全ての道はローマに通ず(日高)
新年あけましておめでとうございます。昨年に引き続き、本年もJRA育成馬日誌をよろしくお願いいたします。日高育成牧場では、浦河町乗馬クラブやポニー少年団の子供たちとともに、新年恒例の騎馬参拝で2012年の幕が上がりました。騎馬参拝を行った西舎神社で、本年の人馬の安全を祈念いたしました。
【写真1】本年も西舎神社にて人馬の安全を祈念いたしました
昨年末の北陸や北日本を中心に発達した強い寒気の影響により日高育成牧場のある浦河でも大雪に見舞われ、一面銀世界に景色が変わり、厳冬期へと突入しました。例年、少量の積雪後に降雨によって地面がアイスバーンとなり、パドック放牧が困難になる心配をしているのですが、本年はこの大雪によって調教後や休日には安全にパドック放牧を実施できそうな状態になりました。しかし、正月にはみぞれ混じりの降雨に見舞われたり、春の雪解けまでは引き続き気がぬけない日々が続きます。
【写真2】 昨年末の寒波により一面銀世界へと景色が変わりました
このような厳しい寒さの中、JRA育成馬の調教は徐々に本格化してきました。1群の牡馬は800m屋内トラックでの2400m(1周+2周、ハロン22秒まで)の駆歩をベースに、週2回は800m屋内トラックで2周駆歩(ハロン22秒)を行った後に、坂路調教(1本、ハロン20秒)を実施しています。坂路を走行し終えた直後の息の入りを観察していると、1群の牡馬は余裕があるように映ってきました。一方、1群よりも3週間遅れで騎乗馴致を開始した2群の牝馬も同程度の調教メニューを消化していますが、こちらは調教メニューをこなすのが精一杯というような状態であり、あせらずじっくりと進めていきたいと思っています。この時期の2歳馬、特に牝馬においては体力的な過負荷以上に、精神面でのストレスのケアが非常に重要になります。そのために、当場では坂路調教の翌日にはリラックスさせることに主眼を置いた調教を行うことによって、調教に強弱、つまり“オン”と“オフ”のメリハリをつけるように心掛けています。
坂路調教(写真3:上)の翌日にはリラックスに主眼を置いた800 m屋内トラックでの調教(写真4:下)を実施し、“オン”と“オフ”のメリハリをつけるよう心掛けています。写真上の先頭はキセキスティールの10(牡 父:ケイムホーム)、写真下の先頭左の馬はベラミロードの10(牝 父:アドマイヤムーン)、先頭右の馬はカミモリローマンの10(牝 父:スウェプトオーヴァーボード)
さて、ここからは昨年12月に行われました恒例の「BTC利用者との意見交換会」について触れてみたいと思います。今回は「競馬を見据えた育成調教・騎乗方法」というテーマに基づき、当場から「日高育成牧場における育成調教」および「育成馬の調教で意識している点」と題する話題提供の後、競馬で最大限の能力を発揮させるための体力面のみならず精神面のトレーニング方法について4名のパネリストの方々を中心に活発な意見交換が行われました。パネリストの皆さんは、自身の経験に基づき試行錯誤した中で、最善の方法を実践しておられる方々でした。一見すると個々の方法は全く異なっているようにも感じられることも少なくはなく、多種多様な意見が飛び交いました。しかしながら、「馬は常に精神および肉体面で健康でなければならない」という点は一致しており、パネリストの方々は馬を精神および肉体的に健康に維持するために、常に馬をよく観察し、馬を理解しようと心掛けているという共通項が浮かび上がってきました。また、その他にも、現状に満足することなく、強い馬づくりという目標に向け、最大限の努力をなされていることがひしひしと伝わってきました。今回の意見交換会を終えて、重要なことは「馬を観察し、馬を理解しようと心掛けること」であるということを確信いたしました。多種多様な考え方がある中にも、やはり「全ての道はローマに通ず」ということを強く感じさせられました。私自身、非常に刺激を受けるとともに、多くのヒントをいただくことができました。4名のパネリストの方々、および参加していただいた方々にはこの場をお借りして御礼申し上げます。
日高育成牧場でもしっかりと馬を観察し、育成調教を進めていきたいと考えています。また、そのなかで得られた知見を少しでも解りやすく、なるべく科学的な分析や根拠も加えてお伝えしていきたいと考えています。
【写真5】 例年同様に議論百出した「BTC利用者との意見交換会」の様子