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育成馬ブログ 日高①

○  サマーセールでの育成馬購買(日高)

 

お盆を過ぎても暑い日が続く今年の日本列島ですが、北海道浦河町にある日高育成牧場ではシーズンを通して最高気温が30度を超える日のない比較的過ごしやすい夏となりました。早くも秋の気配が漂いはじめており、空模様や虫の鳴き声が変わりゆく季節を感じさせてくれます。

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写真1.朝もやの中、放牧地で元気に青草を頬張るJRA育成馬たち。まさに「馬肥ゆる秋」です。写真左からセレーサ14(牡、父:ステイゴールド、購買価格:1,200万円)、ビューティコマンダ14(牡、父:アルデバラン、JRAホームブレッド)、ハートノイヤリング14(牡、父:アイルハヴアナザー、購買価格:1,100万円)、スノーボードロマン14(牡、父:バゴ、JRAホームブレッド)。

 

1歳市場「サマーセール」に参加しています

季節の変わり目にあたるこの時期、馬産地北海道の風物詩ともいえる国内最大規模の1歳馬市場「サマーセール」が開催されています。今年は8月24日から4日間のスケジュールで1,300頭近い1歳馬が上場されます。国内外から購買者が集まるこのセールにはJRAも参加し、今年育成するJRA育成馬を購買しています。

セールに向けた事前検査を実施しました

サマーセール当日は朝8時から比較展示が行われ、12時からセリがはじまります。購買者は午前中に組まれた展示時間を使って、血統情報の出ているセリ名簿と実馬の馬体や健康状態、性格などを見比べて購買候補馬を決定します。一般的な購買者は馬を選定してから検査するため時間的に余裕がありますが、1日300頭以上が上場されるこの市場で全馬を時間内に確認することは不可能です。そこでJRAでは、上場馬を多く預託しているコンサイナーにお願いして、事前に牧場をまわり上場馬を検査させてもらっています。今年は48か所のコンサイナーの皆様に協力していただき、767頭の事前検査を行うことができました。協力していただきましたコンサイナーの皆様にはこの場を借りて御礼申し上げます。

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写真2.事前検査では、経験豊富なJRAの獣医・装蹄職員が購買候補馬を選定します。今年は殆ど雨も降らず、快適な環境のなかで検査することができました。

 

 

在厩している育成馬の近況

さて、現在日高育成牧場には17頭のJRA育成馬(セレクトセール購買馬2頭、セレクションセール購買馬8頭、日高育成牧場で生産したJRAホームブレッド7頭)が在厩しています。育成厩舎に入厩してすぐに夜間放牧(午後15時に放牧して朝8時に集牧)をはじめましたので、夜間放牧の期間も既に1カ月が経過したことになります。最初は新しい仲間との出会いに戸惑っていた馬達。今ではお互いに寄り添いながら、仲良く新鮮な青草を食べています。

騎乗馴致の準備をしています

現在、育成馬達は夜間放牧を行いながら9月から行う騎乗馴致の準備をしています。騎乗馴致がはじまると放牧地でのんびり草を食む生活が一変し、背中に人が騎乗することを受け入れて人の指示で動かなくてはなりません。馴致開始までの期間、引き馬や手入れなどを利用して人馬の信頼関係を構築する作業を地道に行っています。

馴致を開始する前に必ず実施するのが口腔内検査と歯科処置です。馴致を行う過程において、馬を操作するために必要な「ハミ受け」を教えます。ハミは馬を操作する際にハンドルの役割をする馬具で、馬がハミを気持ちよく受け入れられる環境を作る必要があります。

検査では口内炎や斜歯・狼歯の有無を確認します。馬の口内炎は多くの場合、飼料や草を上下の歯ですりつぶす際に臼歯(奥歯)が必要以上に尖ってしまい、口腔粘膜を傷つけておこります。斜歯とはその尖った歯のことで、尖っている場合には数種類の専用ヤスリを使って整えます。また、狼歯とはちょうど人の八重歯のように歯肉から少しだけ頭を出している(もしくは埋没している)歯で、ハミがあたると馬に不快感を与えるため取り除く必要があります。

JRAでは馴致を開始する前にこれらの検査・処置を全馬に行っています。これは騎乗馴致が始まると馬には多くのストレスがかかるため、馬が少しでもハッピーな状態で様々な課題に取り組める下地を作りたいと考えているからです。

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写真3.口腔内検査を行っています。人馬とも安全に、しっかり検査するため枠場を使って検査しています。

 

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写真4.抜き取った狼歯。形や大きさは様々で、多くの馬で上顎に左右1本ずつみられます。稀に下顎にもみられ、狼歯がない馬もいます。

今回は以上です。次回の日高育成牧場ブログでは騎乗馴致の様子についても触れていきたいと思っています。

育成馬ブログ 生産編①「その2」

・当歳馬に与えるクリープフィード その2

 

クリープフィード投与の2つ目の目的は、離乳後の「成長停滞」を防止もしくは最小限度に

抑制することです。

 

離乳後の子馬を観察すると、少なからず体重増加が滞ります。極端な体重減少でなけれ

ば、一時的な成長停滞そのものが中長期的な健康に及ぼす影響は大きくないかもしれま

せん。

 

しかし、体重増加が停滞した後に起こる「急成長」は、OCD(離断性骨軟骨症)などの

骨疾患発症に影響を及ぼすとの調査報告もあるため看過できません(図1)。

 

そこで、離乳前に一定量のクリープフィードを食べることに慣らしておき、「成長停滞」と

それに引き続いて起こる「急成長」を予防し、スムーズに成長させる工夫が必要になるの

です。

 

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1.スムーズな成長曲線(左)と「成長停滞」と「急成長」が認められる成長曲線(右)。

後者はOCDなどのDODを発症し易い成長と考えられている。

 

なお、クリープフィードの給餌を離乳直前に開始しても、食べ慣れるまでに時間がかかる

うえ、離乳ストレスによる食欲低下も念頭に置かなくてはなりません。

 

このため、クリープフィードの開始時期は、母乳量が低下し始める2ヵ月齢が目安になり

す。もちろん、過剰摂取による過肥、骨端炎および胃潰瘍には十分注意する必要があり

すので、給餌量を決定する際には、これらの疾患の徴候、子馬の体重、増体量、ボディ

コンディションスコア、放牧地の草の状態を考慮しなければなりません。

 

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給餌量の決定には、骨端炎や胃潰瘍の徴候、馬体重、増体量、ボディコンディションスコア、放牧地の草の状態などの把握が重要。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

 

育成馬ブログ 生産編①「その1」

・当歳馬に与えるクリープフィード その1

 

 8月に入り暑い日が続いていますが、本年生まれた当歳馬たちにとっては母子の別れ、

「離乳」の時期が近づいています。

 

 離乳方法の選択如何によっては、子馬の成長阻害や大きな事故に繋がる可能性が

あります。また、その後の取扱いに支障をきたすような精神的ダメージを負うこともある

かもしれません。このため、牧場の放牧地や厩舎などの施設環境を考慮した、最善の

離乳方法を選択する必要があります。

 

 当歳馬の離乳を成功させるための重要ポイントの1つとして、それまで母乳から摂取

していた栄養を牧草や固形飼料で代替することができるようになっていること、すなわち、

一定量(1~1.5kg)の固形飼料、いわゆるクリープフィードを食べられるようになっている

ことがあげられます。

 

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クリープフィードを食べる当歳馬

 

 ところで、なぜクリープフィードを与える必要があるのでしょうか? 

 クリープフィードを与える目的は大きく2つあります。

 

 1つ目は母乳から得られる栄養の補填です。母馬の泌乳量は出産後から徐々に低下

していき、そこから摂取できるカロリーや栄養成分も同様に低下します。特にカルシウムや

銅などのミネラル含量は、生後1ヶ月を待たずして子馬の栄養要求量を充たさなくなります(図1)。

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図1.母乳からの摂取ミネラルの要求量に対する割合(7週齢)

 

 このうち銅は、子馬の骨端炎やOCDなどの骨疾患の発症を抑制するために重要な働き

をするミネラルの1つです。もともと、母乳に含まれる銅の量は少なく、生まれて間もない

子馬は、母乳から十分な量の銅を摂取することができません。このため、子馬は母体に

いる胎子のときに、母馬から銅を受け取り肝臓に蓄えておき、生後はその蓄えを利用して

いると考えられています(図2)。しかし、肝臓に蓄えられた銅は、生後2~3ヶ月で枯渇

することが知られています。

 

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図2.胎子は母馬から受け取った銅を肝臓に蓄積し、生後に利用する。

 

 もちろん、良好な牧草が繁茂した放牧地で飼養されていれば、子馬にとって必要な

カロリーは母乳と牧草から摂取することも可能かもしれません。しかし、健康な馬体成長

に欠かせないミネラルは固形飼料で補う必要があります。

 

つづく

活躍馬情報(事務局)

先週土曜日の小倉1R(2歳未勝利九州産馬)で、宮崎育成牧場で育成された

チェストケホーク号が優勝しました。さらに、日曜日の新潟1R(2歳未勝利)では、

日高育成牧場で育成されたグレートヒット号が優勝しました。

上記2頭は2015年JRAブリーズアップセールで取引され、ともに3戦目での

勝ち上がりとなりました。今後のますますの活躍を期待しております。

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8月15日 2回小倉競馬5日目 第1R  2歳未勝利(九州産馬) 芝 1,200m

チェストケホーク号(ドラゴンウィンの13) 牡

【 厩舎:池上 昌和 厩舎(美浦) 父:ブラックホーク 】

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8月16日 2回新潟競馬6日目 第1R  2歳未勝利 ダート 1,200m

グレートヒット号(シラタマの13) 牡

【 厩舎:武井 亮 厩舎(美浦) 父:サウスヴィグラス 】

活躍馬情報(事務局)

先週土曜日の小倉2R(2歳未勝利)において、JRA育成馬ノーブルマーズ号が優勝しました。同馬は宮崎育成牧場で育成され、2015年JRAブリーズアップセールで取引されました。

今後のますますの活躍を期待しております。

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8月8日 2回小倉競馬3日目 第2R  2歳未勝利 芝 1,800m

ノーブルマーズ号(アイアンドユーの13) 牡

【 厩舎:宮本 博 厩舎(栗東) 父:ジャングルポケット 】

育成馬ブログ 宮崎①

 ○  JRA育成馬の入厩(宮崎)

1歳セリでの購買

本年度の1歳セリは7月7日(火)に開催されました八戸市場からスタートしました。八戸市場では54頭が上場され、31頭が売却されました(売却率は57.4%)。JRAは八戸市場において、4頭(牡1頭、牝3頭)を購買しました(写真1)。

1写真1.八戸市場において購買した本年度のJRA育成馬第1号となったタイキノワールの14(牝 父:ストーミングホーム) 【馬市ドットコム様提供】

続いて開催されたのは、今や日本一のセリにとどまらず、世界でも有数のセリとなった「JRHAセレクトセール」でした。北海道の苫小牧市の「ノーザンホースパーク」において、7月13日(月)に行われ、238頭が上場され、210頭が売却されました(売却率は88.2%)。JRAはセレクトセール(1歳セール)において、牝2頭を購買しました。

セレクトセールの1週間後の7月21日(火)には、北海道静内町で「HBAセレクションセール」が開催されました。本年のセレクションセールには、231頭が上場され、166頭が売却されました(売却率は71.9%)。JRAは10頭(牡:6頭、牝:4頭)を購買しました。

7月セリの締めは7月28日(火)に鹿児島で開催された九州市場でした。21頭が上場され、9頭が売却されました(売却率は42.9%)。JRAは牝1頭を購買しました。

いずれのセリも多くのお客様が参加されており、さらに、昨年と比較すると売却率も上昇しており、非常に盛況な印象を受けました。これらのセリでの盛り上がりとともに、競馬全体が盛り上がっていくことを期待せずにはいられません。

 

JRA育成馬の入厩(宮崎)

さて、7月25日には宮崎育成牧場に八戸市場およびセレクションセールで購買した6頭のJRA育成馬が入厩いたしました。育成馬6頭は北海道静内を7月23日の15時に出発し、函館から青森間のフェリー経由で本州に渡り、42時間かけて宮崎に到着しました(写真2)。到着後に発熱を認める馬もいましたが、大事には至らず、放牧することができました。

Photo写真2.北海道から宮崎への長距離輸送の途中で、少し疲れた表情を見せるセイカシリアスの14(牝 父:パイロ)

セリ上場のために舎飼中心の個体管理が行われていた馬達は、自身が“馬”であることを再確認するかのように放牧地内を疾走します(写真3)。その後、特に牡は新しい群れの中で“我こそは”と強さをアピールし、群れの中での順位が決まるまでは、しばしば争いが繰り返されます(写真4)。そのため、放牧時のケガなどのアクシデントの発生にはハラハラさせられます。

Photo_4写真3.到着後の初めての放牧時に疾走する育成馬

このようなアクシデントを承知の上で、入厩数日後には夜間放牧を開始します。その理由は、“騎乗馴致”が始まるまでの間に成長を待つとともに“草食動物”として “馬”らしく行動させることが重要であると考えているからです。競走馬を取り扱う上で忘れてはならないことは、馬は“草食動物”であるということを理解することだと考えています。

Photo_5写真4.“我こそは”と自らの強さをアピールするフラワーパフュームの14(牡 父:シンボリクリスエス)

欧州では調教後に、ハミを装着したまま、放牧地の草を食べさせることも珍しくはありません。青草だけを食べさせる目的であれば、刈り取った青草を馬房で食べさせれば良いようにも思われます。しかし、地面に生えている草を摘んで食する行動そのものによって、“草食動物”としての本能が惹起され、メンタル面を安定させる効果が期待されます。

このように、欧州では、馬は“草食動物”であるということを常に念頭に置いて、馬と接しているように感じられます。私達もこの意識を忘れることなく、来年4月のブリーズアップセールまで馴致および調教を行っていきたいと考えております。

活躍馬情報(事務局)

8月2日の札幌競馬11Rクイーンステークス(GⅢ)におきまして、メイショウスザンナ号が優勝しました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、2011JRAブリーズアップセールにて取引された馬です。ここまで順調に調教・管理された関係者の皆様に心より敬意を表します。

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8月2日 1回札幌競馬2日目 第11R  クイーンステークス GⅢ 芝 1,800m

メイショウスザンナ号(グリーンオリーヴの09) 牝

【 厩舎:高橋 義忠 厩舎(栗東) 父:アグネスデジタル 】