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昼夜放牧について(日高)

北海道浦河では昨年よりも19日早い109日に日高山脈の初冠雪が見られました。紅葉も終わり、木々は冬支度万全といったところです。降雪もまもなくです。

昨年売却した育成馬から、クラシック最終戦となる秋華賞にはダイアナバローズ(父:シンボリクリスエス、母:チッキーズディスコ)が出走、菊花賞にはセイウンワンダー(父:グラスワンダー、母:セイウンクノイチ)が出走し3着に頑張ってくれました。

3群に分け馴致を進めてきた56頭の育成馬達は、2群までは集団調教の段階に入っており、残る3群も騎乗前のドライビングを行っています。

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800m屋内馬場で安定した2周の駆歩ができるようになると坂路調教をスタートします。1群の坂路調教初日は1030日で、誘導馬を先頭に15頭が一群となりゆったりと駆け上がりました。

さて、今回は昼夜放牧について書きたいと思います。このところ昼夜放牧はかなり一般的に実施されるようになりました。夏季の早朝や夕暮れ時の日高路を車で走れば、薄明かりの中で「まだ(もう)馬が放牧されている」という風景に出会うことが多くなってきました。

昼夜放牧を実施する利点としては、放牧時間が長くなることにより運動量が増す、夜を経験させることにより馬が精神的にタフになる、エサ代や寝藁代の節約になる、などが挙げられます。

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朝、視界がよくなると、疲れのあまり肢を投げ出して寝る群れの姿をよく目にします。数頭が見張り役を担当し、他の馬はいびきが聞こえてきそうなほどの熟睡です。

一方、なかなか昼夜放牧に踏み切れなかった牧場の方の多くが、監視の届かない夜間に放牧するのは危険だ、ということを口にされていました。最近では昼夜放牧が普及する中で、徐々にその懸念が薄れてきたのではないかと思います。

しかし、注意しなければならないのは放牧地が狭かったり、放牧頭数が多かったりすると、放牧地自体が荒れて(疲れて)しまうという問題です。そのような場合にはこまめな馬糞拾いや牧草量や草質の維持など、より注意深い草地の管理が求められます。馬の行動観察から、1頭あたりの適切な放牧地の面積はおよそ1ヘクタールという話をよく耳にします。20時間以上の昼夜放牧をしても放牧地が傷まない広さと、いう考え方からもこのぐらいの面積は必要であるように感じています。

一括りにするのは危険かもしれませんが、欧米では馬に十分な広さの放牧地を用意できるのであれば、昼夜放牧をしたほうがより馬にとって自然で快適ではないかという考え方が主流です。これは、加えて経費と労力を節約できることも大きな要因のようです。

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秋も深まり朝日の中でゆったりと草を食む育成馬。体力がついたのか、度胸がついて夜間もリラックスできるようになったのか、疲れて肢を投げ出して寝る姿はほとんど見られなくなります。左からイブキフリッカーの08(牡、父:ファルブラヴ)、オスカースマイルの08(牡、父:デビッドジュニア)、ゲルニカの08(牡、父:ロックオブジブラルタル)。

本年、当場では7月に購買した育成馬9頭の騎乗馴致を3群目として、それまでの3ヶ月間じっくり昼夜放牧(1620hr)を実施してきました。昼夜放牧と書きましたが、当場では8月の一時期にはアブなどの吸血昆虫による馬の消耗が著しいため、若干夜間にシフトして行いました。

群れが安定し、放牧地の環境に慣れてしまうと馬が動かなくなり、運動量が減少するという問題が生まれます。特に牝馬の群れでその傾向が強いように感じます。その対策として、少しでもフレッシュさを保つために定期的な放牧地の変更を行います。牝馬の群については3箇所の放牧地(3ha2ha4.5ha)を使いました。また、まめに掃除刈りを行い、草丈を短く保つことで採食のために動くという副次的効果があるため励行しました。

期間中の馬体重の変化は下図のようになります。最初の数週間は体重増減にばらつきがあるものの、9月に入るとほぼ全ての馬が順調な成長を見せています。皮膚病が出たり毛が焼けたりと、見た目だけでは購買時よりも見劣るものの、ボディーコンディションスコア(馬の肥満度を現す指標)を維持しつつ、体は一回り大きくたくましくなったように感じます。放牧開始当初の体重増加にばらつきがみられるのは、セリに向けた準備のため昼夜放牧を一時中止するなど、牧場での管理方法の違いなどが要因であると思われます。

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7月に購買した牡馬の入厩から昼夜放牧終了前までの体重推移です。8月中間に体重が減ったゲルニカの08は、体重測定時に感冒のため馬房内休養していました。

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7月に購買した牝馬の入厩から昼夜放牧終了前までの体重推移です。9月以降は順調な増加傾向を示しています。タイランツフェイムの08は昼夜放牧を経験しておらず、ハナコスマイルの088月下旬から9月上旬にかけて放牧を疾病のため休んでいます。

また、これまで昼夜放牧を行うと十分な運動によって管が太くなるという印象があることから、その要因を調査するため、現在昼夜放牧の開始前と終了時に屈腱部のエコー検査も実施しています。この結果についてもまとまりましたらご報告したいと考えています。