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ピッキング(宮崎)

セール前に宮崎からお届けするブログは今回が最終便となりますので、まずは育成馬展示会のお知らせからです。宮崎育成牧場で育成した24頭の展示会が326日(13時~)に行われます。展示会では全馬の比較展示および約15頭の騎乗供覧を実施予定です。多くの皆様のご来場をお待ちしております。

ブリーズアップセールに向けて馬たちも仕上げの段階になりました。現在、週2回スピード調教(ゆっくりしたキャンターを500m馬場で5F実施後、1600馬場で5Fのキャンターを2本)として、1本目をF18程度のステディキャンター、2本目は最後3FF16秒程度の速度で走行するトレニーングを行っています。体の成長を待っている数頭の馬を除いて、概ね順調に調教を実施できているのですが、中には速いスピードでの調教を開始すると、飼葉食いが落ちてくる馬もでてきています。そのような馬に対しては、1回に与える飼葉の量を少なくして回数を増やしたり、嗜好性のよさそうなものを選んで与えたり、場合によっては胃潰瘍の薬をあげたりするのですが、食べたくない馬を食べさせるのは本当に大変なことです。

しかし、そんな馬たちが疲れたときに、一番食べたくなるのは「青草」のようです。私たちはスピード調教実施後に放牧地で下馬して、青草を短時間食べさせる「ピッキング」を行っています。これはヨーロッパの厩舎で、調教後や夕方などにピッキングを行っているのを真似ているのですが、草食動物である馬にとって精神面を健康に保つ上でいいことだと思っています。

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ピッキング風景です。写真左からオロールの05(♂・父アラムシャー)、ギザニアの05(♂・父ワイルドラッシュ)、サンドコロネットの05(♂・父アドマイヤコジーン)(314日)

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外(向かって左)トップライナーの05(♂・父イシノサンデー)、内はユーワソフィアの05(♂・父キャプテンスティーヴ)(31日)

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レディーフェアリーの05(♂・父アグネスタキオン)(38日)

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外(向かって左)はヒカルパロサントの05(♂・父マイネルラヴ)、内はアトラスマーカーの05(♂・父ステイゴールド)(318日)

坂路調教2本(日高)

ブリーズアップセールまで残すところ1ヶ月半となり、JRA育成馬の調教も日ごとに強さを増してきています。12月中旬からスピード調教日として週2回の屋内坂路調教を行っていますが、坂路は平地に比べて馬への負荷が大きいため、最初のうちは坂路調教1本のみとし、次に屋内800m走路で駈歩1000m後に坂路調教1本と徐々にステップアップし、2月下旬からは坂路調教2本を開始しました。

3年前に坂路調教2本を行ったときは、運動強度が強くなりすぎたせいか歩様が悪くなる馬が出たため、いつ開始するかずっと頭を痛めて、なかなか決断がつかなかったのですが、もう十分に体力がついたと判断して、牡馬を対象として行うことに決めました。

1本目はハロン20秒程度の速度として、6-7頭が1団となり駆け上がる集団調教とし、馬群の中で我慢させることを覚えさせ、2本目はハロン16秒程度で2頭併走調教としました。ほとんどの馬がじっと手綱を持ったまま楽な手応えで駆け上がり、調教後の息使いも楽で、一段とパワーアップした印象です。

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坂路1本目の集団調教:左からハローヘレンの05(牡:父ヘクタープロテクター)、オグラテスコの05(牡:父チーフベアハート)、アラビックナイトの05(牡:父コロナドズクエスト)、リキアイワンダーの05(牡:父キャプテンスティーヴ)、オグリウェルズの05(牡:父デヒア)、ハロースウィーティの05(牡:父ティンバーカントリー)

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1本目の調教を終え、2本目のスタート地点に向かうJRA育成馬。

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坂路2本目の併走調教:左からフェアリーアフランの05(牡:父バブルガムフェロー)、マチカネホホエミの05(牡:父ヘクタープロテクター)

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坂路2本目の併走調教:左からレモングラスの05(牡:父アグネスタキオン)、ミスムーンライトの05(牡:父ゴールドアリュール)

ステディキャンター(宮崎)

宮崎キャンプも終了し、プロ野球はオープン戦が始まりました。南九州は、もう春の気配です。しかし、この時期にしては雨の日が多く、例年より約1ヶ月早い「菜種梅雨」のような日々が続いています。これも暖冬の影響でしょうか。「せめて、調教時間帯だけでも雨が降らないでほしいなあ」なんて思う毎日です。一方、農家の方にとっては、3月半ばに田植え(二期作)が始まることから、ありがたい雨なのかもしれません。

さて、日々の調教ではF2018のスピードで4Fを走行することが可能となってきました。我々はこのスピードをステディキャンターとよんでおり、一列の隊列を組み、前進気勢をためる調教を繰り返しながら、安定したフォームで走行することを馬に要求しています。また、このスピードをベースとしながら、徐々に速いキャンターも実施していきます。しかし、全馬に対して同じ内容の調教を実施していても、筋肉痛になったり肢に熱を持ったりする馬も出てきます。考えてみると、馬の成長に個体差があるのは当然です。我々はこのような馬の出すサインを謙虚に受けとめ、馬体の成熟の遅い馬に対しては無理をせず、調教進度を抑えて体が出来上がるのを待ちたいと考えています。

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この日はV200を測定するためにエクイパイロットを装着して調教を行いました。1本目は4.5F F20のスピードで、2本目は5.5FF1817のスピードで併走調教を実施しました。1本目を走行中のユーワソフィアの05(牡:父キャプテンスティーヴ)。222

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2本目の併走調教です。内(向かって左)がサンドコロネットの05(牡:父アドマイヤコジーン)、外がベルキスの05(牡:父マーベラスサンデー)222

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ケイウンクィーンの05(牡:父タヤスツヨシ)223

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ベルキスの05(牡:父マーベラスサンデー)224

V200測定(日高)

タイトルからいきなり「V200」という聞き慣れない言葉で恐縮ですが、JRA育成馬は毎年2月と4月の2回、調教中の心拍数を測定し体力評価を行っています。

心拍数は最高心拍数※1に達するまで、速度が速くなるに従い、直線的に増加することから、下図のように心拍数が200/minのときの速度(m/min)を求めることができます。この値をV200と呼び、有酸素運動能力2の指標として用いられています。V200が大きいほど心拍数が200/minのときの速度が速く、同じ速度で走るときの心拍数は低いことから有酸素運動能力が高いことになります。

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V200の算出方法:グラフの横軸に速度、縦軸に心拍数をとり、データをプロット(青点)し、回帰直線(黒線)を引きます。そこで、心拍数が200の時の速度(赤線)を求めることで、V200(赤字)が算出できます。

V200はヒトでは個体ごとの有酸素運運動能力の科学的指標として確立していますが、馬の場合は人が騎乗しての野外試験のため、速度の規定が難しいこと、馬の情動や騎乗者の体重・技術の影響を受けることから、個体ごとの有酸素運動能力の指標としては精度が高いとはいえず、現在のところ群れ全体の調教進度の判定に利用しており、育成期の適正な調教強度を検討するうえでの科学的指標の一つとして用いられています。

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ハートレイト(HR)モニターと呼ばれるこの装置は、鞍下ゼッケンと腹帯に電極を装着することで、騎乗者の腕にはめた時計に心拍数が記録されます。

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HRモニターを装着して併走調教を行う左ヤナビの05(牝:父ボストンハーバー)、右イシノエスパーの05(牝:父キングヘイロー)。最後はハロン18秒程度で調教を行いました。

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過去9年間のJRA育成馬の2月のV200の推移:牡牝ともに02年以前より、03年以降のV200が高い傾向にあることがわかります。これは近年、JRA育成馬に早い時期からより強い強度の運動を負荷していることから、2月の時点で有酸素運動能力が高くなっているものと考えられます。

最高心拍数※1:これ以上は運動強度を強くしても上昇しないと考えられている心拍数。ヒトでは220-年齢拍/min、馬では220230/minといわれている。

有酸素運動能力2:運動能力の一つの指標で、酸素を利用してエネルギーを産生する能力のことをいう。