2024年4月23日 (火)

サラブレッドと高強度インターバルトレーニング

運動科学研究室の向井です。

 我々の研究室では、2020年から高強度インターバルトレーニングに関する研究をしています。インターバルトレーニングとは速く走ることとゆっくり走る(歩く)ことを繰り返すトレーニング手法です。ヒトの研究では、持久力(スタミナ)を向上させたい場合、通常は中強度で持続的に走ることが多いのですが、インターバルトレーニングも、骨格筋や心臓血管系に同じようなトレーニング効果、もしくはより大きな効果があると報告されています。

 競走馬においても、以前からインターバルトレーニングには興味が持たれており、ミホノブルボンやキタサンブラックは坂路を3本上がるインターバルトレーニングを実施していたと言われています。短距離血統と言われていたミホノブルボンが持続的に長い距離を乗るのではなく、坂路調教を繰り返すことによってスタミナを強化したメカニズムは興味深いところです。また、筋肉のタイプにはゆっくり収縮する遅筋と速く収縮する速筋があるのですが、サラブレッドの骨格筋、特にお尻の筋肉には速筋がとても多く、その筋肉に刺激を入れるには高強度のトレーニングが必須であることがわかっています。このようなことから、サラブレッドにも高強度インターバルトレーニングが効くのではないかと考え、実験を行いました。方法は、同じ走行距離に設定した中強度持続運動(70%VO2max強度で6分)、高強度インターバル運動(100%VO2max強度で30秒+速歩30秒を6セット)、スプリントインターバル運動(120%VO2max強度で15秒+速歩70秒を6セット)を実施し、採血や中殿筋のサンプリングを行い、さまざまな解析するというものでした。

その結果、高強度インターバル運動とスプリントインターバル運動の心拍数と血漿乳酸濃度は、中強度持続運動に比べてより高く推移し(図1)、いっぽう動脈血の酸素飽和度やpHは低く推移しました(データ未掲載)。

Ab_2

図1 運動中の心拍数(A)と血漿乳酸濃度(B)の推移: 中強度持続運動(MICT, 青)、高強度インターバル運動(HIIT, 緑)、スプリントインターバル運動(SIT, 赤)

 さらに中殿筋というお尻の筋肉を調べた結果、エネルギーを作り出す小器官であるミトコンドリアを増やすシグナルであるPGC-1αという遺伝子が、高強度インターバル運動とスプリントインターバル運動を実施した4時間後に増えていました(図2)。また、酸素を筋肉のすみずみまで送り届ける毛細血管は筋肉での代謝効率を上げるために重要ですが、その毛細血管を増やすシグナルであるVEGFという遺伝子もスプリントインターバル運動を実施した4時間後に増加していることが分かりました(図2)。

4pgc1vegf

図2 運動4時間後のPGC-1α遺伝子とVEGF遺伝子の変化: 中強度持続運動(MICT, 青)、高強度インターバル運動(HIIT, 緑)、スプリントインターバル運動(SIT, 赤)

 これらの結果から、同じ走行距離にも関わらず、高強度インターバル運動やスプリントインターバル運動は、乳酸がより多く出、より低酸素血症になることが分かりました。さらに、高強度インターバル運動やスプリントインターバル運動は、骨格筋のミトコンドリアや毛細血管を増やすことが分かりました。我々はこのようなインターバル運動を長期的に繰り返すこと(長期的トレーニング)によって、サラブレッドの運動能力をより強化することができると考えています。

 詳細については2023年11月にFrontiers in Veterinary Scienceで公表されたこちらの論文をご覧ください(外部リンク)。

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1241266/full

2024年4月16日 (火)

Animal welfare

臨床医学研究室の太田です。 

 以前の総研は宇都宮市(運動科学研究室・臨床医学研究室)と下野市(微生物研究室・分子生物研究室)の2ヶ所に分かれて研究活動を行っていました。ですが,研究活動の効率化を図るため,2016年に現在の下野市に4研究室が集約されました。

7d5e7970d5024475903c7916804a8dd3_2 宇都宮時代の総研

 本日,その宇都宮の総研跡地に,新たに「一般財団法人 Thoroughbred Aftercare and Welfare」が設立されることがJRAから発表されました。新団体の設立目的は,引退競走馬に関する取り組み(Aftercare)を着実に推し進めるとともに,併せて,馬のウェルフェア(Welfare)に関する理解促進などに取り組むことです。 

 後半部分の“Animal welfare“,しばしば日本語では「動物の福祉」と訳されています。みなさん,なんとなく聞いたことはあるけど,その定義を正しく理解できている方は少ないのではないでしょうか? “Animal welfare“とは,「動物を快適な環境下で飼育することにより,動物のストレスや疾病を減らすこと」を目標に,世界動物保健機関(WOAH)により,以下の『5つの自由』が提唱されています。

  • 空腹と渇きからの自由
  • 不快からの自由
  • 痛み・損傷・疾病からの自由
  • 恐怖と苦悩からの自由
  • 正常行動発現の自由

 これまで長年にわたり総研が取り組んできた研究テーマ(暑熱対策・医療技術の向上・事故防止対策・ワクチン開発など)は,まさに「競走馬の福祉の向上」に直結する内容です。今後もこれらの研究を継続するとともに,新団体TAWとも連携して「馬のウェルフェア」に対して正しい理解を広めていくことが総研の使命だと考えています。

7b5e9acfbb854a15b0fb96132ecb4339_1凍えながらお酒を飲んだ宇都宮での最後のお花見

2024年3月27日 (水)

菌の名前のはなし

微生物研究室の丹羽です。


 今回は、身近にいるのに目に見えない細菌について小話をします。
細菌には、動物に対して害を及ぼす病原菌だけでなく、乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌のように生体に有益だったり人の生活に役立ったりする細菌もいます。また、人間が立ち入ることができない海底火山の噴出孔では、超高温という極限の環境でも生息できる特殊な細菌もいます。実に様々な種類の菌がそれぞれの能力を生かして生存していますが、人類には知られていない未知の細菌も数多く存在しています。
  知られている細菌には、2つのラテン語による単語の組み合わせで学名が付けられています。言ってみれば、人の苗字と名前のようなものです。すなわち、前半が分類上の「属」を、後半が「種」を表します。現在「種」として知られている細菌種だけでも15,000種以上に達します。そして、これらの名前には由来があります。

 例えば炭疽菌;Bacillus anthracisのBacillusはラテン語で“小さな杖”という意味でその形状から、またanthracisは炭疽と言う病名であるanthraxからそれぞれ付けられた名前です。稀に、細菌学に貢献した人物にちなんで名付けられていることもあります。例えば、大腸菌;Escherichia coliのEscherichiaは、大腸菌を初めて分離したTheodor Escherich氏にちなんで名付けられました。赤痢菌のShigellaは、赤痢菌を発見した志賀博士の名字を由来としています。お恥ずかしながら筆者の名前もNocardia niwaeなる細菌に反映されています。

(外部リンク: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20348315/

 これは、私のアメリカの友人が記念に私の名前をつけてくれたものでした。また、動物の名前に由来する学名もあります。馬に病気を起こす細菌の一部には、ラテン語で馬を意味する“equi”が入っているものがあります。子馬の肺炎の原因となるRhodococcus equiや、腺疫の原因菌であるStreptococcus equi、馬に不妊を引き起こすTaylorella equigenitalisなどがそれにあたります(図1)。菌の名前は、原則その菌を発見した研究者が自由につけることができます。
  馬には上記のequiが付く細菌以外によっても様々な病気がみられます。当研究室では日常的に細菌検査を行う中で、ごくまれに知られているものとは異なる特徴を持つ細菌に遭遇します。岐阜大学の林博士の研究の結果、それらの中から新菌種となる可能性がある細菌が報告されました(第53回嫌気性菌感染症研究会)。最終的に新たな菌種として登録されるためには国際原核生物分類命名委員会で承認されることが必要ですが、いったいどんな名前になるのか、今から大変楽しみです。

120243図1. 馬を由来とする名前がつけられている細菌たち。                                      同じ由来の名前であっても、その性質には大きな違いがあります。

2024年3月14日 (木)

バイオフィルムは手強い

臨床医学研究室の三田です。

今回の記事では私が研究している「バイオフィルムの抗菌薬抵抗性」について紹介します。

バイオフィルムってご存知ですか?

バイオフィルムは微生物が固形物や生物に付着した集合体で、「台所のヌメリ」や「口の中のヌメヌメ」など身近ないろんな場所に存在しています。

バイオフィルムは多糖類や細菌DNAなど様々な物質が細菌表面を覆ったもので、細菌が外部環境から保護される構造になっています。

医療現場でも骨折治療に使用するインプラントや血管内に留置したカテーテルの感染に関与しており、近年非常に注目度が高いです。

バイオフィルムを形成した細菌は外部環境から自らを守る盾を獲得した状態のため、治療で使う抗菌薬にも抵抗性になることが知られています。つまり、バイオフィルムを形成した感染部位では通常の抗菌薬の投与では治癒しないことがあるのです。

抗菌薬への抵抗性を調べることは治療方針検討の手助けとなるため、今回はその測定方法についてご紹介します。

~①器材紹介~

下の写真のようなプラスチックプレートを使います。下皿と剣山がついた蓋で構成されています。

1_3

~手順①~

下の図はプレートの断面の模式図ですが、下皿に培地と細菌を加えてそこに剣山を浸します。

一晩くらい培養すると剣山に細菌が付着して、表面に紫色で示したバイオフィルムがつくられます。

2_2

~手順②~

バイオフィルムがついた剣山を抗菌薬が入った新たな培地に加えて再度培養します。

抗菌薬は濃いものから薄いものまで何種類か用意しておきます。

高い抗菌薬濃度では殺菌されてしまい培地は透明になりますが、

低いものだと細菌が生き残って培地が濁ります。

Photo


~結果~

下の写真が実際に実験した結果の例です。

各行(横方向)には1種類の細菌が入っており、抗菌薬濃度が左から右にかけて薄くなっています。一番右の列(縦方向)は抗菌薬が入っていないので細菌が生きることができます。

一番上の「細菌A」ではある程度低い濃度(9列目)でも培地が透明で細菌が繁殖していないことがわかります(赤線は殺菌されている列と増殖している列の境界です)。

その一方で、下の行の「細菌E」では左端の一番高い抗菌薬濃度でも殺菌できておらず、抵抗性がかなり高い細菌であることがわかります。

4

このように、バイオフィルムの抗菌薬感受性は細菌ごとに異なっています。

原因菌の特徴をつかむことで適切な感染コントロールに貢献できるように、これからも研究していきたいと思います。

2024年3月 4日 (月)

私を助けてくれる機器

 初めまして、分子生物研究室の川西です。
総研に着任してからもうすぐ一年を迎えます。

 総研では、種々の機器が整い、そして清潔な実験環境が維持されています。総研に着任したての頃、スムースに仕事のできる素晴らしい環境に感動と驚きをもって職務につけたことを覚えています。大学院生時代は、手作業が多く時間のかかる環境で実験していましたから。そんな今の私をささえる職場の設備や消耗品について一部紹介したいと思います。

Photo写真1:自動核酸抽出機

 名前の通りの機械で、自動で核酸(DNAやRNA)を抽出するものです。ウイルス遺伝子の量や配列を調べるために、ウイルス感染細胞、鼻汁や血液などのサンプルから核酸を抽出する必要があり、このような機器を用います。本機器は、人手の操作が省略されるので、操作する人やその他雑多な異なる核酸の混入リスクを減らすことができます。

Photo_2写真2:自動分注機          

Photo_3写真3:自動洗浄装置

 感染馬の血清から感染の度合いや免疫の状況を知るためにELISA;エライザ(酵素結合免疫吸着検定法)という診断技術を使うことがあります。このエライザを行う際に、上記の機器が必要となります。プレート(写真4)への薬品の自動注入やプレートを自動で洗浄する装置です。学生時代は、手動の分注装置(通称マイクロピペット;写真4)で注入していました。マイクロピペットですと操作は短時間で頻回となり、とくに親指での細かな操作は手の腱を痛めやすく、多検体を処理すると腱鞘炎になることも。機械を用いることで、実験者の人為的ミスや誤差を減らすだけでなく、肉体的損耗を減らすこともできます。

Photo_4写真4:マイクロピペットでプレートに薬品を注入する作業

 大いに助けてくれるこれらの機械に囲まれて作業を繰り返していますが、年数が経つにつれこの環境が当たり前になってしまうかもしれません。ですが、漫然と作業するのではなく、手探りで苦労していた時代に培った探求心を忘れないようこれからも仕事に励み、競走馬を病気にしてしまうウイルスとの闘いに挑みたいと思います。

2024年2月28日 (水)

野外でのデータ測定

運動科学研究室の胡田です。

 当研究室では、トレッドミルというルームランナー上で、人が乗らずに馬を走らせてトレーニング適応やバイオメカニクスなどに関するデータを取得しています。いっぽう、これとは異なり、実際に人が乗って走る野外でのデータも重要です。より競馬に近い馬の運動データが得られると考えられるからです。しかし、これがなかなか難しく、施設や人の確保、安定的な走法の維持、データを取得する装置の馬体への装着など種々の問題をクリアーしなくてはいけません。

 我々は、そういった難題を克服する目的で、今回、調教施設として充実しているJRA宮崎育成牧場に協力してもらい、野外での騎乗時の馬の駈歩中の筋活動データおよび動画をとってきました。

 ここでJRA宮崎育成牧場について少し説明します。本育成牧場はかつて宮崎競馬場として実際に競馬が行われていた施設です。現在は育成場に転用し、温暖な気候を活かして1歳から2歳にかけて競走馬の育成を行っています。育成調教に用いるコースは、500メートルおよび1600メートルのダートコースです。これらの調教用コースを使わせていただきました。

 馬の足元が見えるように撮影しなくてはいけないことから、まずコース縁に積まれている雨水対策用の土嚢を人力で移動させるところからがスタートです。さらに、広い走路のあちこちに装置を取り付けなくてはならない上に、走り抜ける姿を実際に画像として捉えられるかの確認のため、34歳と決して若くない筆者は走路を馬並みに走り通して準備するという重労働に堪えました(図1)。そんな苦労を経て、最適化した当該コースでいよいよデータ採取という当日、なんと雨模様! “日頃の行いが悪いのかも”とちょっとブルーになりかけましたが、それでも無事にデータを採ることができました(図2)。データの解析には時間がかかりますので、その話はまたいつか。

Fig2

図1 測定準備のために20メートルをダッシュする筆者(34歳)

Fig1_2図2 測定風景

 このように、競走馬が安全に、そしてもっている能力を余すところなく発揮できるように運動を解析して、調教技術の改善に役立てようと日夜努力している研究者がいることを覚えていてくださると嬉しいです。

2024年1月18日 (木)

競走馬総合研究所のマクロ(肉眼)標本

こんにちは。微生物研究室の岸です。

 少し前になりますが、国立科学博物館がクラウドファンディングによる寄付を募ったところ、予想を上回る資金が集まり注目を集めていましたね。博物館には剥製、骨格、発掘された埋蔵物などの標本を保管する役割があるのですが、こういった標本を守りたいという国民の思いが表れたのではないでしょうか。かく言う私も標本好きの一人で、今回は、競走馬総合研究所(総研)で保有しているマクロ標本について触れてみたいと思います。

 総研は、馬の全身骨格、馬体を構成する骨の標本、全身模型などの比較的大型の標本を保有し、獣医師や学生の教育、本会職員の研修用として使っています。研究施設という性格上一般の方々には常態的に開放できないので、この場を借りてこれらの一部を紹介してみましょう。

 写真1は、馬の全身骨格標本、写真2は前肢を正面から写したものです。馬を正しく診療するためには、まず骨格を把握しておかないと、跛行検査も、触診検査も、レントゲン撮影もおぼつかなくなります。よって、本会に入会したての獣医師には、基本構造として馬の全身骨格を頭に入れてもらっています。

Photo写真1. 全身骨格標本

矢印は人の手首に相当する腕節(わんせつ)と呼ばれる部分です。

写真右下の丸囲みは中指一本での駐立を示しています。

Photo_3

写真2.前肢正面からの写真

正面から見ると、人の手首に相当する部分から下が非常に長いことや、

中指のみで立っていることがよく分かります。

 続いて写真3は、軽種馬(クオーター)の全身模型(レプリカ)です。この模型では頸静脈を模倣した赤い液体を蓄えられるチューブが頚部に走行しており、注射の練習ができます。また、腹部には各種臓器の模型が入っていて直腸検査の練習もできます。

Photo_4

写真3. クオーター種の模型(レプリカ)

 最後に写真4は、オス馬の頭部の骨標本(半分に割ってある)です。頭の輪郭を連想しにくいと思い、馬の頭部のどのあたりかの相関図を一緒に示します。この骨標本では下顎骨を取り除いており、頭骨から上顎骨までをお見せしています。画面左の大きな窪みが大脳や小脳を容れる頭蓋腔(ずがいくう)、真ん中から右の方に鼻腔があり、その下方に上顎があります。上顎には臼歯(きゅうし)、犬歯(けんし)、切歯(せっし)が生えていますが、メスには基本的に犬歯がありません。最前位の臼歯と最後の切歯の間にはほとんど歯が無いことになりますが、この部分は槽間縁(そうかんえん)と呼ばれ、馬がハミを受けるところです。舌を出しながら走っている馬を見たことがありませんか。そんな馬たちは、この槽間縁から舌を出しています。上顎骨や下顎骨の骨折、副鼻腔炎、歯の疾患などに現場で対応する際、このような頭部の骨標本の詳細を勉強しておくことが必要となります。

Photo_6

写真4 馬の頭部の骨標本:

上段の骨が相当する部分を下段の模式図(水色)に示します。

 以上のように総研の標本とは、ただ眺めるだけでなく、病気の馬達にどう向き合うかを探り、獣医医療に応用する目的で保管されているのです。

2024年1月12日 (金)

幹細胞を凝集体にすると浅屈腱炎への治療効果が向上する

臨床医学研究室の田村です。

陸上選手やスポーツ選手は、日々のトレーニングや競技によって、アキレス腱や膝・肘の靭帯を痛めてしまうことがあります。 競走馬も馬場を速い速度で走り抜けるため、腱炎や靱帯炎を発症してしまうことがあります。競走馬総合研究所では、そうしたケガの治療方法についても研究を進めています。中でも間葉系幹細胞を利用した再生医療には20年近く取り組んでおり、数多くの競走馬に適用してきました(写真1)。

Photo_4
写真1. 浅屈腱炎を発症した競走馬の病変部に間葉系幹細胞を投与しているところ。

 その幹細胞治療も進化しています。従来は幹細胞を培養したら、そのままの状態で投与していました(写真2)。ですが、最近では、さらに治療効果を向上させるため、もうひと手間かけています。その工夫とは、培養したのち数百個の幹細胞をおにぎりのように凝集体(写真3)にして投与するものです。

Photo_6

写真2(左図)従来の培養された間葉系幹細胞; 紡錘形から星形の単細胞が増殖しているところ

写真3(右図)新しい手法で培養された凝集体型の幹細胞;増殖した幹細胞が球状に凝集している



 JRA総研では、従来の幹細胞と、凝集体にした幹細胞の治療効果を比較する研究を実施しました。その結果、凝集体にした幹細胞のほうが、腱炎の損傷部を早く治すことがわかりました。すなわち、凝集体にすることによって、一つ一つの幹細胞が本来持っている能力をさらに引き出せると考えられました。

 既に、浅屈腱炎や繋靱帯などを発症してしまった競走馬に対して、この新しい治療法を利用しています。今後も、より良い治療法を開発することを目標として、研究を積み重ねていきたいと思います。また、こうした治療技術が人間のスポーツ選手にも応用できるようになれば、ウマとヒトの関係性を深める素晴らしい機会になると考えています。

これからも応援を頂けますよう、どうぞよろしくお願いします。

2024年1月 4日 (木)

オランダの国際学会(ICEL9)に参加-その2

運動科学研究室の杉山です。

まずは明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。 

 さて、皆さんは、お正月に色々な日本の食文化を堪能したことでしょう。それと遜色ないと思えるオランダの食文化があります。これ、昨年12月4日掲載の当ブログ

国際ウマ・イヌ運動解析学会(ICEL9)に参加しました」(https://blog.jra.jp/kenkyudayori/2023/12/icel9-cec8.html

で書ききれなかったので、もう少し説明させていただきます。

 学会が実施されたユトレヒトは観光都市としてもにぎわいを見せており、オランダ料理を提供するレストランも多く営業されていました。皆様オランダといえばチーズが有名ですが、オランダ国内ではハーリングというニシンの一種を軽く塩漬けにした半生タイプの魚料理が大変ポピュラーなのをご存知でしょうか。オランダの伝統料理といえば欠かせない食材です。現地の食べ方は、頭だけ切ったハーリングの尻尾を持って、口を上に向けて腰に手をあてて直立したままお口の中に落とし込む一気食い!この食べ方は昔ながらの習慣です。観光客に優しい店主のおじさんは、私には小さく切って出してくれました(写真1)。久しぶりに食べたハーリング・・・美味しい!パンに挟むのも人気だそうです、ごちそうさまでした。

Photo写真1.ピクルスと玉ねぎの付け合せは王道

 次にお勧めなのが、ビターバレン;Bitterballenというクリームコロッケのような揚げ物です(写真2)。クロケット;Kroketという細長いタイプもあるのですが、こちらは日本のコロッケの語源になりました。ですが、お勧めはまん丸のビターバレンです。中身は牛肉をミンチにして小麦粉と混ぜ、バターと香辛料と塩で味付けしたものですが、たいへん美味です。オランダに行きましたらぜひ食べてみてください。

Photo_3写真2. あと100個は食べられたかも

 最後に紹介するのがアムステルダムの人気店マネケンピス;Mannekenpisのフライドポテトです。コスパがよく大人気です。皆さんがいつも食べているフライドポテト(フレンチフライが本当の名前かな)と同じものですが、食べ方がちょっと違います。フライドポテトを食べる時、皆様はソースに何を選んでいますか?大多数の方はケチャップかと思います。オランダ流の食べ方はなんとマヨネーズ。太めのあつあつフライドポテトにたっぷりのマヨネーズをつけてハフハフ・・・! マヨラーでなくても、ほら、口の中が潤ってきませんか? マヨネーズも、普通のマヨからスパイシーマヨ、カレーマヨなど20種類以上と豊富。私のおすすめはザーンセ・マヨ;Zaanse Mayoというオランダの伝統的なマヨネーズ(写真3)。これは塩分が非常に少ないので、卵の風味とお酢の酸味がしっかり効いていてフライドポテトに非常によく合います。ただ、お腹が空いているうちに食べきらないと・・・。

3

写真3.  マネケンピス;Mannekenpisとは、小便小僧という意味。

ぎょっとしますが味は確かです。

 以上おすすめの食べ物3選でした。オランダに行く機会があればこの3つは食べて欲しいです。そして、かつて日本の鎖国時代、世界で唯一交易があったオランダで、遠くは日本の長崎出島に向けて出航したオランダ船乗り達の勇気と根性にも思いを馳せてみてください!

 

2023年12月25日 (月)

令和5年も終わります。

競走馬総合研究所(総研)編集部 

2023年12月25日

メリークリスマス! Photo_5

 令和5年(2023年)もあと数日ですね。この一年間、当ブログを読んでいただいた皆様には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

 昨日の有馬記念は、五十代半ばにして未だ衰えを見せない武豊騎手と昨年のダービー馬との見事なタッグでの優勝で、見応えありました。昔の五十代より今の五十代の方がずっと若く見えるのは、私だけでしょうか。

 さて、競馬と研究所、直接的な関わりはないと見られがちですが、総研執務者は、馬の繋養に携わる職員、研究者、事務職員の全てが年齢を問わずコンスタントに各地の競馬開催に出張し、競馬を支えています。そんなこともあって執務者全員が、競馬の動向に一喜一憂しながら仕事をしています。

 気候変動や世界情勢が落ち着かず、今年も激動の一年だったと言えるでしょう。せめて、馬の走る姿にロマンと希望を求めるお客様の期待に応えたいという一心から、本年も研究所は、馬の健康管理、とくに暑熱対策、伝染病予防、競馬での事故予防、故障馬の治療など多方面にわたる馬の事情に、それぞれの専門家が当たって研究を続けてきました。限られた人員と時間の中で、全てのご希望にお応えできない力不足を感じつつも、円滑な開催とお客様の期待に応えるべく、来年2024年も一生懸命研究していく所存です。

 皆様にあって、どうぞ来年が幸多い一年となりますように。また、このブログでも色々な小話を紹介していきますので、引き続きどうぞご贔屓のほどよろしくお願いいたします。

Photo来年もよろしくお願いします!