« 2012年11月 | メイン | 2013年1月 »

厳冬期の当歳馬の管理~過去2年間の調査で見えてきた課題~(生産)

今年も残すところあとわずかとなり、何かと忙しい年の瀬ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?冬になり、当歳馬たちは昨年同様、「昼夜放牧群(以下、昼夜群)」と「昼放牧+ウォーキングマシン群(以下、昼W群)」の2群に分けて管理し、データを集積しています。3年目となる今年は気温が高くいまだに雨が降ったりするここ浦河町ですが(写真1)、果たして過去2年間と比較してどんなデータが得られることでしょうか。

さて、今回から数回に渡り、過去2年間行なってきたこの厳冬期の当歳馬の飼養管理についての調査の結果を踏まえて、見えてきた管理上の課題について確認したいと思います。まず、今回は体重増加について述べたいと思います。

Photo_12

写真1 今年はまだ青草(?)が食べられます

昼夜放牧と昼放牧での体重増加の違い

 まず、調査期間中の体重増加を比較してみました(図1)。2年目の2011年~2012年シーズンの方が昼夜群・昼W群ともに体重が大きい傾向にありましたが、体重増加のトレンドとしては2年間で同じ動きが見られました。

 まず昼夜群の方は、途中大きな体重減少こそないものの、12月下旬から1月中旬にかけて一時、体重増加が停滞もしくは体重が減少するような期間が認められました。この原因については、単純に寒冷刺激によるストレスや、後ほどご紹介するホルモン分泌などが影響しているのではないかと考えられました。

 一方、昼W群は全体的に順調に体重が増加しましたが、11月下旬の調査開始当初に一時的に体重が減少する傾向が認められました。これは、調査期間に入る前はもともと全頭昼夜放牧していたのを昼放牧に切り替えたことにより放牧時間が大幅に短縮し、青草などの腸管内容物が減少したことや、環境変化による一過性のストレスが原因と考えられました。1年目と2年目の違いにつきましては、種牡馬の違いによる成長カーブの差の影響などが考えられました。

 以上のことから、厳冬期のこの時期に順調に体重を増加させるためには、昼夜群に関しては馬服を着せたりすることでできるだけ寒冷刺激を与えないようにしたりする必要があるのではないかと考えられました。昼W群に関しては、当場のように昼夜放牧から切り替える牧場ではいかにストレスをかけずに昼放牧に切り替えるか、例えば一気に昼放牧に切り替えるのではなく放牧時間を徐々に短縮して馬たちに「気がついたらいつの間にか昼放牧になっていた」と思わせるような方法が良いのではないかと考えられました。

Photo_11

図1 体重増加の違い

 講習会でこの調査に関するお話をさせていただくと、体重増加について、「調査期間後はどうなっているの?」という質問を良く受けます。調査期間後の1月下旬以降は、1年目と2年目でベースラインの差はありましたが、昼夜群と昼W群で体重増加のトレンドに差は認められませんでした(図2)。すなわち、気温の上では1月から2月にかけての方が寒くなることがしばしばありますが、当歳馬の管理上はむしろその前のちょうど調査期間である11月下旬から1月中旬にかけての時期を問題なくやり過ごすことの方が重要ではないかと思われました。ちょうどこの時期は1年の中で最も日照時間の短い期間に該当します。ひょっとしたら馬たちの成長にとっては、寒さよりも日照時間の方が関連が強いのかもしれません。

 ちなみに、当場では調査期間後は2月いっぱいまで2群に分けて管理し、3月より全頭昼夜放牧を実施しております。

Photo_14

図2 調査期間後の体重増加の違い

体重増加とホルモンの関係

 次に、体重増加とホルモンのお話です。この調査では血液中の数種類のホルモンを測定しましたが、中でもプロラクチンというホルモンの分泌と体重増加に相関が示唆されるような傾向が認められました(図3)。

プロラクチンとは本来乳腺の発達や妊娠維持に関わるホルモンですが、春機発動に関与するなど馬体の成長にも影響することが知られています。この血中プロラクチン濃度は、過去2年間ともに昼夜群と比較して昼W群で有意に高い値となりました。 また、1年目と2年目を比較すると、体重のトレンドと同様に昼夜群と昼W群の両方で2年目の方がプロラクチンの濃度が高いことがわかりました。

Photo_15

図3 プロラクチンの分泌と体重増加の関係

 次回以降も、厳冬期の当歳馬の飼養管理についての調査の結果をご紹介していきたいと思います。来年以降も、JRAが行なう調査・研究につきまして、皆様のご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

Photo_17 

活躍馬情報(事務局)

先週土曜日の中山競馬2R(2歳未勝利)におきまして、JRA育成馬ミエナイツバサ号が優勝しました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、今年4月に開催されたブリーズアップセールにて取引された馬です。

また、本年当セールで取引された育成馬は、10頭(新馬戦優勝4頭含む)が勝ちあがりました。今後のますますの活躍を期待しております。

201212222r_g0_2_2

12/22 5回中山競馬7日目 第2R 2歳未勝利 ダート 1,200m

ミエナイツバサ号(シルクアムールの10) めす 2歳

【 厩舎:岩戸 孝樹(美浦) 父:アルデバラン 北海道サマーセール購買 】

なお2012年のブリーズアップセール取引馬の個別成績はこちらをご覧ください。

JRA育成馬ウエブサイト リニューアルのお知らせ(事務局)

JRA育成馬ウエブサイトを大幅にリニューアルいたしました。

最初のトピックスとして、JRAの“育成に対する考え方”や“育成技術”をまとめた『JRA育成牧場管理指針』日常管理と馴致(第3版)生産編を電子ブック形式で掲載。簡単に閲覧、プリントアウトできるようになりました。

        Photo_18             Photo_19

       

       日常管理と馴致 第3版                     生産編

※冊子の印刷には、電子ブックを開いたあとに、左下方の「PDFファイルを開く」ボタンをクリックし、PDFファイルを印刷してください。

また、JRAブリーズアップセールのサイトには、来年4月23日に中山競馬場で開催する2013JRAブリーズアップセールの案内とともに、歴年のブリーズアップセール結果や売却馬の競走成績、配布資料(売却馬名簿・売却馬写真カタログ・育成馬個体情報)をPDF形式で掲載しております。興味をお持ちの方は、こちらもご覧ください。 

      Photo_15             Photo_16               Photo_17

  2012売却馬名簿        2011写真カタログ        2010育成馬個体情報

                           

育成牧場の冬仕度(宮崎)

南国宮崎も冷え込む日が多くなり冬が近づいてきたようです。

1_2

写真1.牧場内で育つスウィートスプリング

まだ、あまり知られていない柑橘類。見た目に反し糖度が高く美味。食べ頃です。

育成業務は馴致を終え1600m馬場で本格的な調教を開始したところです。総駆歩距離2700m、走速度は約20秒/ハロン(1ハロン≒200m)の調教を毎日積み重ね体力の増強を図っています。

2_2

写真2.以前に紹介した蟻洞を伴った蹄

蹄壁も成長し疼痛も緩和。接着装蹄から通常の装蹄に切り替え順調に調教を実施しています。

調教に励む職員の中に、昭和47年のJRA入会以来、宮崎一筋で育成馬の騎乗に取り組んできた人がいます。来年の9月に定年を迎えるため騎乗するのは現在入厩している育成馬が最後の世代となります。通常、体力の衰えなどから、一定の年齢までで育成馬の騎乗をとりやめることとしています。定年まで騎乗を続けることは、技術が維持されていることはもちろん、本人の強い意思・信念があってこその、極めて稀な例です。40年の間に携わった担当馬は100頭に迫るとのこと、入会以前は馬に触ったこともなく、この宮崎で技術の研鑽を重ねてきました。若馬に負担をかけない綺麗な前傾姿勢を保った騎乗姿は、年齢を感じさせることがなく、若い職員の良い手本となっています。

この方の40年間が決して順調だった訳ではなく、落馬での骨折入院のほか、大病を患い生死の境をさまよったこともあったと伺っています。その時もベッドの横には育成馬の写真を掲げ、病を克服した後にはもう一度育成馬に騎乗するという強い信念をもって闘病生活をおくっていたとのことです。

毎朝の調教で親子程歳の差のある若手職員と育成馬を通じて熱心に騎乗論や管理技術論を交わす姿をみると、生涯をかけて育成業務に取り組んできた情熱を改めて感じずにはいられません。

3_2

写真3.1600m馬場で調教を行うグランドアピアの11(牡・父キャプテンスティーヴ)とI職員(1953年生)

また、宮崎育成牧場では冬を前にクリッピングを行っています。これは、冬季の調教による汗や馬体洗浄後の乾燥を容易にし、用途に応じた馬服を着せることにより被毛管理と腹部の冷えを防ぐために実施しています。

4_2

写真4.クリッピングを施されたレイナフェリスの11(牡・父アルデバラン

冬を迎える準備が日に日に整っていきます。

活躍馬情報(事務局)

先週日曜日の中山競馬2R(2歳未勝利)におきまして、JRA育成馬フルーツガーデン号が優勝しました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、今年4月に開催されたブリーズアップセールにて取引された馬です。

また、本年当セールで取引された育成馬は、9頭(新馬戦優勝4頭含む)が勝ちあがりました。今後のますますの活躍を期待しております。

201212022r_g_2

12/2 5回中山競馬2日目 第2R 2歳未勝利 ダート 1,200m

フルーツガーデン号(チェロキーステージの10) めす 2歳

【 厩舎:菊沢 隆徳(美浦) 父:ケイムホーム 北海道サマーセール購買 】