に分けて実施しています。9月8日から開始した第1群(牡23頭)の騎乗馴致は全馬無事に完了し、現在は800m屋内トラックにおいて速歩1周・駆歩2周程度の調教を行っています。9月29日に開始した第2群(牝22頭)は装鞍してのランジング・ドライビングをじっくり行いつつ、馬房や外での騎乗に徐々に慣らしている段階です。オータムセール購買馬を含む3群は現在、騎乗馴致をスムーズに行えるようにプレ馴致(引き馬や手入れの練習、タオルや「ストラップ」と呼ばれる馴致道具を使って慣れさせる作業など)を行いながら人との信頼関係づくりに励んでいます。

 長いこと馴致を続けていると、扱いやすい馬が年々増えていることに気付きます(10年前には馴致がこれほど順調に進められるようになるとは思いもしませんでした!)。これは、生産牧場で産まれてすぐからしっかり手をかけていることや、育成牧場やコンサイナーにおける馬の取扱い技術が向上したためだと思います。日本の生産育成技術は非常に高く、年々向上していることを肌で感じます。

20141010 JRA日高育成牧場 調教風景(縦列調教)
YouTube: 20141010 JRA日高育成牧場 調教風景(縦列調教)

動画1.誘導馬を先頭に速歩・駆歩調教を行う第1群(牡馬)の調教状況。この日は前を走る馬にぴったりついて行き、後ろでしっかり我慢させる縦列調教を行いました。全馬落ち着いて調教できています。

BTC研修生の馴致実習

 日高育成牧場ではBTC(軽種馬育成調教センター)研修生の馴致実習を受け入れており、現在32期研修生19名が実践研修に励んでいます。彼らは3週間という短期間でランジングの方法やローラーの装着、ドライビング、そして騎乗に至るまで一連の馴致過程を学びます。はじめて扱う育成馬に動揺しながらも日々着実に成長していく今後の競馬界を担う若者たち。競走馬になるJRA育成馬で得た経験は、優秀なホースマンになる上での大きな財産になることと思います。

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写真1.育成馬を用いた騎乗馴致の実践研修。研修生たちは育成馬の取扱いや馴致方法を学びながら日々成長していきます。写真はドライビングを行う研修生とバクシンスクリーン13(牡、父:ヨハネスブルグ、JRAホームブレッド)

「セリと育成馬を知ろう会inひだか」 の開催

 今年もHBA北海道市場が主催するイベント「セリと育成馬を知ろう会inひだか」が開催されました。イベント2日目となる10月9日には5名の馬主関係者の皆様に当場までお越しいただき、調教施設見学やJRA育成馬の馴致見学、育成馬を用いた「馬の見方」解説や注目育成馬紹介などを行いました。お越しいただきました皆様には、好天のもと育成馬の姿や騎乗馴致が行われる様子をご覧いただき、ご満足いただけたのではないかと考えております。遠路はるばるお越しいただきました皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。日高育成牧場では、みなさまのご来場をいつでもお待ちしています。成長したJRA育成馬の姿をご覧いただければ幸いです。

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写真2.イベントの最後にはホームブレッド7頭を含む当場の注目馬12頭を、比較展示の形でご覧いただきました。

 以上が日高育成牧場におけるJRA育成馬の近況です。10月中の毎週水曜日、日高育成牧場バスツアーでは「育成馬の馴致見学」を行っています。一般のお客様も騎乗馴致をご覧いただけますので、馴致も進み活気づいてきた当場にぜひ足をおはこびください!

 

 

育成馬ブログ 生産編③

離乳

 

日高育成牧場では、本年産まれたホームブレッド8頭の離乳を8~9月にかけて段階的に行いました。

 

概ね3月下旬から5月上旬に生まれた馬たちですので、遅い馬で5ヶ月齢、早い馬では4ヶ月齢での離乳になります。

 

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離乳:1回に2~3頭の母馬を間引きます。

 

離乳は、1~2週間隔で、2~3頭ずつ母馬を間引く方法で行い、昨年同様に「母馬役」として、空胎馬1頭を事前に導入しました。

 

この空胎馬は、比較的面倒見が良い牝馬で、離乳直後の子馬に対して哺乳を許容していました。もちろん、母乳は出ませんが、このような牝馬は性格的に乳母としても活用できるのではないかと考えています。 

離乳後の子馬の哺乳を許容する空胎馬
YouTube: 離乳後の子馬の哺乳を許容する空胎馬

 

全般的にスムーズに離乳をすることができましたが、GPSを用いて移動距離を計測してみると、興味深い結果を得ることができました。

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離乳前後の母子の移動距離(22時間 朝10:30~翌朝8:30)

 

母子2組について、離乳1ヶ月前と離乳直後の移動距離(22時間)を比較してみると、離乳前の子馬の移動距離はいずれも約10kmで、母馬の6~8kmと比較してやや長く、子馬同士で仲良く動き回っている様子を想像することができます。

 

それでは、離乳直後の移動距離は、どのように変化したのでしょうか?

 

離乳直後、子馬の移動距離は17~18kmに増えており、母馬を探し回っている様子を伺い知ることができます。

 

しかし、注目すべきは母馬の移動距離です。むしろ母馬の方が、子馬と引き離されたことに加え、異なる放牧地に移動したことも影響を及ぼしているのか、増加率は著しく、それぞれ75kmと100kmと、離乳前の10倍以上の距離を移動したことが確認されました。

 

離乳直前の雰囲気を見ていると、母子間の距離は離れており、それほど強い母性を感じさせるような行動も認められませんでしたが、やはり子馬と離れた場合には、強い母性本能を感じることができます。

 

子馬も母馬がいなくなり、移動距離は増えましたが、放牧地は変わらず、同じ群の他の母子が落ち着いているため、引き離された母馬ほどのストレスを感じなかったように見えました。

 

この結果からも、離乳に際しては、子馬の環境はなるべく変えない手法を用いることが、成長期の子馬のストレスを可能な限り抑制するポイントになるかと思います。

 

なお、母馬たちも、2、3日もすると落ち着きを取り戻し、新たな放牧地でゆっくり過ごしていますので、ご心配なく。Photo_3

育児を終えて、放牧地でリラックスする母馬 

 

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