離乳後に注意しなくてはならない病気(生産)
今年は異常に暑く、ようやく秋の訪れを感じる涼しさになってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか? 日高育成牧場では獣医・畜産学系の学部に在学中の大学生を対象に、大学の夏休み期間中「サマースクール」を実施しました(写真1)。これは、馬に興味がある学生に対して、牧場の作業や講義・実習を通して広く馬産業に携わる人材を養成する目的で実施しているものです。毎年6月頃JRAのホームページ上で募集しますので、興味のある学生の皆さんは是非来年応募していただきたいと思います。
さて、今回のテーマは、ちょうど今頃行なわれる離乳のお話です。離乳自体につきましては、昨年の当ブログでご紹介しておりますので、今回は離乳後に注意しなくてはならない病気について、当歳馬、繁殖牝馬両方の面からお話したいと思います。
写真1 サマースクールの様子
当歳馬
当歳馬は離乳することで母乳からの栄養供給がなくなるため、離乳前から十分に濃厚飼料に馴らしておくなど、離乳後スムーズに十分な栄養補給ができるようにするための準備が大切です。離乳後の時期の当歳馬に起こりやすい病気で、特に最近問題になっているのは「ローソニア感染症」です。この病気はLawsonia intracellularis という病原体が感染することで発症します。元々豚の感染症として知られていたものが、近年馬にも感染することがわかり、問題となっています。日本でも胆振地区の一部では集団発生が見られたり、ここ浦河町でも発生が確認されるなど、注意が必要です。
発症すると、発熱、元気消失、食欲低下など他の一般的な感染症と同様な症状のほか、四肢の浮腫や下痢が認められるのが特徴です(写真2、3)。診断は、血液検査で低蛋白血症が認められるほか、腹部超音波検査で小腸壁の肥厚が確認できることもあります。確定診断には、血清中の抗体検査あるいは糞便中のPCR検査という専門機関での特殊な検査が必要です。治療としてはリファンピシン、クロラムフェニコール、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリンなどの抗生物質を投与します。
死亡率は決して高くありませんが、下痢が長期に渡る結果、腸管からの栄養摂取が上手く行かなくなり、成長不良となってしまいます。ワクチンもまだ開発されておらず、絶対的な予防法は存在しないため、離乳時にかかる子馬のストレスをなるべく軽減し、子馬の健康状態を良好に保つことが重要です。
写真2 ローソニア罹患馬。両後肢の浮腫が認められる。
(出典 Equine vet. Educ. (2009) 21 (8) 415-419)
写真3 ローソニア罹患馬の下痢
(出典 Equine vet. Educ. (2009) 21 (8) 415-419)
繁殖牝馬
一方、母馬は離乳することで今まで子馬が飲んでいた乳が溜まることになるため、「乳房炎」という病気になることがあります。これは乳腺が細菌感染することが原因で発症します。離乳直後に起こるイメージですが、実は離乳した4~8週間後に最も発症が多いと言われています。
症状としては、乳房が著しく腫れ(写真4)、触ると痛みを示し、乳房が腫脹している方の後肢の跛行を示すこともあります。原因菌は主にStreptococcus zooepidemicus などのグラム陽性菌と呼ばれる種類の細菌ですので、ペニシリン(マイシリン)やセファロチン(コアキシン)などの一般的な抗生物質がよく効きます。早期発見・早期治療できれば予後は良いので、離乳後は母馬の乳房をこまめに観察するように心がけましょう。
写真4 乳房炎(右の乳房が感染)
離乳はこのような疾病の発症を始め、子馬、母馬両方に負担がかかる、デリケートなイベントです。皆様の愛馬がこの時期を上手く乗り切り、将来健全な競走馬になれるよう心から願っています。